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異世界にて

 突然の衝撃と浮遊感で目を覚ますと、僕の体は宙を浮いて車両の前方に向けて飛んでいる。

 同じように目の前には飛んでいる人たちと共に、慣性の法則に従って僕は壁に叩きつけられた。

 最後に見えたのは遅れて飛んでくる人たちと爺ちゃんだった……


 種子島宇宙センターからの帰り道、僕達が乗ったリニアが事故にあい、乗っていた乗客の半数が死んだ……


 僕が目を覚ますと、異世界転生ものでお馴染みの白い部屋にいた。

 父が趣味で集めたという小説の中には、当然ライトノベルと呼ばれるジャンルのものもあり、2010年代に流行した大半の異世界転生ものによくあるパターンだとすぐに理解できる。

 目の前に女神様とか神様が居ないのは、きっとたくさんの人が同時に亡くなったからに違いない。

 体感で3時間程待ったころ、目の前に女神さまが現れて、転生先の状況説明とお決まりのスキル選択が始まり、すでに待ち時間の間に大方の予想と共に結論を導き出していた僕は、5分もかからずに転生を果たした。


 転生先の世界は世界史で勉強した中世ヨーロッパ風の世界に魔法を組み込んだような世界で、魔王も魔獣もエルフもドワーフも存在していた。

 女神の話では、こういった世界はそれこそ宇宙の星の数ほど存在しているらしく、天国に行くか異世界に行くかの選択の違いでしかないらしい。

 特にノルマというものは無いが、魔王を倒すと特別ボーナスで、地球に帰ることができるようだ。


 文化レベルがあまりにも低い異世界生活するのはあまりにも大変だ。

 まず不衛生で、すぐに食あたりを起こすし、糞尿は町中にあふれていてとにかく臭い。

 毎日死んだ魚のような目をしながら、味のしないパンと原料が良くないスープを飲んで生活をした。

 ライトノベルの主人公たちは、よくこんなところで生活ができたなと、僕は感心した。


 冒険を始めて1年が過ぎたころ、王女様が乗った馬車を盗賊が襲っていたので助ける事になり、ようやく冒険者から勇者パーティーにクラスチェンジできた。

 ご都合主義が本気をだすかと思いきや、王女様は行き遅れた三十路だし、勇者パーティーは殆どが男ばかり、紅一点だと思ってた僧侶のお姉さんに告白するものの、まさかの男だった。

 勇者パーティーと冒険をしているうちに、たくさんのスキルやステータスを得ることができたが、失ったものも多かった。特に僕の貞操とかが……大きいお姉さんに一度掘られた。

 

 異世界に来てからかれこれ5年が経とうとしていた頃、行き遅れの王女に結婚を迫られて窮地に陥った為、魔王を討伐して地球へ帰ることにした。

 魔王の大陸はご丁寧に地図に記されていて、距離も方角も記されており、挿絵まで添付されていた。

 こんなところでご都合主義が発動する何てね……


 数多のスキルを取得して、聖剣に聖鎧まで装備したものの、魔獣はびこる魔王城に素直に足を運ぶ気にはなれず、遠距離からの魔法攻撃と、転移魔法で岩山ごと成層圏に移動してそのまま落としてやった。

 勇者パーティーの面子は、僕が究極魔法メテオストームを使ったのだと報告を上げていたので、何も言わずに横で頷くだけにしていた。

 盛大な祝勝会が開催された日の晩、初めて飲んだ酒に酔った僕は行き遅れで34歳になった王女様に押し倒されて、20年間守り続けた童貞を捨てることになってしまった。

 翌朝目が覚めて布団をめくると、全裸の王女様が隣に寝ていた時は驚きのあまり過呼吸になり、王城の医務室に運ばれてしまった。

 あまりの出来事に呆然としていると、遅れてのこのこやってきた女神が、地球に帰りたいか?と聞いてきたので、二つ返事で返してもらう事にした。

 途中で女神さまが『この世界に未練はないのですか』と、何度も聞いてきたのだが、僕は黙って首を横に振り続けた。


 魔王討伐のボーナス特典で、取得しているスキルと肉体年齢をそのまま固定にして、地球に送ってもらえる運びになった。

 女神は返還時の説明等を小一時間続けていたが、帰れる喜びに酔いしれていた為殆ど聞いていなかった。

 最後に勇者パーティーと王女様に別れを告げると、王女様からは聖剣と聖鎧と熱いキスと抱擁をもらい、他の面子からは路銀とこの世界のレアアイテムをいくつかもらった。

 少し胸が熱くなり、感情が高ぶりすぎたのか、せっかく貯めておいたダイヤモンド等の鉱石をみんなに少しずつ配った。


 女神様に念話で準備が完了したことを告げると、全身から金色のオーラが噴き出す派手な演出の元、ようやく地球への帰還が開始された。

 この世界に未練はない…でも、みんないい人たちだった……。 

 飛び切りの笑顔で手を振ってみんなと別れた。



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