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魔法じゃない、超能力だ  作者: 一川一
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エロフ


 悪魔から世界樹を守って二日経った。


 疎開していたエルフたちも戻ってきていて、ここが戦場だったことが嘘のように普段の生活に戻っていた。できるだけ被害を押さえるための努力が功を奏したようだ。奇跡的に死者もでず、怪我人は出たがそこは治癒魔法なんて便利な治療方法があるので悲しむこともない。実際、一日中ベッドのお世話になっていたのなんて俺ぐらいだろう。不覚である……。


 あのあとみんながチキを囲むようにして支える姿を見て、気が緩んだ俺はそのまま気絶した。


 もう気絶はすまいと誓ったにも関わらずこのていたらく……我ながら情けない。


 戦闘中はハイになっていたせいで意識を保てたが、超能力を多様した代償が後から一気にきたらしい。


 そんなわけで俺はまたも魔力欠乏症と勘違いされて一日ベッドで過ごすこととなった。気づかなかったが火傷やら打撲やらで結構傷だらけだったらしく、治療魔法のお世話にもなったらしい。ナースエルフの看病イベントがあったらしいのだが、ついぞ見ることはなかった。やはり不覚である……。


 それから目を覚まして事情を聞いたり食事を頂いて二度寝して起きたのが先ほどのこと……。


 俺は支度するほどもない身支度を整えると、椅子に腰掛けてティアラを待った。昨晩、食事をしていたときに今日発つことを決めていた。理由はそう……チキのためだ。


 チキのことを考えると今でも自己嫌悪におちいる……あれで本当に良かったのかと。


 あのときは慰めようとも正論を聞かせようとも、チキが死ぬのを諦めるようには思えずあんな脅しのようなまねをしてしまった。


 もっとうまいやり方があったのではと何度も考えている。しかしたかだか十数年平和な世界で生まれて育った俺には冴えた言葉も行為も思いつかなかった。あれが精一杯であり最善だった。だからといって正しいだなんて思ってもいない……。


「おはようケイジ、どうしたぼーっとして?」

「ティアラさん……おはよう……ございます」


 いつの間にか部屋に入ってきていたティアラは俺の様子を心配げに見つめていた。


「ちょっと考え事をしてただけです」

「……チキのことか?」

「ええ……まあ」


 なんでわかったのだろう? 実はエスパーなのではと疑ってしまう。


「顔にかいてあるぞ……会うのが不安だとな」

「……マジですか?」


 そう。俺はあれから一度もチキに会っていなかった。正直どんな顔をして会えばいいのかわからなかった。なんせ怨まれる覚悟であんな脅迫じみたこと言ったのだ。いきなりぶたれてもおかしくない。


 俺が気絶している間にティアラが里から連れ出すことが決まっていた。本人のためにその方がいいだろうと里長たちも同意したそうだ。もう自殺すると言い出す雰囲気はなかったが、里に残れば辛い記憶が蘇るだろうからと。しかし外に出すにしても信用のおける人物と一緒でなければと姉がわりのエルフが心配するので、ティアラが名乗りをあげたわけだ。


「君は本当に……不安なのか?」

「そりゃまあ……ああ言えばチキが自殺を思い止まるってわかって言いましたから」


 チキの心根の優しさに付け入ったのだ。割と最低だと俺すら思う……。


「止められなかった私が言うのもなんだが……たしかにあれは最低だな」


 返す言葉もない。


「だが大切なのは本人がどう受け止めたかだ。それを決めるのは私でも君でもないよ」


 直接本人に聞けばいいっとティアラは言ってドアを開けた。するとそこには、はにかんだチキが立っていた。


「おはようっ――ケイジ君!」


 何事もなかったかのように挨拶をするチキ。その表情からは怒りも恨みもまるで感じられない。


「チキ……」

「もうっ! なんで朝からそんな辛気くさい顔してるの? 今日はあたしの門出なんだからもっと盛り上げて行こうよ!」

「えっ……お、おう」


 先ほどの会話は聞こえていなかったのか?


 それにしたってテンションが高い。無理をしているのではないか? なかったことにするにはあまりにも重い出来事だ。なのにその態度からはそんなこと一切感じられなかった。


「君に唯一の選択肢を断たれた彼女は、全てを受け入れて前に進むことを決めたんだよ」


 ティアラの言葉にチキは静かに頷くと頭を下げた。


「いっぱい助けてくれてありがとう。不束者ですがこれからも末永くよろしくお願いしますっ」

「……んっ?」


 お礼はいいとして……不束者とか末永くとかどういう意味だ?


 俺の疑問はこっそりティアラが答えてくれた。


「君が言った死ぬまで手伝うっていうあれなぁ……ほとんどプロポーズだぞ」

「はっ?」


 そんな馬鹿な? 俺がない知恵を絞って考えた説得方法だったはずだ。


「まあ状況が状況だし私も違うんじゃないかとは言ってみたのだが……寿命が長く死から縁遠いエルフはああいったフレーズを誓いの言葉にするらしくてなぁ……落ち着いてみるとケイジがチキに告白したのではということになった」

「なんですかそのふわっとした結論は?」


 エルフの価値観なんて知らないと誤解を解こうと思ったのだが――。


「どうしたのケイジ君……なんか怒ってる?」


 俺の反応を見たチキが世界の終わりのような顔をするもんだから言いよどんだ。


「お、怒ってなんかないぞ別に……」


 今はまずいか……。仕方ない。誤解はゆっくりと解いて行こうかと思案していると……。


「それにしてもチキ……その荷物は多すぎやしないか?」

「うん。あたしもそう言ったんだけどさー」

「なにを言う。これでも少ないぐらいだ。旅となれば――」


 いつの間にか現れたエルエリスが雄弁に語っている。いわくあらゆる場面に対処できるようにと……。


 あれ? 話題がいつの間にか旅に移ってるぞ?


「いや……本人よりも大きなズタ袋を二つはないだろう? いったい何を持たせたんだ?」

「二つとも衣類だが?」


 ティアラの質問に当たり前のように答えるエルエリス。チキもこれには疑問の様子……。


 話題は重要な告白から旅へ。そして衣類へとどんどん流れている。まずい。このままではタイミングを失ってしまう……。


「あたしは替えが一着あればいいって言ったんだけどさー」

「馬鹿なこと言うな。淑女たるものいついかなるときも美しく清潔であるべきだ」

「衛生面での話しなら致し方ないが……やはり数は減らすべきだと思うぞ」

「なっ! ティアラ殿は汚れた下着で数日過ごすおつもりか?」

「えっ? いや、そうではないが……」

「でもさーエルエリスがくれたやつって紐みたいなやつばっかじゃん」


 紐っ?


「こ、こらっ! 誤解をまねくような言い方をするな。あれはそういう下着なのだ!」

「でもあれあんまり隠せてないし下着の意味なくない? そもそもなんでところどころ穴まで開いてんの?」


 穴っ!


「エルエリス……君は」

「誤解だ! あれは普段からはくものではなく特別なときにその――えええーい! 下着の話しなんてどーでもいいのだ! 私は父上から伝言を授かってきたのだ!」


 どーでもよくねー……あれ? 俺は何か悩みを抱えていたような気がするのだが、エルエリスの性癖のせいで忘れてしまった。


 すごく大事なことだった気がするのだが……。


 なんだっけ?


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