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魔法じゃない、超能力だ  作者: 一川一
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エルフの涙


 誰もが空を見上げてその瞬間を目撃し、驚き戦慄し歓喜した。


 絶望以外に描けなった未来がその一瞬で消えて誰もが救われたのだから……。


 チキもまた憑き物が落ちたかのような晴れやかな気分で青空を見上げていると、自然と涙がこぼれ落ちていた。


 ほんの一時前まではこんな結末は想像できなかった……。


 ザリクが消えた後、ドリュアスから魔力を分けてもらいどうにか動けるまでに回復した。世界樹に宿る精霊だからこそできる特別な魔法で命拾いしたチキだったが、喜んでもいられなかった。


「ティアラちゃん……ケイジ君はどこ?」

「被害が出ないように空で決着をつけると言っていた」


 チキはまだふらつく足を踏ん張り立ち上がる。


「どうしたチキ?」

「早く伝えないと……」

「伝える?」

「うん……ザリクが時限召喚でドラゴンを召喚してるって」


 ティアラをはじめドリュアスまでもが緊張した面持ちにかわる。


「弱りましたね……伝える手段が――」


 ドリュアスの言葉が途切れたのは地下にまで響きく咆哮のせいだった。誰もが元凶を口にすることもなくかけだしていた。


 外に出たチキたちは空を見上げてわなわなと震えているエルフたちの姿を見て、先送りしていた答えを口にした。


「遅かった……」


 地上から見上げてもはっきりとわかる禍々しい黒い竜の姿にチキも震えた。魔法陣が消失して完全に召喚されたことが見てとれる。その力がどれほどのものかはチキもよく知っていた。あれは……世界を滅ぼすことのできる魔物だと。


 エルエリスが避難を呼びかけるが誰一人動かない。みんな気づいているのだ。逃げ場などない。ひとたび暴れ出せばこの森一帯は焦土と化す。長く生きるエルフだからこそ知っている。あれは一度世界を滅ぼした元凶の一端であると。


 そして更なる絶望的な光景が目に映った。まるでドラゴンを支配したかのように悪魔が蘇ったのだ。その姿を異形のものと変えて。遠視によりその光景を見たものはその場で頭をかかえた。悪魔の再生能力を有した不死身のドラゴンの誕生に、そのドラゴンが意思をもって襲いかかってくる光景に、もはや生き残るすべなどないことを理解させられる。しかしその中でただ一人落ち着いて空を見上げているティアラの姿があった。その目は絶望なんて感じておらず、空を飛ぶ少年だけを見つめていた。


 彼女は信じているのだ。彼ならあの厄災を振り払うことができると……。


 ほんの少し目を離した瞬間のことだった。空からドラゴンの悲鳴とも呼べる鳴き声が聞こえたのは。顔をあげたチキは見たこともないような光景を目にした。


 雲から抜け落ちたように現れた何かが、ドラゴンに吸い寄せられるかのように集まり爆発する。鋼の刃も通さないはずドラゴンの皮膚が弾け飛び、煙の中からあらわしたのは、再生すら追いつかないような傷を負った姿だった。


 しかしそれでもドラゴンは健在だった。魔法を撃ち尽くして逃げまどうケイジを猛スピードで追い回し、雲の中へと逃げたがその雲すらその巨体で吹き飛ばした。


 もうおしましだ……。誰もがそう思ったことだろう。チキも顔を覆いたくなる。が、その目に飛び込んできた光景から目をそらすことができなかった。


「星が……」


 誰かがこぼしたその言葉の意味を誰もが理解する。空からふってきた巨大な隕石が人の手により生み出された魔法だと気づいたとき……誰もが恐怖し戦慄した。


 あれもまた世界を滅ぼした元凶の一端であり禁術と呼ばれる元素魔法……それがたった一人の人間の手により今まさに目の前で再現されたのだ。


 世界を滅ぼした魔物と魔法がぶつかりあったとき空が爆発した。そしてその空にだだ一人生き残った少年の姿を見つけて歓喜する。


 そして全てが終わったのだとようやく実感した……。


 チキはケイジの凱旋には参加しなかった。地上におりてきたケイジがティアラをはじめとしたみんなに囲まれている姿を見て、深々と頭を下げると森の中へと消えた。


「ここでいっか……」


 まるで先ほどまでの戦いがどこか遠い場所でおこっていたような錯覚すらおぼえる静かな森の奥で、チキは短剣を握りしめると喉に突き立てた。


 せめて苦しんで死のう……血が尽きるまで痛むだろうが叫んでも声すら出ないはずだ。傷口の熱で頭がどうかなりそうでも堪えて、生きているうちは苦しみ罰を受けよう。


「さよなら……」


 誰にとも言わず最後の言葉を残してチキは刃を突き上げた――。


「そんな……どうして?」


 どれだけ力を入れようとも指一本動かない。それどころか握っていた短剣が突如消失した……。


 こんな馬鹿げたことができるのは、チキの知るかぎり一人しかいない。チキは腕を下ろすと顔あげた。


「見つかっちゃた……」

「俺たちがお前を助けたのは……こんなことをさせる為じゃない」


 どうやって見つけたのか問うのも馬鹿馬鹿しい。なんでもお見通しだとばかりに、当たり前のようにケイジがそこにいた。彼だけではない。その後を追って来たエルエリスにティアラ、それにドリュアスや里長までいた。


 ケイジが投げ捨てた短剣を見たエルエリスが怒りをあらわにする。


「お前が死んだところでなんになると言うのだ!」

「そうだね……でも」


 生きている資格なんてない。そんなことを言ったらエルエリスは更に怒るだろう。言外の意味をくみとったのかティアラが口を開いた。


「結果的に君が私たちを連れてきたことでこの里のものたちは救われた。それは疑いようのない事実だ」


 エルエリスが苦い顔をするが素直に肯定した。ファーストコンタクトとしては最悪だった。ケイジがその気になればエルフの包囲など簡単に破られたことだろう。ケイジたちが里につくことはなく、翌日には悪魔によって蹂躙されいただろうと語った。


「そうだとしても……あたしのしたことは許されることじゃないよ」

「ならばわたしにこそ責任がありましょう……」

「ドリュアス様のせいではありません。これは我々の意思によるもの……責任を負うべきは秘密を知る里のもの全てです」

「父上?」


 ずっと黙っていたドリュアスと里長が口を開くと二つの里の秘密を語った。

 

「もともと一つだった里が二つに分かれたのは、荒事を好まないものたちが里を離れたからと聞いていただろうが、それは正しくない。本当の目的は新に育てた世界樹を守るために二つに分かれたのだ」


 そんな話しは初耳だった。エルエリスも戸惑っている。


「死元戦争後に生まれた若いエルフは知らぬことだが、全ては合意のもとでくだされた決断だということは理解してほしい」


 そう前置きして里長が話したのはとても理解なんてしたくない真実だった。それはチキが住む里が外敵の目を向ける囮だったと言うのだ。


「里を二つに分けたことは対外的には知らされていない。あくまで里は一つ。そして死元戦争を生き抜いたエルフは朽ちた世界樹と共に生きることを選んだ……そういうことになっている」

「そんな話し知らない。パパもママも一度だってそんなこと……」

「あくまで我々の世代が決めたこと。だから若い世代には強制させぬようにと……ドリュアス様に言われてな」


 ドリュアスが悲しそうな顔をする。


「知ればきっと両親や先達の意思を告ぐことを選ぶでしょう。だからあえて伏せておりました」

「そんなこと……」


 今更聞かせて何になるのだ。はじめから生贄だったから死んでも本望だとでも言うのか?


「そんなこと言い訳にもならないよっ……あたしがみんなを殺してしまったことにかわりないんだからっ」


 慰めてくれているのだろう。罪の意識を軽くしてくれるために秘密を打ち明けてくれたのだろう。だからといって自分を許せるわけがない。ましてやチキが捕らえられたことで二つの里の存在は知られ、両親たちが守ろうとした世界樹までも危険にさらしたのだ。


 自分は生きていちゃいけない存在なのだとあらためて自覚した……。


「お前の言い分はわかったよ。なら俺が……手伝ってやるよ」


 それは誰であろうケイジの口から発せられたものだった。


 周囲を唖然とさせるケイジの言葉。その声は冷たく、とてもチキを助けてくれた人物の声とは思えなかった。いち早く我に返ったエルエリスがケイジに詰め寄るが、ケイジが手で制すると顎の動きすら止められた。


「見ての通りだ。お前が死にたいと望んでも、お前を死なせたくない奴等が邪魔をするだろう。つまり……簡単には死ねない」

「なら……ケイジ君が……くれるの?」

「ああ。俺なら誰に邪魔をされようとも、お前をこの手で……殺してやれる」


 思わず息を飲んだ。その瞳は偽りに見えない。片手をかざしたケイジから言い知れない圧を感じた。覚悟はできている……そのはずなのに怯えてる自分がいた。


「お前は自己満足の為に……死ぬ」

「?」

「だってそうだろ。お前が死んだところで里の連中も両親も生き返るわけじゃない。救われるのは罪の意識で潰れそうなお前の気持ちだけだ」

「ちがっ――」

「お前が死ねばここにいる連中は悔いるだろうぜ」


 それは……。


「俺も同様だ。お前をこの手で殺したことを……一生後悔する。今のチキのようにな……」

「っ!」


 ケイジの姿に自分が重なる。同じ思いをさせる? 自分が楽になるために? 


 言いかけた言葉を呑み込む。責任を取ると思っていた自分が何を代償にしようとしたのか気がついた。だけど……だけど……。


 チキはその場に崩れ落ちると全ての気持ちをさらけ出すように大声で泣いた……。



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