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魔法じゃない、超能力だ  作者: 一川一
13/29

帰らずの森のエルフ 5


 それから数軒見てみたがどこも同じようなものだった。


 これで違和感の正体がはっきりした。この集落には……誰もいない。


 正確には一人いることを思い出した俺は、家から飛び出すと小川へと飛翔した。


 同時に千里眼を使い上空から探す。人影はすぐに見つかり俺は河原に降り立った。


 一糸まとわぬ姿で水浴びをするティアラの背中が見えた。暗がりでもよくはえる白い肌に水滴がしたたり落ちて均整のとれたボディラインをあらわにする。


 俺はその姿に見とれることなく周囲に気を配りながらティアラに近づいた。


 河辺に足を踏み入れるとティアラが振り返る。乳房を隠すことなく正面を向いたティアラは俺だと気づくと安堵の笑みを浮かべた。


「君か……驚かせないでくれ」

「……チキはどこですか?」

「彼女なら先にあがって帰ったよ。美味い夕飯をごちそうするとはりきっていたぞ」

「そう……ですか」

「なんだ浮かない顔をして? 疲れているんじゃないか?」

「そう……かもしれませんね」

「ならば体を清めてゆっくり休むべきだな」

「……」

「こっちにくるといい。背中を流そう」


 ほのかに上気した顔でティアラが手招きする。俺が躊躇していると彼女の方から近づいてきた。腰まで浸かって体があらわになり、俺の目の前で立ち止まると――。


『物理攻撃をレジストしました』


 隠し持っていた短剣が弾き飛ばされたティアラは驚きもせず、河辺に隠していた剣を拾い上げて斬りかかってきた。


 どっちだ?


 俺は斬撃をレジストしたのを確認すると体勢を崩したティアラへと踏みだしてその腕を掴んだ。


『魅了をレジストしました』


 よしっ!


 ティアラから抵抗の意思が消えると瞳の奥に色が戻った。


「ケイジ……いつからここに――っ!」


 自分の痴態に気づいたティアラが離れようとするのを止めた俺は、そのまま彼女の体を引き寄せた。


「ケイ――」

「俺から離れないで――っ!」


 その攻撃は彼女の体を抱き寄せるのと同時だった。燃えさかる炎の矢が無数に襲いかかる。しかし炎の矢は熱も感じさせずに全て消失した。


 しばらく待ったが第二波はこなかった。俺は上着を脱ぎティアラに羽織らせる。


「ケイジこれはいったい……?」

「どうやら操られいたようですね……。思い出せませんか?」

「すまない……。チキと水浴びをしてところまでは覚えているのだが――そうだ、チキはどこだ? 無事なのか?」


 俺はかぶりをふると千里眼で見つけた人影の方を向いた。


「いるんだろ? 出てこいよ……」


 木々の隙間の暗がりから出てきた少女は紛れもなく俺たちの知るエルフだった。


「……チキ」

「ばれちったー……てへっ」


 チキは悪びれる様子もなく、かわらない笑顔で応えた。


「いまの攻撃はなんのつもりだ?」

「えーなんのことかなぁ?」

「ティアラさんに魅了をかけたのはお前なのか?」

「しーらないっ」


 目を細めてニヤニヤとチキらしくない粘つくような笑みを見せる。


「調べてみたら集落には誰もいなかった……里のエルフも……お前の家族もだ」


 背後でティアラが動揺を見せたが口を出したりはしなかった。


「あはっ……気づいちゃったかぁ……ケイジ君やるぅ!」


 とうとう認めやがった……。


「あのね、みんなでピクニックに行ったのっ! チキだけおいていくなんて酷いよねっ」

「いい加減にしろっ!」

「……怒られちったー」


 ふて腐れたチキは地面に唾を吐くと――。


「もう気づいてんだよね……みんなが――どうなったか?」


 はやりあの血痕は……。


「あはっ……いまケイジ君が考えてるとーりだよっ」

「じゃあ……」

「そっ! 全員チキが殺したのっ! お隣の家族もそのまた隣の兄弟もみーんなみーんなチキが殺しにしたんだよっ! それでねっそれでねっ! 里のみんなを殺したあとは家に戻って……ぷぷぷっ――命乞いするパパもっ! 泣き叫ぶママもっ! チキがこの手でみーんな殺したのっっっっっっっっ!!!!!!!!!!」

「――っ!」


 チキは興奮してゲラゲラと狂ったように笑い出した。しかし――その頬には瞳からあふれ出た涙が流れていた。


「チキ……お前――っ!」

「あらあら――役者が三流ではせっかくの舞台もだいなしねぇ」

「――っ!」


 その声はチキの背後に現れた赤黒い魔法陣から聞こえてきた。警戒しているとほどなく中から黒いフードを被った小柄の女が現れた。


 顔色の悪い女だった。そのくせ唇だけが血のように紅く薄気味悪い。とても――まともな人間には見えなかった。


「お前が――黒幕か?」

「ふふふっ……はじめましてぇ……ワタシの名はザリク……アナタたちの大嫌いなデーモンよぅ」

「――っ!」

「まだいやがったのか……ハイデーモン!」


 場に緊張が走る。タルウィとの一戦を思い返すと勝ちはしたが、無様に気絶した手前余裕なんてなかった。


「あらぁ……そんなに緊張しなくてもいいのよぅ。ワタシは役者に指導をしにきただけですものぉ」


 人の心を逆撫でするような間延びした声で語り掛けてくる。するとザリクはチキの頭に手を置き――地面に叩きつけた。


「てめえ――っ!」

「動いちゃダメダメ――観客はじっとしててねぇ……じゃないとぉ……役者のためにならいわよぅ」


 ザリクはガラクタでも拾うかのようにチキの髪をつかむと無理矢理立たせた。チキの顔は泥で汚れ、綺麗な肌は傷つけられていた。だというのにチキの顔には表情がなく、痛みなど感じていないようだった。


 すぐにでも助け出したい衝動にかられたが、こいつの実力とチキの状態を考えて思い止まった。


「そう……それでいいのよぉ。あのね、これは指導なのぉ……この子が立派な殺人鬼役を続けられるように愛の鞭なのぉ」

「続けさせる……だと?」

「そうよぅ……だってこの子まだまだへたくそなんだものぉ。でも素質はあると思うのよぅ。だってぇ……一晩で里のエルフを全員殺したんだから――あはっ」

「殺させたのはお前だろうがっ!」

「あらぁ……誤解よぅ……殺したのはこの子……この子がこの可愛らしい手で皆殺しにしたのよぅ。ワタシは台本を与えただけぇ……この子が一軒一軒足をくたくたにして殺してまわったのよぅ」

「黙れよっ!」

「アナタたちにも見せたかったわぁ……この子が玄関の戸を可愛らしくコンコンって叩いてねぇ……こんばんわぁって言うと……あらあらこんな遅くにどうしたのチキちゃんって奥さんが顔を出すのぉ……それでね、なんの疑いもなく無防備な顔にえいってナイフを突き立てると金切り声をあげて絶命するのぉ!」

「やめろっ!」

「大丈夫大丈夫……だって風魔法で音を漏らさないように工夫させたものぉ……ようやく事態に気づいた旦那さんがお子さんを守ろうとかばうでしょう……そしたらしめたものよねぇ……風の矢でずどんってまとめて一刺しなんだからぁ。それからそれから――」


 俺が何を言おうとこの女は狂気じみた笑みを浮かべて、悲惨な惨状をつぶさに語り続ける。チキがやらされたことは耳を塞ぎたくなるような残酷な行為だった……。


「だからワタシは特等席で見れてすっごい満足だったわぁ……カーテンコールがなかったのが残念だったけどぉ」


 よくもぬけぬけと……。


「ケイジ……悪魔の虚言に耳を貸すな。里に誰もいなかったのなら脱出した可能性もある」


 たしかに血痕はあったが死体はなかった。しかしチキの流した涙の訳が気にかかる。だがその答えはすぐに明かされた。


「あらやだぁ。ちゃあーんと埋葬したわよう。だって死体って……臭くてたまらないじゃない」


 ザリクは鼻を押さえて嫌そうな顔をするがその目は笑っていた。


「すっごい大変だったのよぅ……ねぇ……チキちゃん?」

「てめえまさか……」

「もっちろん。だって殺したのはチキちゃんなんだから後片付けも当然しなくちゃねぇ」


 色を失っていたチキの瞳から再び涙がこぼれ落ちた。


「あらやだぁ。またなのぅ……しょうがない子ねぇ。ほーら……笑いなさぁーい」


 その呪いの言葉に反応したチキの口角がつり上がる。少女は涙を流しながら歪な笑みを浮かべていた。


「聞くに――堪えん」


 どこからともなく聞こえてきたその声と共に上空からザリクへと炎の矢が落ちてきた。しかしザリクが羽虫でも振り払うかのように手をふると、炎の矢は一瞬で吹き消えた。


「邪魔をするのはだぁーれ?」


 森の中から姿を現したのは……その瞳に怒りの炎を宿したエルエリスだった。



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