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魔法じゃない、超能力だ  作者: 一川一
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世界樹の攻防 2


 どれだけ周囲を見渡してもいるはたった二人だけ。チキは困惑しながらも弓を構えた。


「チキ……いま助けてやる」


 エルエリスが剣を抜き身構えた。肉親とも言えるエルエリスに斬られるのなら本望だった。どうか躊躇せず解放してほしい……。


 ティアラを見ると無言で刃を抜いていた。聖方教会は魔族と敵対している。悪魔の手先となった自分を容赦しないだろう。それにティアラには魅了魔法をかけてケイジを襲わせた。きっと怒っているだろう。自分が殺されるのも当然の報いだ。一言謝罪したかったがその願いはかなわない。ならばこの命で償いたい……。


 そんなチキの感情は一切表に出ることなく、魔法の矢が放たれた。


 見えない風の矢がエルエリスに襲いかかる。一本だった矢が二本に、二本だった矢が四本に裂けて一斉に迫った。


「たあ――っ!」


 風の流れから察知して切り伏せていく姿は見事なものだ。間髪入れずに放とうとした第二射は接近してきたティアラに向ける。


 早い――っ!


 接近こそ防いだが風の矢は全てかわされた。


 即席とは思えないほど息のあった連携だった。まるで誰かの手の平で踊らされているような感覚……。


 息もつかせぬ攻防が続くが、互いに決定打にかけていた……そんな戦いを続けていると――。


「あらあらぁ……なかなか出てこないと思ったらまだ害虫駆除を終えてなかったのねぇ」


 広間に顔を出したザリクに業を煮やしたような雰囲気はない。実に楽しそうに状況を見てとると嫌らしい笑みを見せた。


「残りは二人かぁ……随分とお粗末な守りねぇ……それとも誰か隠れているのかしらぁ――ねぇ?」


 ザリクが杖をかざすと風の刃が四方八方に飛びだした。壁や地面をえぐりながら二人に迫る。が――その刃は突如地面から飛び出した太い木の根に阻まれた。


「あらあらぁ……コソコソと隠れていたのは精霊ちゃんだったのねぇ」


 二人をかばうように虚空から姿をあらわしたのは、まさしく大精霊ドリュアスだった。


「ここは悪魔が足を踏み入れていい場所ではありません。立ち去りなさい」

「あらぁ……生意気だことぉ。でもぉ……身を守る魔法しか使えないアナタが増えたところでどうにもならないんじゃなぁーい?」


 もうザリクの意識は精霊には向いていなかった。チキもまた意識は別に向いていた。


「おかしいわねぇ……あの忌々しい坊やはどこに隠れているのかしらぁ?」


 悪魔が唯一警戒しているのはこの場にいない少年のことだろう。チキもまた彼の姿を探していた。それなのに……ケイジは一向に姿を現さない。


 ザリクがしつこく語り掛けても誰も答えなかった。チキの心に不安が広がる……。


「そぉ……いないのねぇ……うふふふ……あははははははっっっっっっっ!!!!!!!!!!」


 ザリクは心底愉快そうに笑い出した。


「恐れをなしたかぁ……愛想がつかされたのかぁ……どちらにしろもう勝負はついたわけねぇ……つまらないわぁ……はぁ……つまんなぁーい!」


 しかしその顔には満面の笑みが浮かんでいる。勝利を確信したのか無謀にも杖をおろす。認めたくはなかったが、この場に本当にいないのだ彼は……。


 おかしいとは思っていた。霧魔法などケイジの力なら簡単に吹き飛ばせるはずなのに一度も消されることはなかった。それでも守りをかため、戦力を温存しているのだと思っていた。それなのにこの広間に彼の気配はなく、エルエリスとティアラの窮地にも駆けつけてこなかった。信じたくはなかったが用心深いザリクが確信を得ているのが何よりの証拠だろう……ケイジはもういない。


「つまらないクライマックスねぇ……ならせめて盛り上げてもらいましょうかぁ……チキちゃーん本気を出して――殺し合いなさい」

 

 その命令は自己の防衛すら捨てさせるほどの強制力を働かせた。チキの体から魔力が溢れ出して弓へと吸い込まれると、引き絞った弦へと集まった。そして放つ――刹那、無数の風の矢が溢れ出すように飛び出した。


 地面に突き刺さった矢は爆風を生みだし、砂塵を新たな矢が切り裂く、絶え間ない攻撃が止んだとき辺り一面の地形がかわっていた。


「すっごーい……さすが覚醒者ねぇ……この威力ならワタシの体にも届きそぉ……こわぁーい」


 口先だけだ。まるで怖がっている様子はない。たとえ傷をつけられたとしてもすぐに再生される以上ダメージなどないはずだ……。そんなことより気になるのは三人の安否だった。


 土煙から飛び出してきたエルエリスの姿をみつけて、安堵すると同時に傷だらけの姿を見て心が痛む。だが感傷にひたる暇もなく体は勝手に動き、距離をとって第二射をいった。


「く――っ!」


 風の矢がエルエリスの肩に突き刺さる。突進は止まったが戦意は挫けていない。そのエルエリスに向かって自分はとどめをさそうしている。もう近寄らないでと心の中で叫び声をあげた。


 しかしその矢は放たれるとこなく、チキはその場を飛び退いた。剣線が空を切り、チキのいた場所にはティアラがいた。


 エルエリスを囮にしてわずかな隙を狙ってくる連携の巧みさに舌を巻く。しかしそれでも全力の自分なら後れを取ることはない。こんなことになるのならエルエリスの厳しい指導をもっとサボればよかったと後悔した。自分のためにしてくれて、その気持ちに応えようとした。それが間違っていたことが悔しかった……。


「なかなかやるわねぇ……でもぉ……すこし退屈かしらぁ……役者さんに台詞がないのも盛り上がらないわよねぇ?」


 悪魔の独り言なんて聞きたくもない。なのにその命令はチキの意思に反して強制された。


「チキちゃんもぉー自由に喋っていいわよ」

「……え?」


 声も感情も表に出せた。一瞬困惑したもののすぐにやるべきことを思い出す。


「エルエリス、あたしの魔力はながくもたない。だから――」

「殺してほしいなどとたわけたことは言うなよっ!」


 エルエリスの放った炎の矢がチキの目の前で爆散する。こんなものは風魔法で振り払うだけで対処できる。


「手加減なんてしなくていいの! お願い。じゃないとあたしがみんなを――」


 今すぐにでも武器を捨てたいのに体だけは勝手に動き弓を引く。


 再び無数の矢が周囲へと飛び交い壁や地面をえぐった。中位ながら殲滅魔法の威力はすさまじく、土煙であたりが見えなくなるほどだった。


「エルエリス――エルエリス――っ!」


 返事がないことに血の気が引く。とうとうエルエリスまで手にかけてしまった。最後の家族と呼べる人をこの手で……。


 あふれ出る涙が止まらない。体の自由は奪われているのに、指一本自由に動かせない。喋ることはできても舌をかみ切って死ぬこともできない。無力な自分が悲しかった。そんな状況のなか悪魔だけが笑っていた。


「素晴らしい演技よぉ……傑作だわぁ!」

「ぐうぅぅぅぅ……」


 憎くて悔しくて……でも自分にはなんの抵抗もできなくて更に惨めで悔しくて――。


「それでぇ――エルフを囮にして本命はアナタなのでしょ?」


 いつの間にか土煙に紛れて現れたティアラがザリクに剣を突き立てていた。しかし……その切っ先は杖により止められていた。



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