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魔法じゃない、超能力だ  作者: 一川一
22/29

世界樹の攻防 3


「うふふふっ……油断してると思ってたぁ? お見通しよぉ」

「だろう――なっ!」


 ティアラは左手で短剣を抜き投擲する。


「そんなもの――ぐっ!」


 普通の短剣など突き刺さるはずのない悪魔の体に、その刃は根本まで突き刺さっていた。


「き、貴様ぁ――っ!」


 杖から発せられた突風がティアラの体を吹き飛ばす。刺さった短剣を抜いたザリクは刃を確認すると苛立たしげに投げ捨てた。そして傷はすぐに再生した。


「まさかアナタも覚醒者だったとはねぇ……血染めの短剣なんて気持ち悪いものをよくもワタシに……あぁ……そういうことなのねぇ」


 立ち上がり剣の刃に自らの血を吹き付けたティアラを見て、ザリクが納得したように頷いた。


「タルウィを倒したのはアナタねぇ……そうよねぇ……おかしいと思ったわぁ……人間の魔術師風情が悪魔を倒せるわけないものねぇ……つまりぃ……本当の脅威はアナタだったってことよねぇ?」


 ザリクはティアラに向き直ると杖を構えた。


「さあてぇ……どうしてくれようかしらぁ……チキちゃんも援護してねぇ」


 逆らうこともできずに弓の弦を引くと――。


「自分を諦めるな――チキっ!」

「え?」

「君が覚醒者なら悪魔の呪縛など払いのけれるはずだ!」

「無理……だよ。今だって体が勝手に――」

「チキなら……できるさ」


 チキの言葉を遮ったのは弱々しい声。剣を支えにして立ち上がるエルエリスは血だらけの顔で微笑んだ。


「お前を鍛えたのは私だからな……チキの強さとあきらめの悪さはよく知っているさ」

「エルエリスもう喋らな――いやっ!」


 構えた弓がエルエリスに向けられる。チキがいくら抵抗しようともやはり体はいうことをきない。


「心を閉ざすな……どれだけ重い罪に押しつぶされようとも壊れなかったチキの心は……きっとまだ戦える」

「やだよ……こないでこないでぇ」


 弦から指をはなしてはいけない。満身創痍のエルエリスでは、次の一撃を堪えられない。今度こそ――殺してしまう。


 チキは泣きながら歯を食いしばる。ティアラが諦めるなと叫んでいた。自分は諦めてなんていない、何度も何度も抵抗したのに体がいうことをきかないのだ。


「その顔は……ふさぎ込んだときの顔だろ?」

「え……?」

「その手が血で染まるたびに心をとざしていたのさ……チキは諦めていたんだ」


 そんなつもりはなかった。そう思っていたのに同胞を殺していくたびに、本心から目を背けていたことにも気づいていた。ついには両親まで手にかけたとき諦めたのだ、自分に……。


「抵抗は無駄だと思いこまされたんだ。おそらくその悪魔がついてきたのは観賞ではなく、チキの呪縛がとけないようにするために違いない」


 ティアラの言葉に答えるように悪魔が微笑んだ。


「ご明察……さすが覚醒者ねぇ……身に覚えでもあるのかしらぁ……でもぉ……観賞を楽しんでいたのは本当よぉ」

「そんな……あたしが弱かったから」


 心が弱かったからみんなを……家族を殺してしまった。


「酷いお友達ねぇ……かわいそうなチキちゃん……本当のことなんて知らなければ傷つかなくてすんだのに……ねぇ?」


 クスクスと笑う悪魔の顔を見て怒りがこみ上げてくるが、それも自分が未熟だったからだと思い知るだけだった。


「まぁ……今更種明かしされてもぉ……重ね掛けした呪縛はとけないわぁ……さぁ……チキちゃん――そいつを殺しなさい」

「いやぁ……」

「聞き分けのない子ねぇ……早く――殺せっ」

「もう……いやだぁぁぁぁぁっっっっ! 誰も――絶対に――傷つけたくないっ!」


 自分に言い聞かせるように叫んだ。それでも体の自由は奪われたままエルエリスに弓を引く。歯を食いしばり、心の中で何度も何度も反発する。この指が引きちぎれようとも絶対に離さない!


 弦に血がしたたり、チキの手が真っ赤に染まっていく。それでもチキは離さなかった。諦めずに堪え続けるとわずかに体の向きがかわり、それを皮切りに一気に体が解放された。


「馬鹿な――っ!」

「うわああああああああああああああああっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!」


 堪えに堪えて引き絞った弓に全ての魔力を注ぎ込み、そして――いった!


 紅い鮮血に染まった無数の矢がザリクに撃ち込まれる。甲高い悲鳴が広間に響き渡り、土煙がはれると傷だらけの悪魔が立ちつくしていた。


「ふふふふざけるなっ――ふざけるなっ――ふざけるなあああああああああああっっっっっっっ!!!!!!!」


 激昂したザリクが目を血走らせて叫び声をあげる。


「奴隷ごときが呪縛をといたぐらいでいい気になるなよっ! すぐに殺してやるっ!」

「――させません」

「なっ!」


 ザリクの足下から飛び出した木の根が、その体に巻き付き指の先まで拘束する。悪魔は杖をふるうこともできなくほど絡め取られた。そしてザリクの体は根の中に閉じこめられた。


 その根の元はいつの間にか悪魔の背後に現れたドリュアスの体に繋がっていた。


「ぐうぅ……ごのぉぉぉぉぉ……魔力をぉぉぉぉ」

「そう……それは世界樹の根……再生も満足にできないでしょう」


 何がおきているのはわからないが形勢が変わったことは理解できた。安堵したのも束の間、魔力を使い果たしたチキはその場にひざをついた。


「用心深く隙を見せないこの悪魔を拘束するには再生に集中する瞬間しかありませんでした。そのような姿になるまで助けることもできず……ごめんなさい」


 ドリュアスの悲しそうな声を聞いてチキは首を振る。


「あたしなんて……助ける価値もないのに――」

「馬鹿なこというなと叱ってやりたいが……いまはゆるす」

「エルエリス……」


 傷ついた体で抱きしめられる。久しく感じていなかった人肌の温かみを感じてようやく解放されたのだと実感して涙がこぼれ落ちた。


「くふふふ……」


 安らぎを感じていられたのはほんの一時だけだった。根の隙間から見えるザリクと目が合う。


「そうやって感傷に浸っていられるのもいつまでかしらぁ……」


 紅い瞳を輝かせ、唾液が糸をひくような邪悪な笑みを見せた。


「種がわかればどうということはないわねぇ……魔力を吸うとは思わなかったけどぉ……この程度なら直に再生も終わるわぁ……そしたらこんな木の根はすぐにでも薪がわりに燃やしてやるわよぉ――お前たちと一緒にねぇ!」


 そんな……。嘘を言っているようには見えない。これだけの犠牲を払って止めることすらできないなんて……。しかしチキの震えはエルエリスに強く抱きしめられることで止まった。


「心配しなくていい。我々の目的は最初から奴の足止めだ」

「そう……倒すつもりも拘束するつもりもありません。ただ一時……捕まえてほしいと頼まれただけ」


 いったい誰に?


 何を言っているのか理解できないのは当の悪魔も同じようだった。


「どういうことかしらぁ? もしかしてそこで棒立ちしている満身創痍の騎士に期待でもしてるぅ?」


 ティアラなら傷をつけることもできる。しかしティアラは剣を握ってはいるものの、とても満足に戦える状態ではなかった。


「ああそぅ……再生が弱まっている状態なら倒せると思ってたのねぇ……あはっ……ばっかじゃないのぉ! 無理に決まってるでしょうぉ! 手加減してやってやったらつけあがりやがってぇ! そこの木偶を殺さないように加減してやってたんだよぉ! その気になればお前らなんてちんけな里ごと焼き尽くしてやれんだよぉぉぉぉぉっっっっ!!!!!!!」

「そんなこと……言われるまでもありません」

「ああん?」

「ここなら全力を出せない……そう思ったからこそ誘き出したのですから」

「なんだとぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!!!」

「そろそろ限界のようですが……十分でしょう。あとは彼が――」


 それは一瞬の出来事だった。なんの前触れもなく瞬きする間にザリクの姿が忽然と消失した。


「え?」


 まるで最初からそこにはいなかったかのように、崩れゆく世界樹の根の中には誰もいない。しかし驚いているのはチキだけで、ドリュアスたちは平然としていた。


「彼のことを賢者と言ったのは誤りだったかもしれませんね……ハイデーモンにすら悟られずに魔法の痕跡すら残さず一瞬で転移させるなどもはや……神のみ技です」


 平然としているように見えたのは誤りだった。感情を表に出すことのないドリュアスの声が震えいたのだ。


 おぼろげながら何がおきたのかわかってきた。こんな常識外れなことをできる人物をチキは一人しかしらない。でも彼は……。


「もう心配しなくていいぞ……チキ」


 満身創痍のティアラが近寄ってくる。その顔からは緊張が消え、安堵すら浮かべていた。


「あとは……ケイジがなんとかしてくれる」



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