地球から発信した日本の漫画・アニメ文化が他の惑星で大変なご迷惑をおかけしていたようです
新天地を求めて宇宙へ飛び出し、転移スキルを何度も使ってたどり着いた惑星は、僕が覚えている昔の地球の姿によく似た青い星だった。
「コンピューター、惑星の地形データと大気のスキャニングを頼む」
『イエス・マイロード』
エンタープライズ(仮)のスキャニング機能によると、大気も2000年代の地球と酷似しており、文明の明かりのようなものも観測できた事に驚きを隠せない。
さらに、地形データを眺めていると、地球と殆ど同じような大陸の配置が見て取れる。
「まさか、日本にそっくりな島があるなんて、思いもしなかった」
僕はこの惑星に『テラ』と名前を付けた……
調査の途中、惑星の衛星軌道上にボイジャー5号を発見したので、エンタープライズ(仮)のトラクションビームで回収してみると、データログを漁ってみる。
ボイジャー5号がこの惑星に到達したのは、今から約1000年程前で、地上に日本文化が詰まったカプセルを投下してからはスリープモードと観測モードを繰り返していたようだ。
スペースデブリが周囲にまったくと言っていいほど存在していなかったようで、1000年もの刻を衛星軌道上で漂っていたと言うことになる。
「お疲れさん、ボイジャー5号、君はしっかりと役割を果たしたんだね…… ありがとう、君が残してくれたデータ、大事に使うよ、おやすみ……」
僕はボイジャー5号をシャットダウンすると、回収したデータの解析を行うことにした。
データストレージに入っていたのは、無音の映像と地表付近の高精細な写真、気象状況などのデータで、1年に付きおおよそ5分のショートムービーが1000年分、つまり5000分の映像が残されていた。
「コンピューター、ボイジャーの映像を再生してくれ」
『イエス・マイロード 映像を解析し、変化があった部分をチャプターにしますか?』
「そんなこともできるのか? だったら、変化がない部分を大幅カットしてもいいよ」
さすがは未来のコンピューター、至れり尽くせりの超機能が満載されており、あっという間に5000分の映像を120分の映画に仕上げてしまった。もちろんBGMや、コンピューターが状況を分析した独自の解説字幕もついていた。
僕はコーラとポップコーンを用意して、椅子に座って再生ボタンを押した。
おっ、ボイジャーが惑星の周回軌道に入った!
カプセル投下のシーンは壮大なBGMが流れ、大気圏に突入していくシーンがクローズアップされていて、胸を熱くさせてくれる。空中で細かなユニットに分裂していく時にはスローモーションになり、悲しいイメージのBGMが流れて、不覚にも僕の目から涙が流れた。
ボイジャー5号のカメラは、散り散りになって飛んでいくユニットの一つを捉えつづけており、日本によく似た島に落下していく様子を克明に記録している。
「あっ、パラシュートが開いた!」
カメラは最大望遠になり、落下予測地点を捉えているようで、のどかな畑が広がる山間を映し出す。
「……人がいる!? あっ、畑のど真ん中に落ちたのか、ははっ、びっくりして尻もちついてるよ、日本の縄文人みたいな恰好してるね」
どうやらこの惑星には人間によく似た生命体が存在しているみたいだ、一度現地調査を兼ねて地上に降りてみようかな……
そんなことを考えていたら、画面が切り替わって『100年後……』という文字が表示された時、思わず二度見してコーラーを噴き出してしまう。
そこに映し出されたのは、のどかな畑が見る影も無く焼け落ち、木造の砦のようなものがいくつも作られており、人々が槍や弓を手にして殺しあう姿だった。
「どうしてこうなった?」
『イエス・マイロード 現地住民が空から飛来した日本文化を『聖遺物』または『天からの贈り物』として、奪い合いを始めた模様です。このシーンにタイトルをつけるなら、『地球から発信した日本の漫画・アニメ文化が他の惑星で大変なご迷惑をおかけしていたようです』といった表現が妥当かと思われます』
僕は口元をハンカチで拭いながら椅子にもたれかかり、天を仰ぎながらつぶやいた……
「こんなことになるなんて……」
僕が異世界に旅立った後も、かなりの数のロケットが太陽系外に飛ばされていることを知り、日本文化がどれほど迷惑をかけているか想像して眩暈を覚えた。
しかし、まだ奪い合い程度ならこっそり行って回収してくれば収まるだろう、100年間も奪い合いをするなんて、不毛にもほどがある。
「コンピューター、続きを再生してくれ」
『イエス・マイロード ~300年後 文明の発達~を再生致します』
再び映像が流れると、今度は街の映像が映し出されている。画面の字幕には『落下地点の300年後の風景』と表示されているが、畑だった場所には乱雑ではあるものの、小さな道路や木造の家が立ち並び、沢山の生命体が歩き回っている様子が見て取れる。
「戦争は無事に終わったのかな? 日本文化を平和利用して発展したっぽいよね」
『イエス・マイロード 戦争によって様々な道具が生み出された結果、土地の開拓や食料の確保が容易になったようです。日本文化に関しては、一部の権力者が隠蔽した模様です』
「ナイス! 権力者賢いわ~ 争いの種が無ければ平和になるんだね」
そして映像はシリアスなBGMと共に、500年後と表示された字幕に切り替わると、戦火に包まれた街並みが見える。
「コンピューター…… なんで?……」
『イエス・マイロード 各地に散った聖遺物をめぐる争いが再び始まったようです。発展した土地にはほぼ確実に聖遺物が隠されており、他の権力者が奪いにやってきたようです』
「そうかぁ、やっぱり隠し通すことはできないんだね」
『イエス・マイロード 現地住人は最初のうち、漫画等の挿絵から、便利な道具を生み出したり、ヒントを得ながら文明の発展を遂げていたようですが、便利になるにしたがって、格差も広がっていったようです。不満をもつ者達が決起し、争いの火種となったようです』
映像はさらに進み、800年と表示されるまでの間、幾度となく戦いが起こり、街ができては消え、建物が建っては消えるのを繰り返した。
そして、900年と表示されたところで壮大なBGMが流れると、映像が徐々にフェードインしていき、石造りで区画整理された立派な街並みが映し出されていた。
街中には3階建てくらいの建物もあり、噴水や公園も見える。一番驚いたのは、街中にシンデレラ城のような立派な城が建っていることだ。
映像は徐々にズームアウトしていき、街の全貌が見えてきた。映像解析の結果が画面左上に表示されているが、東西に4Km、南北に6Kmの長方形をしていて、城壁でぐるりと街を囲っているのがみえる。
「すごいな~これ、もはや王国って言ってもいいくらいの都市だよね?」
『イエス・マイロード 戦争を勝ち抜いた一部の者が、このように都市を作り上げ、民をまとめ上げているようです。この惑星の各地に存在しており、形や文化、文明レベルはそれぞれ違います』
残念ながら映像はここまでのようで、カメラの故障なのか何も映っていなかった。
最後に見た映像は今から100年前の映像であり、十分な文化レベルが見て取れたので、これなら地上に降りて生活するのにも不便はしなさそうだ。少なくても僕が飛ばされた異世界よりは快適で過ごしやすそうだと思った。
エンタープライズに静止軌道上での待機を命令して、異世界で着ていた服や装備を身に着けた僕は、『ちょっと観光に行ってくる』つもりで、今まで映像で繁栄を見守ってきた街まで転移した……