エルフたちの思い 4
里長に会ってほしいとエルエリスに頼まれた俺たちは、里の有力者が集まる集会場へと連れてこられていた。
なんとエルエリスが里長の娘であり、それなりの地位にいるものだと教えられた。そういうことはもっと早くに言ってほしい。
いま目の前に立つ青年のようなエルフが、実は父親で里長と聞いて恐縮しているところだった。
「遅くなって申し訳ありません父上――」
「よい。どこにいっていたかは今は問わない」
ひょっとして精霊に会ったことをとがめられているのだろうか? まさかアポなし?
青ざめた顔のエルエリスを見ると、どうやらそのまかさのようだ。勘弁してくれ……。
しかしそのことをとがめられることはなく、今は部外者を連れてきたことに対して詰問されていた。
「――ティアラとケイジは一緒に戦ってくれる仲間です。会議に参加する権利があるはずです」
「勝手なことをするな。これは里に住むエルフにかせられた使命だ。部外者を巻き込むつもりはない」
「しかし父上、二人はハイデーモンと戦うだけの力があります。さきの戦闘の報告聞いているのでしょう?」
「……ああ、聞いているとも。神話級の竜が召喚された事実もふくめてな」
見られてる見られてる。会議に集まった重鎮たちも俺たちに注目していた。しかしその表情を見ても歓迎されているようには見えない。はたしてこの連中と協調できるのだろうか?
難しいように思える。しかし俺たちだけで解決できるほど簡単な問題ではない。魔力資源が奪われるのもまずいし、なによりチキを救い出すには支援がいる。狡猾な悪魔に苦汁をなめさせられたばかりの俺たちには身にしみていた。
「里長殿は勘違いをされているようだ」
一向に進まない話しに割り込んできたのはティアラだった。
「どういう意味かね……聖方騎士どの?」
「たしかに私は教会の世話にはなったが、この体にはあなた方と同じ血が流れている」
「そうは見えぬが……ハーフかね?」
ティアラが肯定すると外野がどよめいた。そしてその顔は険しい。何故この状況でカミングアウトなどするのか?
得策ではないはずなのにティアラの堂々とした態度を見ていると口を挟む気にはなれなかった。
「半分とはいえ私にもエルフの血が流れている。生まれは違えど同胞として共に戦いたい」
ティアラのかたい意思が伝わったのか、しばし無言だった里長が静かに頷いた。これに反発する声もあがったが里長がおさえて落ち着いた。めでたしめでたし……と思ったのだが?
「そちらの魔術師の少年は人間で間違いなかろう?」
え? まさか俺だけハブられるの? 同胞でもないし言い返せない……。
「彼はたしかに人間だ。だが……大精霊が認めた賢者であり、ドリュアス様より助力してほしい頼まれている」
里長の顔色がかわる。外野も動揺しているようだった。そしてエルエリスは先ほどよりも顔色が悪い。内緒にしてほしかったのだろう。既に遅いと思うのだが……。
ともかくドリュアスの名前を出したことで一気に好転して会議にも参加させてもらえることになった。とはいえ未だにアウェイ感が強い。
俺たちは居心地の悪さを感じながらエルエリスに案内された席につくとようやく会議がはじまった……。
真夜中だというのにその場にいるものたちの気持ちは高ぶっているようだ。それは怒りであり恐れでありさまざまだが、一貫してあるのは使命を果たそうとする強い意志だ。
「――現状は極めて不利ではあるが我々に逃げ場などない。どれだけ同胞を失おうとも世界樹を守るという使命を果たさなければならない!」
里長の言葉に勢い勇んで立ち上がる者たちの顔に決死の覚悟が見受けられる。古来よりエルフは大精霊に世界樹を託された種族としての誇りがあるのだと、ここに来る前にエルエリスに聞かされていた。
そういう理由もあってこの里のものたちにとってこの流れは自然なものなのだろう。しかし作戦とも呼べない玉砕論を聞かされて俺たちは困惑していた。
「お待ち下さい父上」
声をあげたのは俺たちの隣で黙って聞いていたエルエリスだった。
「なんだエルエリス?」
「お言葉ですが防戦一方では疲弊するばかり、こちらの戦力は削られる一方ではありませんか?」
「他に方法はない」
「いいえ、ここは攻めるべきです。これ以上の被害を拡大しないためにも!」
「お前が若い連中をつれて偵察と称し無下に被害を増やしておいてか?」
「それは……」
痛いところをつかれたようだ。たしかに無闇に探し回ったところで見つかるものとも思えない。敵の狙いがはっきりしているのならそれをふまえて作戦を練るべきではないかと思う。
「横から失礼する」
挙手したのはティアラだった。半端者が口を挟むなと言わんばかりに睨まれるが、ティアラは周囲の目も気にせず口を開いた。
「守るといってもこの森は広い。現状の戦力では守りが薄くなり容易く突破されてしまうのでは?」
勢い勇んでいた連中も痛いところをつかれたのか、言い返す言葉は根性論だけだった。
集会場に行きすがら聞いた話によると、主力はエルエリスが連れていたエルフたちであとは予備人員らしい。数の上では倍以上いるが、戦力としてはこころもとない。主力も同士討ちさせらて減らされている現状を考えると、ティアラの懸念も頷ける。
「君の言う通りだ。だが敵は結界の手薄な場所を攻めてくるはず。ならば配置は限られる。我等は連携をとり、すぐに応援に駆けつけられるように準備すればよい」
里長の言葉にそうだそうだと活気づく。半端者が口を挟むなと調子にのる連中もいた。しかしティアラも食い下がった。
「敵が一カ所だけを攻めてくるとは限らないのではないか? あの狡猾な悪魔がそんな単純な攻め方をするとは思えない」
これは俺も同意だ。道案内がチキだけだとしても、ザリクが力押ししてくるとは思えない。タルウィならあるはと思うが……ふと嫌な想像がわいた。
「敵が同胞を傀儡にしているならば数はしれている。現状の戦力でも対処できると判断したまでだ」
「それはどうだろうな……」
俺の呟きは思いのほか注目を浴びた。
「どういう意味かな……賢者殿?」
緊張が伝わる。先ほどのドリュアスに認められたという言葉が効いているようで、俺の意見は無視できないようだ。それなら遠慮なく話してしまおう。
「昨晩倒したハイデーモンは多くの魔物を操っていた。ならザリクも同じことをしないとも限らない。ネクロマンサーなら尚更じゃないかと思うがどうだろう?」
一同が押し黙る。多数の魔物まで従えているならば数の優位は期待できない。それは防戦にまわれば更に状況が悪化することを意味していた。
あくまで可能性だが否定はできない。タルウィが出現した場所もこちらの里に近いことを考えると、あの二体の悪魔はそれぞれ里を襲撃しようとしたのではないかと思うのだ。
「では……打って出ろと?」
エルエリスが期待の眼差しを向けてきたが……申し訳ないが違う。
「基本は防衛でいいと思う。ただし――敵を誘い込む」
「それでは――里を戦場にするように聞こえるが?」
里長の厳しい眼差しに、俺は静かに頷いた。当然のように波紋が広がる。
「分散しても各個撃破されれば被害が広がるばかりだ。敵の狙いが世界樹ならいずれはあの場所にたどり着く、なら待ち伏せした方がいい」
「ふざけるのもいい加減にしてもらおう」
「ふざけてなんかない。敵の手中にはチキがいる。あの霧を発生させる魔法は厄介だ。森のなかで使われたらまともに連携なんてとれないんじゃないか?」
里長が黙る。どうやら霧魔法の効果も知っている様子だ。ならば話しは早い。
「だけどかってしった里の中なら話しは違う……だろ?」
「言いたいことはわかる。しかし……だからといってドリュアス様を危険にさらすような真似は断じてできない」
理解はできるが納得はできないと頑なに首をふらなかった。が――。
「気遣いは無用……わたしは最善を尽くすことを望みます」
突然耳元で囁かれた声は聞き覚えのあるものだった。その正体が円卓の中央にすっと現れる。
「ドリュアス様!」
誰が叫んだのか、エルフたちが一斉に席を立ちかしづいた。里長も立ち上がり頭を下げる。
「世界樹から離れこのような場所に……ご心配をお掛けして申し訳しだいもありません」
「構いません……それよりも彼等に力を借りたのはわたし自身……この命をあずけました。ですので犠牲を恐れず最善の方法を模索して下さい」
里長も周囲のエルフも俺を見る目が変貌していた。恐れと憧れの入り交じった深い感情の色を見せている。
「本当に……よろしいのですか?」
「かまいません」
「かしこ……まりました」
里長だけはしぶしぶと言った感じだったが、これで冷静に話しができそうだ。
「では賢者……ケイジ殿でしたな。具体的にはどういった方法を考えているのか詳しく聞かせてほしい」
「ん? ああ……そうだなぁ――」
先ほど言ったことに付け加えると、わざと手薄な箇所をつくりそこから侵入してくるように仕向け、神殿跡に続く場所で待ち伏せをして各個撃破する。世界樹前で総力戦になると思うので、それまでにできうる限り数を減らし、悪魔を引きずり出して短期で終わらせる。これが大筋だろうか……。
偉そうに口にしてしまったが、前世は一介の学生でしかない。ちょっと不安になったのでティアラに意見をきいてみたが……。
「悪くない作戦だ。事前に非戦闘員を里から逃がしておけば人的被害最小限におさえられる」
ティアラがドヤ顔で里長を見ていた。煽らないでほしい……。
「里を犠牲にする方法など思いついても口には出せない。それゆえに効果的であることは認めよう。それで同胞の安全を守りつつ使命を果たすことができるなら……認めよう」
なんか話しがまとまってしまった……。今更ながら本当にそれでいいのかと不安になる。
「チキを――チキを助け出したいっ」
それはずっと黙っていたエルエリスの悲痛な叫び声だった。
「エルエリス……私情は捨てよ」
「しかし父上――」
「落ち着けよ。俺はチキを見捨てるつもりなんて微塵もない」
俺はエルエリスを安心させて自分自身の気持ちも話した。
「俺に……考えがある」
それは危険な賭になるが、うまくいけば世界樹もチキも助けられる確信があった。そして俺は全員を納得させるためにその力を目の前に示してみせた。




