地球から日本の漫画・アニメ文化を宇宙に発信した
2068年、高校二年生の夏休み、僕は爺ちゃんと共に種子島宇宙センターを訪れていた。
「流星や、おまえは何をボイジャー5号に乗せるんじゃ?」
「僕は工業高校で作った超長距離ビーコンを載せるよ、爺ちゃんは何を載せるの?」
「ワシはな、婆さんが昔読んでおった漫画とちょっとした玩具じゃ」
「ふーん……」
爺ちゃんと婆ちゃんは、その昔、コミックマーケットと呼ばれる紙媒体の同人誌を販売するイベントに参加していて知り合ったらしい。
父親も母親も似たような出会いをしており、コスプレイヤーとカメラ小僧という組み合わせだったと聞いていた。
そんなオタク一族から生まれた僕だってそれなりにオタクであり、昔から家に置いてあった古い漫画や、今は再生する機器を入手することすら困難なブルーレイアニメも、我が家ではまだ見ることができた。
「ねぇ、爺ちゃん、昔の漫画って、どんなの入れたの?」
「魔法使いサリーちゃんと魔法少女リリカルなのはじゃよ」
「……リリカルなのはってやつは知ってるけど、サリーちゃんってやつは知らないよ」
「そうじゃろな~ 婆さんのお母さんの世代の漫画じゃからなぁ、ちともったいない気もするが、復刻版のコピーじゃし、ええじゃろ」
「いくら日本の文化を宇宙に飛ばすって言っても、流石にそれはまずいんじゃないの?」
「かぁ~っ! 流星はわかっとらんの~ 今の日本経済をささえておるのはジャパニメーションと観光産業じゃぞ? 今日の打ち上げだって、アフリカのオタクたちが出資して実現しておるんじゃ、あちらさんの国じゃぁ、2020年から放送が始まった日本の1980~2010年代アニメが大人気で『はいはい分かったってば』なぁ……流星ちゃんと話を最後まで~」
「爺ちゃん僕たちの順番だよ、早くコンテナに入れなよ」
「おお、もう順番か、無事に打ちあがるといいのぉ~」
2050年以降、今までの途上国が急速に発展を遂げ、地球はかつてないほどの好景気に沸いた。
先進国と呼ばれる国が増えた為、日本の最先端も遅れをとるようになり、外貨を獲得するために文化の輸出を始めた。
特にアニメや漫画といった文化が世界各国でさらなる流行を見せ、聖地巡礼と、称される日本観光が一大ブームとなり、昨今では外貨の8割を占める一大産業となっている。
GUNDAMをはじめとする宇宙戦争ものが流行するや否や、日本のロボット開発企業と宇宙工学分野に、莫大な投資が開始され始めた。
今日のイベントもそういった先進国の要望と資金提供を受けて行うものであり、日本の唯一の最先端技術である宇宙分野に、大いに期待しての事だ。
お金を出せばだれでも成層圏にある宇宙ステーションまでは行けるものの、人類はいまだに太陽系を抜けることも、月への移住をすることも叶わないでいる。
ロケットを使っての文化の打ち上げは、スイングバイによって太陽系外に自分たちの存在をアピールする狙いがあり、あわよくば猫耳が生えた宇宙人からのあそびにいくヨ!というメッセージを受信できないかと、真剣に考えている人たちの夢であった。
多くのアフリカ系外国人が歓声を上げる中、僕のビーコンとみんなの夢を乗せたロケットは轟音と共にまばゆい光を放ちながら、あっという間に雲の中に消えていく。
果たして無事に高度な文明を持つ同じような生命体が闊歩する世界にたどり着けるのか……
そんなことを思いながら爺ちゃんと帰りのリニアに乗り、僕は深い眠りについた……
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