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《 なろうラジオ大賞 》

ふなふなくん殺人事件ーーーもふもふは正義

作者: 丹部柿太郎

「誰!?一体誰の仕業なの!?」


 お局の金切り声が響き渡る。

『お局』なんて言葉を口に出したら完全アウトなのはわかっているが、そうとしか言い様がない。


 昔ながらのこじんまりとした会社。社員は社長を入れても7人。高卒のお局は勤続20年のベテランで、彼女には社長すらも頭が上がらない。

 なぜなら経理を一手に引き受けていて、仕事は正確かつ迅速。他人に厳しく自分にも厳しい。


 そんな彼女は銀行から帰ってきたところで見つけてしまった。

 バラバラにくだけ散った『ふなふなくん』を。


『ふなふなくん』は、バブル時代にとち狂って作ってしまったらしい、自社キャラクターの置物だ。しかも瀬戸物。身長1メートルで、靴を履いたフナ(魚類)というゆるキャラも真っ青の斬新すぎるキャラクターだ。


 だがこの異様さが、逆に関心を引くらしい。長年の定位置、受付前に鎮座していた『ふなふなくん』。当然、社を訪れる人の目に入る。皆一様にギョッとする。で、これを肴に話が盛り上がる。

 それで上手くいった商談も山ほどあるらしい。


 そんな福の神のような『ふなふなくん』が無残なバラバラ死体になってしまったのだ。そりゃお局でなくても叫ぶだろう。


 俺は早々に自首することにした。

「すみません。犯人は俺です。ちょっとよろけてしまって」

「どうよろけたら、ここまで壊れるのよ!」

「すみません」

「まあまあ」と社長が間に入ってくれる。「彼はボーナスで弁償すると言っているから」

「ボーナス?どう考えても足りないですよね?」

「向こう二年分で」と俺。

 お局は眉を寄せ、事務所は静寂に包まれた。そこへ。


「にゃ~ん」


 やばいっ!

 焦る俺。

「…今の何?」とお局。

 そこへ再び。

「にゃんっ」


 お局は受付を回って裏を覗きこんだ。

 ああ。万事休す。


 実は。飼い猫が朝から調子が悪かったので同伴出社したのだ。社長に許可をもらい、こっそり倉庫にキャリーを置いていた。

 お局が銀行に行ったすきに、新入社員の可愛い子に見せようと、事務所に連れてきた。キャリーを受付に置き、入り口を開けたとたんに猫は飛び出した。段ボールを運んでいた社員の目前に。

 で、社員はよろけ『ふなふなくん』にぶつかり、倒れた『ふなふなくん』の上に段ボールが落ちた、というわけだ。


 お局はキャリーケースを手に取り、中を覗きこんだ。


「にゃーちゃん!!」


 なんだ今の猫なで声は?

 お局は見たこともないデレ顔をしている。もしや猫好きなのか?


 社長が起きたことを包み隠さずに話した。

「…と、いう訳で、元凶は猫なんだ」と社長。

 お局は途端に般若の顔になった。

「猫に責任はありません!飼い主の問題です!」

 そして高らかに叫んだ。

「もふもふは正義!」



 ◇◇



「…ですからにして、我々は二人が恋に落ちた瞬間を目撃したわけです」

 社長が祝辞を述べている。多少の誇張はあるものの、ほぼ事実だ。


 僕とお局の披露宴。高砂の前には二代目『ふなふなくん』が仲人がわりに鎮座している。

 厳しいと思っていた彼女は、僕が提案したこんなおふざけを受け入れてくれる人だった。


 もしも男の子が生まれたら、つける名前は決まっている。まさよしだ。もちろん漢字はアレなのだ。


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