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魔法じゃない、超能力だ  作者: 一川一
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そして戦いへ 1


 視界など黒一色と言い切っていいような暗い森をひた走る。


 息を切らし、木々にぶつかろうとも大樹に道を阻まれようともこの足を止めることはできない。


 追っ手がゴブリンやオークなら逃げ切れたかもしれない。だが追跡者は四足歩行の獣じみた魔物だった。


 こんな視界も足場も悪い森のなかをここまで逃げられたのが奇跡のようだがいずれスタミナも尽きる。そうなればいっかんの終わりだ。


 しかし俺は恐怖よりも恩人を見捨て、その意思すら成就されられないことにいきどおりを覚えていた。


 情けねぇ――ホント情けねぇ――。


 逃げ切れる見込みもないのに逃げ続け、疲れ果てた俺は抵抗すらできずに喰い殺される……。


 それは既に生きることを諦めているに等しい。ティアラが命懸けで逃がしてくれたのに、その好意すら踏みにじる。


「最悪じゃねーかそんなやつ!」


 俺は覚悟を決めた。勝機がなかろうが何もしないよりはマシだ。俺は勢いを殺さずに視界に入る魔物へと飛び掛かった。


「どりゃああああああああああっっっっっっっっ!!!!!!!!」

 

 そして目につく急所――赤い眼球へと爪を立てる。しかし――その手は難なくかわされ、バランスを崩した俺は地面に転がった。


「やっぱ俺じゃダメかよ……」


 立ち上がったときには既に囲まれていた。威嚇する唸り声が近づいてくる。活路を開くつもりだったが一気に窮地に立たされたようだ。それでも……。


「諦めねーからな……でなきゃ何しに生き返ったんだかわかんねーからよっ!」


 生前は諦めのいい方だった。無理なんてしなくてもなんとかなるのでそれでよかった。しかしそれはぬるま湯のような環境だったから許されたこと。だがここはそんな生やさしい世界ではない。


 すぐそこに死が待ち受けている世界。理不尽なんてちゃちな言葉は言い訳にもならない。いまこのときだからようやく実感できた。


 潔く戦うしかない現実を受け止めて脈拍が上がる。駆け回ったせいで鼓動はバクバクなのにその上さらに高まる。今にも襲いかかろうとする魔物を睨みつけて俺はただ戦うことに集中した。


 とぎすまされた神経がはじめて闘気と呼べるものを感じとった。俺はその気配を避けるようにその場を飛び退くと、闇の中から突如として現れた魔物の攻撃をかわしていた。


 危なかった……。


 しかし安堵などできない。こいつ等の瞬発力は俺の目では追えないことがはっきりした。逃げ切れないという考えは正しかった。こいつ等は……いつでも俺を狩れたのだ。


 ならば何故一気に攻めてこないのか?


 疑問が浮かぶ。警戒していたのか。あるいはなぶり殺しでもしたいのか……。


 考えても答えは浮かばなかった。ただ魔物たちの目がすわったように見え、油断が消えたように感じられた。瞬間――。


 先ほどにも勝る気配が左右から迫る。咄嗟に背後へと飛び退き間一髪かわした。そう思った俺はしたたかに背中を打ちつける。


「しまっ――っ!」


 大樹が俺の逃げ場を塞ぎ、それを見越していたであろう魔物が前方から襲いかかってきた。


 咄嗟に突き出そうとした腕も振り切れずに魔物の牙が俺の頭を噛み砕く方が早い――そのはずだった。


『物理攻撃をレジストしました』


 突如、頭の中に流れた言葉の意味を理解する間もなく魔物が弾け飛ぶ。まるで見えない壁にでもぶつかり弾き返されたような光景だった。


 俺がわけもわらず唖然とするなか、再び流れこんできた言葉が魔物の攻撃を防いだこと告げる。そしてその言葉に正解を告げるように魔物が弾き飛ばされていた。


 なんなんだいったい?


 攻撃を無効化した? 


 そんな馬鹿なという思いとは裏腹に、弾き飛ばされた魔物はダメージこそ受けていないものの、困惑した表情を浮かべながら立ち上がると警戒の色を見せた。


 どうやら現実らしい。急におきたでたらめな現象に助けられた。


 ひょっとして誰かに助けられたのかと考えたが、頭の中に流れ込んできた言葉の説明がつかない。


「もしかしてこれが俺の……」


 力なのか?


 まるで夢でも見ていたかのような希薄な記憶を思い起こす。たしか『……君に理解しやすいようにインターフェイスをかえておいた……』そんなことを言っていた。


 今のがそれか?


 頭の中に流れたその言葉を例えるならウインドウ表示されたメッセージような感じだった。他にも何か表示できるのではないかと考えるとスキルというバーが浮かぶ。


 ボタンらしいそれをどうやって押し込むのか悩むまでもなく意識しただけで新にウインドウが開いた。そして――。


『念力』☆

『EPS』☆


 と表示された。


 なんだこれ?


 魔法名でも書かれていたら少しは受け入れられたと思う。なのに表示された二つの言葉はまるで――。


「超能力……?」


 異質……ユニーク……そんなことを言われていたのであながち間違いとも思えない。しかし……。


「スプーン曲げたりするアレだろ?」


 どうすんの? 凶暴な魔物相手に――と焦ったが、先ほどの現象を思い起こしてみれば……。


「使える……のか」


 あの凶暴な一撃を無効化できたぐらいだ。理屈はよくわかないが機能して役に立っているということだろう。


 つまり……使いこなせれば反撃できる?


 このまま逃げるという考えが思い浮かばなかったわけじゃない。だが戦えるかもしれない力があるのなら……。


「俺は戦うっ!」


 それには自分の力をもっと知る必要がある。俺は戦闘の真っ直中なのを承知で意識を集中した。


 レジストしたのは念力の方か?


 ヘルプでも表示されればいいのだが、そこまで便利ではないらしい。


 ESPってのはカード当てなんかで聞いた力だ。おそらくは感覚的な能力ではと当たりをつける。


 この星マークが謎だが、ゲーム的な表示と考えるならレベル的なものではなかろうか?


 つまりこの星を増やすことで力が増す。攻撃手段がうまれるのでは考えた。すると――。


『神の祝福により力が付与されます』


 と星が二つ表示された。


 ひょっとしてこれ、振り分けできるのか?


 意識を念力に向けると星が増えた。実行するかという問いが頭に流れ込んできたので意を決して実行した。


『サイコキネシスが解放されました』


 言葉が流れこんできた瞬間、俺は解放されたという能力を受け入れた。その言葉の意味は不自然なほど自然に理解できた。


 俺は迷わず最後の星を念力にふる。


『浮遊が解放されました』


 その能力も意味も俺は当たり前のように理解していた。


 俺が意識を現実へと引き戻すと果敢に挑む魔物を弾き飛ばしているところだった。


 今ならこの不可思議な光景も理解できる。


 俺が意識を空へと向けるとふわりと体が浮き上がる。逃がすまいと焦ったのだろうか。魔物が一斉に飛び掛かってきた。


「邪魔すんなっ!」


 俺は全方位に向けてサイコキネシスを飛ばした。


 魔物の悲鳴と木々のへし折れる音が同時に響き、そして消えた……。


 そこは突如として嵐でも吹き荒れたかのような惨状と化していた。こんなにいたとのか驚くようなおびただしい魔物の死体がへし折れた木々の下敷きになり横たわり潰れていた。


 想像していた以上の出力に驚きもしたがたしかな感触も得た。


 俺は逃げてきた道を見て覚悟を決めると森の天井を抜けてティアラの元へ飛んだ。



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