街に転移したら戦場でした
「コンピューター、これはどういうことだ?」
『イエス・マイロード 現状では分析ができません。 衛星軌道上の本艦からの映像解析では、至る所で建物の破壊、戦闘、略奪行為が行われており、火災も発生しております』
エンタープライズのモニターで見た街中の公園に転移したものの、想像していた綺麗な街並みは見る影もなく、至る所から煙が立ち並び、逃げ惑う人々の姿ばかりが目に付く。
僕は事態を把握するために、逃げ惑う人々をかき分けて、いまだに戦闘音が続いている方へと走り出す。
ちなみに、エンタープライズの補助を受けるために、胸元にクロスペンダント型のディバイスを装着しているが、このペンダント単体でも8エクサフロップスの演算能力があり、本艦のコンピューターともれ同している。
「コンピューター、現在戦闘が行われている中心までの道案内を頼む!」
『イエス・マイロード 現在の戦闘の中心は、街の南門から200mの位置にあります。前方の十字路を左に曲がってください。その後30m先を右方向です。襲撃している敵の人数はおよそ80程です。使用している武器は、剣、弓矢、魔法と推測されます。』
「――ちょっとまって、魔法って言った?」
『イエス・マイロード この星の大気には十分な魔素が存在しており、概念さえ理解できれば魔法の使用が可能です』
驚いたことにこの世界は魔法が簡単に使えるようだ。地球でも異世界からの転生者が伝えた魔法が存在しており、魔素が薄いものの、ある程度の簡単な魔法は使用できた。最近では宇宙空間の魔素を取り込み、地球に電力として供給するシステムまであるそうだ。
「魔素があるなら――脚力強化!」
魔法を使う場合は呪文を唱えて強いイメージを持つことで発動できるけど、僕の場合は詠唱省略が可能なため、最小限の呪文で発動できる。いざとなれば無詠唱でも発動できるが、言葉にした方が効果が高い。
脚力強化の呪文により、あっという間に路地を抜け大通りに出ることができたのだが……
「――ちょ、おま、なんでモヒカンが居るんだよ!」
石畳で出来た大通りは道幅20m程で、左右には商店らしきものが並んでいるが、ほぼすべての店舗から火の手があがり、逃げ惑う人々を、馬に乗ったモヒカンが追い回していた。
「ヒャッハ――! 泣け! 叫べ! そして燃えろ!――ファイアーボール!」
モヒカンが掲げた手から野球ボールくらいのファイアーボールが飛び出し、まだ火の手が上がっていなかった建物に命中する。
ボンッ!という破裂音と共に火の手が上がり、中から焼け出された中年男性が飛び出してくる。
卑下た笑みを浮かべながら、モヒカンが剣を振り上げて、いましがた出てきた男を切りつけようとしていた。
目の前で行われている行為に驚きを隠せないでいたけれど、異世界での勇者パーティー生活で身に付いた人助けの心が僕の体を動かした。
「やめろぉぉぉぉ!!」
【スキル:アクセルブースト発動】
【スキル:天駆発動】
【スキル:筋力超強化発動】
異世界で習得したスキルが、僕がとるべき行動に合わせて自動起動してくれる。
今にも切り捨てられそうな男とモヒカンの間にギリギリで立ちふさがるが、腰に下げている剣を抜く間もなく、相手の剣が僕の体を袈裟切りにしようと迫ってくる。
【スキル:オートリフレクション発動】
ガギィィン!! バキンッ!
「まっ、間に合った! さすが異世界の魔法、超便利!」
オートリフレクションの武器破壊効果でモヒカンの剣が砕け散った。
【スキル:オートカウンター発動】
「ヒッ、ヒィィィ、おっ、おまっ、お前はなにも――アベシッ!」ボグシャァ!
驚いた馬が嘶き走り去っていく……馬上の頭部を失ったモヒカンが投げ出されて地面にドサリと落ちると、足元から「ひっ!」と、小さな悲鳴が上がった。
「大丈夫ですか? ケガとかしてませんか?」
「すっ、すまねぇ、助かった……くそっ、俺の店は燃えちまったが命は無事だっ、俺は雑貨屋のエギルだ! この礼は必ず返すからなっ! あんたも早く逃げろ! 自警団はみんなあいつらにやられちまった! 今はこの先の広場で衛兵が戦っちゃいるが、劣勢だ……長くはもたんぞ!」
「わかった、おっちゃんも逃げろ! 北門の方は無事だからそっちに行くといいよ」
おっちゃんはもう一度お礼を言うと、北門の方角に一目散に避難していった。
「コンピューター、今のモヒカンの戦闘力を分析できるか?」
『イエス・マイロード 戦闘モーションの解析結果から、筋力戦闘LV10以下、魔法戦闘LV15以下と推定されます。使用していた魔法は極小のファイアーボールです。呪文の詠唱が不適格なため、威力が十分でないことが推測されます。』
「……あのモヒカン、呪文使ってたっけ?」
『イエス・マイロード “泣け! 叫べ! そして燃えろ!――ファイアーボール!”この部分が呪文として機能しております。』
モヒカンのレベルは異世界基準でいうならば、平民以下であり、生活魔法を使える程度しかない。
でも、この世界の人々にとっては、それすら脅威になりえるかもしれない。
今は苦戦している衛兵を助けよう。そう思って広場に出たものの、自身のオートカウンターが発動してしまうため、敵と間違われて攻撃された場合、衛兵にカウンターが発動して死んでしまう恐れがある。
どうしようかと考えていると、衛兵の一人が叫び声を上げた。
「デガリア様がご出陣なさったぞ! 隊列を組みなおして敵を押し返せ!」
しばらくすると、後衛の兵士が二手に割れて、中央を歩いてくる一人の少女が目に留まった。
真っ赤なマントを羽織り、真っ赤な三角の魔女帽子をかぶった金髪碧眼の美少女だった。
すらりと伸びた細い脚には、白のハイソックスとピンク色の靴を履いており、かなり際どいピンクのミニスカートから覗いた太ももが美しい。
全体的に線が細く、整った目鼻立ちをしているにもかかわらず、ピンク色のブラウスに押し込められた豊かな双丘は、身長150㎝も満たない少女に似つかわしくない程立派なものだ。
そんな少女の手には、自身の身長と同じくらいの長さのステッキが握られている。
よく魔法少女が手にするような、白地に金細工が施されており、持ち手の部分には薔薇の意匠が施されており、先端には赤くきらめく宝石のようなものが取り付けられている。
「間違いない……魔法少女だっ、しかもあれは絶対に魔法使いサリーちゃんをイメージしているよね、微妙に他のも交じってるみたいだけど、元ネタが何かわからないや」
デガリアと呼ばれる少女が現れると同時に、戦闘をしていた衛兵が後退をはじめる。そして、少女が入れ替わるように前に出ると、特大のステッキをモヒカン達に向けて振り上げる。
その瞬間、少女の体が白いオーラのようなものに包まれ始めた。
「あの女の子、物凄い魔力を持ってるみたいだけど、魔力の使い方がわからないみたいだね、あのままじゃすぐに魔力切れを起こして倒れちゃうかもしれない。」
「コンピューター あの子の魔力値の計測を頼む。」
『イエス・マイロード 現在出ている魔力は可視化できるほど高濃度ですが、毎秒200エーテル程消費しております。通常のファイアーボール5発ぶん程浪費しております。内包量は推定6万エーテルです。継続時間は5分程と推定いたします。』
戦闘が長引いた場合、少女は魔力枯渇に陥ってしまうだろう。そうなる前に決着すればいいけど、長引くようだったら介入して手助けしよう。そう思った時、少女が動いた。
「―――魔 破 莉 駆 真 覇 理 侘―――!!」
ドゴォォォオーーーーン!!!
目の前で起こった惨劇に思わず「違うだろぉぉぉおおお!!!!!!!!!!」と、ツッコミを入れてしまった。
白いオーラを纏った少女が呪文を唱えたのだが、ステッキから魔法を出すのではなく"直接ステッキで”相手を攻撃したのだ……