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魔法じゃない、超能力だ  作者: 一川一
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邪竜降臨 1


 大樹の森のはるか上空、鳥の姿も見えない空の上で待ち構えていた俺は目蓋をあけた。


「よう、お前の相手は……俺だっ」


 自由落下に慌てながらも翼を広げて飛び上がった悪魔が、振り返り驚愕の表情を浮かべた。


「ばかな……強制転移させられただと? 魔法陣どころか魔力の流れすら……ありえ……ない」


 魔法ではないので当然だ。アポートをつかって強制的に引き寄せたのだから。


 はじめは無機物だけしか取り寄せられないと思っていたが、試してみたら有機物も可能だった。ただし静止していることが条件だった為、ティアラたちに奮闘してもらったしだいだ。


 千里眼で逐一状況を確認していたが気が気ではなかった。何度助けに戻ろうかと考えては、彼女たちを信じて待つことを選んだ。あの場でザリクと戦えば世界樹がただではすまないからだ。しかしその我慢からようやく解放された。


 ようやく俺も――戦える。


「本当ならチキにとどめをささせてやりたいが……恨みは俺が代行する」

「ま、まって!」


 ん? 悪魔らしからぬ慌てよう。その表情に先ほどまでの強気は欠片も残されていなかった。


「待てと言われて待つバカはいねーよ」

「お願いよぉ――もう二度とあの魔力資源には手を出さないと誓うから! ほらぁ……ね?」


 握っていた杖を放り投げるとすぐに見えなくなった。


「だからなんだ?」

「え?」

「お前がチキを操って何をさせたのか……忘れたとは言わせねーぞ」

「あ、あれは魔力資源の居所を黙秘したからしかたなかったのよぉ。あんな面倒なことワタシはしたくはなかったはぁ。本当よぉ。でも急がないとタルウィに先を越されそうだったからしかたないじゃない。ワタシは悪くないわぁ!」


 この女……。


「命乞いしてるのかと思ってたら……煽ってやがったのかよ」

「ち、違うわぁ。そもそも殺したのはあの子じゃない? ねぇ……そうでしょう?」


 頭に血が上り冷静さを失いそうだったが、おかしなことに気づいた。天然じゃなければ完全に煽っている。こちらが冷静さをかいだ隙をつくつもりなのか……やはりこいつは油断できない。やるなら全力で……しかし再生をうわまわらなければ反撃を食らう。


 早く倒したいと思う一方で、慎重に戦うべきだとも考え葛藤しているとザリクが顔を伏せた。何かしかけてくるのかと身構えると……上目遣いに口角をつり上げた。


「はあぃ……おーしまい」


 何が――と、問うまでもなく異変を感じた俺はその場を離れた。


「いつの間に……」


 見覚えのある魔法陣が空を覆っていた。魔法を唱える素振りなんてなかった。油断なく注視していたの何故?


「時限召喚……もしもの為に唱えておいてよかったわぁ」

「ちっ……時間稼ぎだったわけか」

「そうそうその顔が見たかったわぁ……ワタシの迫真の演技に騙ぁーまぁーさぁーれぇーたぁー……あっはははははははっっっっっっっ!!!!!!!!」


 耳障りな笑い声と共にカオスドラゴンがその姿を現していく。ブレスに備えて注視していたが、ザリクが呪文を唱える素振りがない。


「どういうつもりだ? お前じゃアレを制御できないんだろ?」


 前に慌てて魔法を解除していたところ見ると、こいつに制御できているとは思えなかった。


「暴走でもさせるつもりか?」

「ぷっ……あははははははっっっっっっっ!!!!!!!!」


 気でもふれたかのように笑い続ける間にも、ドラゴンは魔法陣から這い出すようにその巨体をさらけ出していく。


「そうねぇ……このままだとこの森全てを焼き尽くすでしょうねぇ……でぇ――もぉ!」

「なっ――!」


 一瞬の隙をつかれて逃げられると思ったが、ザリクがあろうことかカオスドラゴンに懐に飛び込んで行った。

 

「大いなる混沌の竜よっ! 盟約の元に我が肉を喰らい血をすすり骨となり糧になりえん……インテグレーショ――」


 俺は目を疑った。カオスドラゴンの瞳が怪しく光ると、大口を開けてザリクを丸呑みしたのだ。牙の隙間からしたたり落ちるどす黒い血が、何がおこったのかを物語っていた。


 何をしようとしたのはわからないが、魔法の詠唱途中に食われたようだ。つまり……。


「こいつをやらなきゃいけなくなったわけだ」


 とうとう最後となった長い尾まで魔法陣から出てきた。魔法陣が消失するとカオスドラゴンは解放を喜ぶかのように、空を揺るがすような咆哮をあげた。


 ブレスを吐かれたら厄介だ。先手必勝――。


 一点に集中したサイコキネシスをぶつけると、硬い鱗を砕きドラゴンが苦痛に呻いた。


「いけるっ」


 念力を強化したことによって、サイコキネシスの威力も上がっている。何十発撃ち込めば倒せるのかわからないほど巨大だが、攻撃が通るなら勝機もある。


 そう思ったのも束の間のことだった……。


「嘘だろ……」


 ドラゴンの傷口が消えていく。細胞が泡立つように膨れあがり鱗までもが元通りに復活する。癒しとはとても呼べないまがまがしさに見覚えがあった……。


「再生? まさか……」

「そぉぉぉぉぉう……ワぁータぁーシぃーよぉー……あっはははははははははっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!」


 聞き覚えのある耳障りな声は目の前のドラゴンから発せされていた。馬鹿みたいな音量で不愉快な笑い声をあげる。


「……生きてやがったのか?」

「さぁーてぇ……どぉーかしらねぇ……生まれ変わったような気分よぉ」

「――っ!」


 ドラゴンの額が泡立つと、真っ黒な肉が盛り上がる。血管だけが紅く脈打ち蜘蛛の巣のように広がっていく。すると肉の塊だったものは人の姿を形取り、悪魔の顔をのぞかせた。


「ずいぶんと不格好な変わりようだな」

「そうねぇ……最悪の気分だわぁ……後悔してもしきれないわぁ……一生このままなんて信じられるかしらぁ?」

「ご愁傷様……」


 口らしい箇所が二つに割れるとケタケタと笑い出す。


「なぁーんてうっそぉ……今はとても気分がいいわぁ……こんなことならもっと早く融合するんだったぁ……このあふれてもあふれても湧いてくるような力は王にも匹敵するわぁ……ワタシが新たなる支配者となるのよぉぉぉぉぉぉっっっっっっ!!!!!!!!!」


 何を言っているのかさっぱりだが、ますます情緒不安定になったことだけは理解できた。融合とやらは肉体だけでなく精神も犯されるようだ。


「さぁーてぇ……どうやって殺してやろうかしらぁ……食い千切って食い散らかしてエルフ共の前に投げ捨ててやろうかしらぁ? それともぉ……エルフともども消し炭になるぅ?」 


 ケタケタとたがが外れたように笑う姿は自我すら薄らいで見える。


「どっちもごめんだ」

「わがままねぇ……でもぉ……お前の死は決定よぉ……きゃははははははははっっっっっっっっ!!!!!!!!」


 ドラゴンの口元から溢れ出した黒い炎に気づいてその場から逃げるが、ブレスは以前見たときよりも広範囲に吐き出された。


「ちっ――!」


 サイコキネシスで身を守り炎から脱出すると黒い影が迫っていた。大口を開き突っ込んで来たのだ。


「くっそ――!」


 直撃はかわせたがでかい図体をかわしきれずに吹き飛ばされる。きりもみした体を無理矢理静止させて体勢を立て直した。頭がクラクラするがドラゴンから目を離すわけにはいかない。とはいえ嫌でも目につくでかさだ。見失うことなんてないだろう。


「どうしたのぅ? 防戦一方ねぇ……早く反撃してきなさいよぅ……あああ……ひょっとして手も足も出ないのかしらぁ……きゃははははははははっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!」

「馬鹿言え……こっからだよ――」


 空がきらめいた。その瞬きがドラゴンに突き刺さる。ドラゴンの巨体が崩れ落ちると背中から煙があがっていた。


「何……が……あ……」

「備えていたのはお前だけじゃないってことだ」


 再び空がきらめいた。瞬間――星の雨がドラゴンの巨体を貫いた。



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