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魔法じゃない、超能力だ  作者: 一川一
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異世界へ 1

 冷や汗でインナーが大変なことになっていた。


 夢ならさっさと覚めてほしい。何が悲しくていきなり魔物に囲まれなければならないのか?


「神様――っ! 神様――っ! やり直しやり直し! いきなり詰んでますよ――っ!」


 木々の隙間から見える空に向けて助けを求めるが返事は一向にない。もしかして干渉できない系?


 そもそも出来たら俺なんぞ送り込まないか……。やべぇ……。


 俺の絶叫に警戒の色を見せていた魔物たちも助けがない状況を察したのかニヤニヤと笑い出す。言葉通じる系?


「す、すいませんねぇ。お騒がせしてしまって……ここはあれっすか? 縄張り的な? 自分田舎もんなんで知らなくてですねぇ……すぐにおいとましますんで見逃してもらえたらなぁって……」


 一歩二歩と後退る……三歩下がったところでオークが吠えた。


「ぎゃあああああああっ! くんなくんなくんなぁ――っ!」


 ゴブリンとオークが一斉に襲い掛かってきたのだから見苦しい叫び声をあげてもしかたがない。そのまま反転して足がもつれて無様にすっこんろんだ俺は本気で死んだと思った。が――。


 オークの背中から血しぶきがあがり、飛び掛かってきたゴブリンも地に落ちる。突如としてバタバタ倒れていく魔物を見てついに俺の才能が覚醒したのかと思ったが――全然違った。


「無事か……少年?」


 魔物の屍を踏み越えてきたのは白銀の鎧に身を包んだ騎士だった。後頭部で束ねた長い金髪をゆらして近づいてくる。


 見るからに高潔な女騎士といった感じの人だった。整った顔立ちと切れ長の目を見て只者ではない感じ。オマケに美女とくれば役満である。


 俺は既に魔物に襲われた不運よりも女騎士に助けられた幸運に感謝していた。


「危ないところを助けて頂きありがとうございました!」


 先んずお礼を言う礼儀正しい俺。魔物に襲われたショックもあるのだが、思いのほか凄惨な死体を見ても動揺が少なかったことで冷静になれた。


「君は運が良い。帰らずの森の奥深くで神に助けを求めても届くものではないよ」


 そんないわくのありそうな森からスタートさせるなんて神様もとんでもないドジをしてくれたものだ。次に会ったら文句の一つも言ってやろう。

 

「騎士様が近くにおられて命拾いしました。ホントあざぁーす!」

「あざぁす? 聞き慣れない方言だがこの近辺の者ではないのか?」


 しまった……。つい癖でへりくだった言い方をしてしまった。しかしそれならそれで事情を説明して助力を得られないだろうか?


「ふむ……」


 なんて考えているうちに値踏みされていた。


 今更気がついたのだがなんで俺は学生服なんて着ているのだろう?


 こんなんどーみても怪しい。しかし逆に考えれば出自の説明に一役買うのでは――。


「変わった民族衣装だな」


 そういう解釈か……。ならばとポケットをまさぐるが……ない。こういう状況ならスマホを見せて写真を撮れば一発で解決できるのだが、神様はその程度の気配りもできなかったようだ。


 果たしてこのまま異世界から来たとか話して信じてもらえるだろうか?


 無理だな……。


 頭のおかしい奴だと思われるのがオチだ。俺だって元の世界で同じことを真剣に言われたらドン引きすること間違いない。やめておこうと結論づけた。そんなわけで――。


「このあたりの者ではないのですが今のは訛り的なものでして……」

「そうか……疑ってすまない。人に化ける悪魔もいるので警戒したが……君は大丈夫そうだ」


 悪魔に間違えられるほど醜いと容姿とか思われたのならショックだ……。俺はフツメンだよ?


 とりあえず大丈夫という言葉を信じよう。元は平凡な高校生だし悪魔なんて揶揄されるほど凶悪な面構えではないはずだ。


「気にしてませんから……ところで騎士様はどうしてここに?」


 先んず情報収集だ。なんせここがどこだかもわからない。そんな俺の質問に女騎士は具合が悪そうに咳払いした。


「先ほどから勘違いしているようだが……私は騎士ではなくただの冒険者だ」

「冒険者?」

「さよう……ギルドの依頼でこの辺りを調査している」


 なんだろうこの反応? 騎士っぽい格好は憧れ的なコスプレで実際に勘違いされて恥ずかしいのだろうか? よくわからないが一応謝罪しておいた。それにしたって堅苦しい物言いとかロールプレイ頑張りすぎだろう。


 女騎士……もとい女冒険者はコスプレの件はなかったかのように振る舞うと……。


「理由は聞かぬが……これ以上奥にすすむのはやめておいたほうがいい」


 そう言って俺に背を向けると手荷物らしいものを拾い上げて森の奥へ――。


「ち、ち、ちょっと待って下さい!」

「ん?」


 奥にすすむなんて気はさらさらないが、このまま一人にされては今度こそ命が危ない。こんな物騒な森を単身走破する自信はサラサラない。絶対死ぬ。彼女の存在は間違いなく生命線だろう。


「あ、あの……お礼――そう、お礼ですよ!」


 冴えてる俺はポケットをあさる。スマホはなかったが……あった――っ!


 その感触は間違いなく慣れ親しんだ俺の財布だった。スマホは入れ忘れたくせに財布は持たせているとかほんとドジだな。だがいまはそのドジに感謝すると財布を開きお札を抜き出した。なけなしの三千円だ!


「それは……呪符か?」

「――っ!」


 そりゃそうだ……そうだよな。異世界で日本円が使えるわけねぇーよな!


 膝を落とした俺の落胆ぷりを見て女冒険者は気まずいとでも思ったのか受け取ってくれた。優しさがしみる……。


「ありがたく受け取っておこう。では――」

「お待ち下さい!」


 ここで逃してはダメだ。あわよくば金銭で護衛を頼むつもりだったが無一文だと気づき計画は頓挫。しかし諦めるわけにはいかない。なんせこちらは命懸けなのだ。


「俺を雇って下さい!」

「…………」


 唐突な申し出に女冒険者も言葉をなくす。無理もない。俺だってそんなこと言うつもりなかった。必死すぎて口から出ただけだ。しかしこの案は悪くない。これで行こう!


「おなしゃすっ! 荷物持ちでも夜の見張りでも魔物の囮でもなんでもしますのでどうかどうか――見捨てないで下さい!」


 両手を握って神にでも祈りを捧げるように懇願する。


 かつてこんな情けない異世界転生があっただろうか?


 異世界転生者の面汚しかもしれないがそんなこと知ったことではない。俺は岩に囓りついてでも生き残り本懐を遂げると誓ったのだ。いつかって? 今でしょっ!


 目薬はないが自分の姿が哀れすぎて涙が出てきたので結果オーライ。高潔そうな女冒険者は断るに断れずその場に立ちすくんだ。


「おなしゃっすっ! おなしゃっすっ!」

「わ、わかった。わかったから大声を出すな。近くに魔物が潜んでいるかもしれんのだぞ」

「さーせんっ」


 こうして俺は九死に一生を得たのだった。ふぅ……マジで助かった。



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