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魔法じゃない、超能力だ  作者: 一川一
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世界樹の攻防 1


 夜明け前、まだ寝静まっている森のなかを、物言わぬ同胞と共に進むチキはその歩みを止めた。


「ここねぇ……なるほどぉ……たしかに薄いわねぇ」


 ザリクが結界に触れると、一層また一層と幻影魔法がレジストされていく。その様子をじっと見つめるチキは違和感をおぼえていた。


 おかしい……。結界の穴はそれほど多くないはずなのに、やけにあっさりと見つかった。


 本来はもっと巧妙に隠されているはずだ。だからこそ侵攻に時間が掛かるはずだったのにこんなに早く……。


 胸が痛い。せめて里のみんなが逃げ出す時間を稼ぎたかった。手を抜くことができないこの操られた体が憎い。この場で両足を地面に串刺しにできればどんなに幸せなことか……。


「さぁ……これでおーしまい」


 最後の幻影が取り除かれると、歪んで見えていた視界が正常に戻った。


「あっけなかったわねぇ……慢心かしらぁ? それともぉ……うふふふっ楽しみねぇ」


 ザリクはチキを見てニタニタと笑う。これから自分に何をさせようとしているのか考えると堪えられなかった。しかし両足は意思に反して動き出す。


「この辺でいいかしらぁ……チーキちゃん」


 木々の切れ間が見えてくると、ザリクが立ち止まり命令する。チキは抵抗することなどもちろんできずに霧魔法を発現させた。


 木々の隙間を埋めるように深い霧が立ちこめる。朝露を媒介にして霧は広く里の中にまで染みこむように流れていく。一寸先まで霧に包まれると、悪魔が静かに号令を出した。


「さあぁ……虐殺してぇ殺戮してぇクライマックスを盛り上げてちょうだいねぇ……カーニバルのはじまりよぉ!」


 屍となった同胞たちが命令されるがまま、霧の中へと突進して行った。


「チキちゃんはワタシと一緒ねぇ……世界樹のところへ案内よろしくぅ」

「…………」

「お返事はぁ?」

「……ハイ」


 チキは驚きを隠せなかった。自分が世界樹のありかを知っていることを何故知っているのか?


「内心驚いているのかしらぁ……うふふふっ……ワタシの術は死体の記憶を読み取ることができるのよぉ……だからぁ……アナタのお父さんとお母さんの記憶を覗いてみたのぉ……そうしたらぁ……この里に出入りしているってぇ……里長の娘と知り合いでぇ……精霊にも会ったことがあるんですってねぇ……二人ともぉ……娘が誇らしいって喜んでいたわよぉ」

「……」

「ほんとぉ……虫酸が走るほど微笑ましいわよねぇ……絵に描いたような家族愛ってやつぅ?」

「……」

「でもぉ……戦闘力も低いしもう必要ないからぁ……その場で切り刻んで魔物のエサにしてあげたわぁ」

「――っ!」


 姿を見かけないと思っていたら既に……。


 泣きたいのに涙が出ない。こんなに悲しいのに感情が出せない。もうこんな苦しみには堪えられない。吐き出すこともできない悲しい感情どんどんたまり、心が押しつぶされそうだった。もういっそ押しつぶしてほしいのに……。


「アナタも災難ねぇ……女神の加護なんてなければワタシの術で心も支配されて楽になれたでしょうにぃ……まあそこが楽しみでもあるのだけどねぇ。それじゃ……行きましょうかぁ……覚醒者さん」


 ケタケタと笑う悪魔の背中に剣を突き立てることもできず、チキは黙って付き従うのだった。


 神殿跡に続く道を進んでいく。ときおり聞こえくる叫び声。耳を覆いたいがそれは許されない。叫び声を聞くたびにザリクは上機嫌に鼻唄を奏でていた。


 道すがら同胞にまじり魔物の死体も見受けられた。


「タルウィが連れてきた魔物も役に立ってよかったわぁ……エルフの死体ってあんまり強くないのよねぇ」


 心のない屍では精霊魔法が十分に使えないのだろう。皮肉にもそのせいで被害が少なくてすんだと思っていたのだが、ザリクはそんなチキの考えを嘲笑うかのように魔物を投入してきた。


「それにしてもぉ……不愉快な場所ねぇ」


 集落を抜け石畳の道を進むと、ザリクの鼻唄がやんでいた。ここには女神の残滓がある。自分たちにとっては心地よい聖域であるが、悪魔にとっては逆のようだった。


 ここにはじめて訪れたときのことは今も覚えている。里の者でも立ち入ることの許されない聖域に、エルエリスがこっそりつれてきてくれたその日、チキは初めて自分が覚醒者だと知った。覚醒したチキは一気にその才能を開花させ、大精霊にも認められた。しかし両親の反応は違った。父も母ものちに里を出る争いを好まない人たちだったからだ。だから覚醒した自分は愛されていないのだろうと思っていた。それなのに誇りだと思っていてくれたなんて……。


 ただそのことを知るのが最悪の方法だったことを思いだしてまた心が締め付けられた。


 神殿跡に辿り着くと、そこには激しい戦闘の爪痕が残っていた。先ほどまで生きていたであろう死体も見受けられる。ただその数は想像していたよりも随分と少なく見えた。


「気配がないわねぇ……諦めたのかしらぁ?」


 そんなはずはない。里の者なら命懸けで世界樹を守るはずだ。


「まぁ……入ってみればわかるわよねぇ」


 それは明確な命令をおびた声だった。チキは逆らうこともできず地下へと続く階段を下りていく。


 とうとう来てしまった。あの入口の先には世界樹がある。おそらく最後の抵抗が待ち構えていることだろう。自分はその場で殺されてもいい。だけど悪魔の手助けをすることだけが嫌で嫌でたまらない。


 願わくばすぐにでも殺してほしい。もう誰も傷つけたくない。そう思って世界樹の生える地下広間へと足を踏み入れたチキの目に飛び込んできたのは、絶望的な状況だった。


 どうして……?


 広間にいたのはたった二人……エルエリスをティアラだけだった。



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