15.Let's Go
ーーーランチ後。
私は早速、厨房に向かった。
「お嬢様〜、何作るんです?」
サラが、興味深々で聞いてくる。
「うーんとねぇー、クッキーにしようかなぁと。簡単だし」
「良いですねぇー、好きですよクッキー。ん?簡単って、お嬢様作ったこと、ありましたっけ?」
「あっ、ほ、ほら、本で読んだのよ」
「本ですか?そんなの、ありましたっけ?」
「まっ、いいじゃない。ほら、着いたわ。すみませーん。お邪魔しまーす」
危ない、危ない。私は、5才の貴族令嬢。料理の経験なんて、あるわけないじゃないねぇ〜。
「アレ?お嬢様?どうしました?」
あっ、今朝会ったアニーちゃんがいてくれて、良かったわ。
「えっと、お願いがあって来ましたの。エイブさんはいらっしゃる?」
「えーっと、料理長は今、休憩中なんで……副料理長なら…。ちょっと待って下さいね。アーサーさーん。アーサーさーん。アーサーさーー」
「あーもー聞こえてるって。何だよ、アニー……って、お嬢様?どうしました?アニーが何かやらかしました?」
「いえ、アニーさんは何もしてませんよ」
「そーですよー。なんで私が、何かやらかしたって決めつけてるんですかー」
「いや、オマエなら何かやってそうで」
副料理長さん、ヒドイなぁ。えっ、サラまで頷いてる。
アニーちゃんって、そんな子なのかしら?
「あっ、で、お嬢様はどうしてこちらに?」
「あのっ、お願いがありまして……。アフタヌーンティーのお菓子を、私に作らせて下さい。もちろん、お父様の許可は貰ってあります」
「「えっ!!」」
やっぱり、驚かれるわよねぇ。
「ちなみに、何を作ろうと思ってるんです?」
「クッキーです」
「クッキー。じゃあ、その材料は知ってますか?」
「はい。小麦粉、砂糖、バターです。」
「(知ってんだ……)わかりました」
「えっ。じゃあ……」
「でも、条件があります」
「条件ですか?」
「はい。まず、行動にうつす前に何をしようとしてるのか教えて下さい。そして、何かわかんない事があれば、その都度相談して下さい」
《報・連・相》ね。
大切なことだわ。
「はい、わかりました。ありがとうございます。えっと、すみません……お名前教えてもらえますか?」
「あっ、俺はアーサーです。副料理長やらせてもらってます」
「ありがとうございます。アーサーさん」
「じゃあ、お嬢様の補佐に……あれっ?どこいった?おーい、ベーン」
「あい、あーい。ここにいるっすよ〜。なんすかー?」
「お嬢様がクッキーを作るから、ベン、補佐な」
「お嬢さんが?クッキー?マジっすか?」バシッ。
あっ、アーサーさんに、頭叩かれた。
アニーちゃん、サラ、笑わないで……私まで、笑いそう。
「ふふふっ。はい、マジです!!お父様たちを、ビックリさせたいんです!!宜しくお願いします。えっと……ベンさん?」
「あっ、はい、ベンっす。じゃあ、旦那様たちをビックリさせましょ、お嬢さん。じゃあ、パントリーへ、レッツゴー!」
「おぉー!!」
「「「っ!!!」」」
「ベンさん、お嬢様に悪影響だったんじゃ?」
「言うな、アニー。指示した俺が、1番後悔してる」
「でもお嬢様、前より楽しそう。あんなにニコニコして」
サラが初めてジョアンに会ったのは、ジョアンが1才、サラが8才。その頃からの付き合いだからこそ、クッキーを作ろうとするジョアンが、とてもイキイキとしてるのがわかった。
洗礼式で倒れ、帰宅した時は本当に心配した。【無】属性判定に、ショックを受けたことが原因とも聞いていた。だから目を覚ました後に、また癇癪を起こすんじゃないかと警戒していた。
でも、違った…それどころか、上手く説明は出来ないが、お嬢様は変わった。好き嫌いをせず、早寝早起きをし、サラたちに対して言葉遣いも態度も変わった。そして、自分から料理をしたいと言い出した……。
今も、ベンと一緒にパントリーに向かっている。後ろ姿からでも、楽しそうにしているのがわかる。
旦那様と奥様からは、しばらくお嬢様のやりたいようにさせろ、と指示を受けている。私は、指示された通りにお嬢様に付き合う。
でも少しだけ、以前とは何か違うお嬢様が、何をするのか楽しみなのは、自分だけの秘密だった。




