16.師匠と弟子
初めて入るパントリーに、私は興奮した。
床から天井まで、所狭しと食材が並んでいる。
キョロ、キョロ、キョロ……
「ぷっ。お嬢さん、そんなに珍しいっすか?」
「だって、初めて来た場所だもの。それに、こんなに食材が、あるなんて。こんなにあったら、色々作れそう」
「えっ?色々ってなんすか?」
「あっ……実は、お父様に料理をしたいって言ったら、アフタヌーンティーに何か作って美味しければ、今後料理するのを許すって言われて……」
「マジっすか!?じゃあ、今から作るクッキーって、テストみたいなもんじゃないっすかーっ」
「あっ、確かにテストですね」
「じゃあ、頑張らないといけないっすね」
「はい!今後の私の人生のために!!」
「っ!!(マジ!?人生かかってるテストなの?俺、そんな重大な事、聞いてないんだけど)」
ベンが知らないどころか、アーサーもアニーもジョアンが興味本位でクッキーを作りに来たと思っていた。
「じゃ、じゃあ、まずは材料を選ぶんすけど……。
今後、料理をしていくんなら、材料をわかってないとダメっす。もちろん材料の良し悪しも。料理人ったって、ただ料理をするだけじゃないんすよ。(こんな事言ったら泣くかな?でも、料理をやるならやるで、ちゃんと教えないと、いくらお嬢さんでも……)」
ベンは、口調はチャラいけど、料理に関しては真面目だった。だから、アーサーはベンをジョアンの補佐に付けていた。
「はい、わかりました」
「じゃあ、クッキーの材料を自分で探してみましょー」
「はーい」
えーっと、小麦粉と砂糖とバターだから……。
バターは厨房の冷蔵庫だろうし、砂糖はコレで…小麦粉は…あら、粉類の区別がつかないわねぇ。パッケージに何も表記されてないし、どうしましょ?
あっ、こんな時のスキル頼み!【アシスト】のところに、無詠唱可能ってあったから(【サーチ】)と、心の中で呟く。
あら、あら、あら、便利ねぇ〜。
薄力粉、中力粉、強力粉、片栗粉、コンスターチ…一通り揃っているのねぇ〜。
「はい、小麦粉と砂糖です。あとバターは冷蔵庫ですよね?」
「せ、正解っす。やるっすね〜。(すげぇー、小麦粉の区別つくって。俺、未だに間違うことあるのに、まぐれだよな?)」
「ありがとうございます、師匠!」
「し、師匠!?」
「はい、だって、これから色々教えてもらいますから。先生とかの方が良かったですか?」
「い、いや、じゃ、師匠で。……よし!弟子よ。厨房に戻るぞ。これから、色々教えてやるけど、俺は厳しいぞ。ついて来れるかな?」
ベンさんは、チャラくて、真面目で、チョロかった。
「ふふっ。はい、師匠。ついていきます!!」
厨房に戻りバターを見つけ、クッキーの材料は揃った。
「じゃあ、とりあえず俺は何も言わずに見てるから、自分で思うようにやってみな。でも、わからなくなったら言ってくれ」
あら、師匠になったら、チャラい口調がなくなってるわ。
きっと、元々真面目な方だろうけど、コミュニケーションの為にチャラい感じをだしているのねぇ。チャラ男を演じてるなんて、どこかの芸人さんみたいだわね。
んで、口調が戻っていること、本人は気付いていないようねぇ〜。
「はい、師匠!」
「「「師匠ーっ???」」」
アーサー、アニー、サラが驚く。
そこまで、驚かなくても……ねぇ〜。
「そうですよ。私が無理言って、教えて貰うんですから、師匠です」
「ただ今、ご紹介頂きました〜師匠です」
と、胸を張るベンさん。
「オマエなぁ〜。知らないぞ、料理長が戻ってきたらーー」
「ん?俺が、どうしたって?」
「「「「「っ!!!!!」」」」」
休憩中だった、料理長のエイブさんが戻ってきた。
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