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魔法じゃない、超能力だ  作者: 一川一
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そして戦いへ 3


 正直俺は浮かれていた……。


 魔物を圧倒できる力を手に入れ、空も自在に飛び回れる。


 予想もしていなかった力に目覚め、超能力という万能感に酔っていた。その酔いは傷だらけのティアラの姿を目にした瞬間――、一瞬で冷めた。


 上空から急降下した俺はサイコキネシスでデーモンの体を引き離すとどっとわき上がった怒りをぶつけた。そして激しい戦闘を思わせる傷だらけのティアラを抱き支えた。


 見れば見るほど悲惨は姿だった。綺麗な顔は変色して腫れ上がり、両腕はだらりとたれてその手は歪にゆがんでいた。なによりえぐられたような胸が真っ赤に染まり傷の深さを物語っている。


 俺がもっと早く力に気づいていればこんな悲惨な光景を目にすることはなかったはずだ……。そう思うとやるせない。


「すいません……俺」

「いや……責めているわけじゃないんだ……感謝しているんだ……ありがとう」


 痛々しい笑みを見ているのが辛かったが、俺は目を背けることなく頷いた。


「きっと……酷い顔をしているのだろうな」


 必死に隠しても顔に出ていたのだろう。


「心配しなくてもいいさ……とっておきのポーションがある……だからそんな顔をするな……傷なら癒せる」

「ほ、本当ですか?」

「ん? ああ……もちろんだ」


 ティアラは腰にさげた革袋に視線を落とす。


「すまない……両手がこのとおりでね……飲ませてほしい」

「は、はい――」 


 ティアラを地面に座らせると失礼して革袋をあさる。小瓶をみつけて取り出すとティアラは頷き口をひらいた。俺は仄かに発光しているエメラルドグリーンのとろりとした液体をゆっくりとティアラの口へと流し込んだ。


「おっおお……」


 思わず感嘆の声がもれた。効果は劇的だった。顔の腫れはひきはじめ、胸から流れていた血もとまり傷口も再生しているように見えた。


「ありがとう。魔法に比べれば時間もかかるが……じきに治るさ」

「良かった……」


 それでもまだ自分を支えることはことはできそうにないので木の根にもたれかけさせた。血の気の失った顔にも朱がさしはじめて回復していく様子が見てとれた。


「本当に……良かったです」

「……君は優しいな」


 他にも何か言いたげだったが、ティアラは俺を安心させるかのように微笑んでいた。しかし――突然、顔をしかめて森の奥へと視線を移す。


「どうしました?」

「まだ……終わっていなかった」


 必死に立ち上がろうとするティアラが何に気づいたのか? 


 答えはすぐにわかった。そして薙ぎ倒された木々を踏み砕く音と共に現れたデーモンの姿を見て俺は舌打ちした。


「無傷かよ……」

「異常に再生能力が高いとは思っていたが、これほどとは……」


 土埃で汚れてはいるものの、足取りもしっかりしていて傷らしいものは見当たらない。しかしその顔には静かな怒りを抱えているようだった。


「正直驚きましたよ……不意打ちをはいえこのワタシが虫けらごときに土をつけられるなんてね」


 敵意は俺に向けられていた。普段なら歓迎しないがいまは好都合だ。俺はティアラをかばうように立ち塞がった。


「すまない……いまの私では囮にすらなれそうにない」

「大丈夫――そんなことさせません」


 絶対にしないしさせない。それに俺は――。


「もう逃げるつもりはないです……あの野郎をぶっ倒しますっ!」


 宣戦布告のつもりだったがデーモンは嘲笑っていた。


「本当に不愉快な虫けらですねぇ……風魔法が使える程度で……名持ちのワタシに勝てるつもですか?」

「?」

「――っ!」

「ふふふっ驚きで声もでませんか……我が名はタルウィ……この姿を目にできたことを光栄に思いながら後悔なさい!」


 横行しく両腕を広げたタルウィの体から禍々しい紅いオーラのようなものが吹き上がるとその姿が変態していく、体は二倍以上に膨れあがり、頭に生えていた角は燃えさかる炎のように伸び、その顔も動物じみた変化を見せ、聖書に記された悪魔そのもののような姿へと変貌をとげた。


 見るからに禍々しい姿が俺を威圧してくる。俺一人なら逃げ出していたかもしれない。だが俺の背中には守りたい人がいる。そして目の前には彼女を傷つけた糞野郎がいる!


「ケイジ……私のことはいい……逃げろ」


 背中越しに見た彼女の顔には怯えの色が見えた。


「名持ちのデーモンとはつまり……ハイデーモンのことだ。君も感じているだろう……人ひとりの力では到底及ばない圧倒的な魔力を……。気づくべきだった……あの異常な再生能力はデーモンを凌駕してた。討滅するには数がいる……ケイジは急いでギルドにこのことを伝えくれ……お願いだ」

「言ったでしょ……俺はもう逃げません」

「ケイジ……」

「本当はティアラさんをみつけたら逃げるつもりでした……。俺は喧嘩もしたことがないような甘っちょろいガキだから勢い込んだところで悪魔相手に殺し合いなんてできない……そう思ってました。でも……そんなこと言ってる場合じゃない。覚悟を決めなきゃ守りたい者も守れない。戦うことから目をそらしてうちに誰かが傷つく姿を見た今ならそれが実感できる。だから俺は――逃げませんっ!」


 黙って聞いていたタルウィが心底愉快そうに笑い出した。


「実に愉快なロマンスだ。愛する者のために盾となり死を選ぶ……しかしざぁーんねん。死ぬのはその女の後です。貴様はたっぷり痛めつけたあとに四肢をもいで特等席に串刺しにしてやりますからねぇ。その後はお待ちかねの公開拷問強姦ショー! その女が苦痛と快楽で狂うさまを間近でご覧あれ! ふふふふっあはははははっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!」


 ティアラの怪我を見たときに覚えた違和感の正体がようやく理解できた……。


「反吐がでそうだ……覚悟しやがれゲス野郎!」

「頭の悪い人間だ……タルウィ様と呼べええええええええっっっっっっっっっ!!!!!!!!」


 突進してきたタルウィのかぎ爪が一閃すると離れた木々をも巻き込んだ斬撃が大気を切り裂く。しかし――俺の元には刃どころか斬撃すら届かなかった。


「馬鹿な……レジストしただと?」


 絶対的な強者の顔にはじめて驚愕の色が浮かんだ。



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