不安
数日後。
間宮くんはずっと調子の悪そうな日々が続いている。
今日はどうやら欠席らしい。
「ほんと、おかしいよな」
中空くんは連絡を受け取ったらしく、メッセージを確認したあと
端末を投げるようにカバンへ放り込んだ。
「大丈夫かなあ……大きな病気とかじゃないならいいんだけど」
「それはシャレにならないからやめろ」
「ごめん」
中空くんは席に着くなり大きなためと頬杖をつき、
「アイツ、あんまり関わるなって言いやがる」
と、ふてくされていた。
「絶対、何かあったに決まってる」
でも聞いても教えてくれねえんだよなあ、とボヤく中空くんに心当たりを聞いてみる。
「何かって……」
「それが分かったら苦労しねーよ」
ですよね、と頷いて。
「ま、俺らにできることなんてアイツが話してくれるのを待つしか無いんだよな」
「うん……」
(いつか、話してくれるといいな)
そういえば前にもそんな風に思ったことが──
と、記憶を振り返りそうになって気づく。
前、にも?
いつ?
過去と現在の境界がなくなってきているようだ。
──怖い。
これは私なのか、過去の『さくら』なのか。
一体、どっち?
「どうしたの、ぼんやりして」
メイに話しかけられて意識を現実へと戻す。
「ううん。なんでもない」
「おいおい、お前までおかしくならないでくれよ?」
中空くんは冗談じゃないといった風だ。
私だってそんなの困る。
「大丈夫だって」
「本当かよ……」
彼はいぶかしむようにこちらを見ていたけれど、ふいにこちらに向き直り小さな声で言う。
「なあ、何かあったら言えよ」
「え?」
「……一人で抱え込むなよってこと!間宮みたいなのばっかりだと俺が病む」
ああ、そういうことかと理解する。
「うん、ありがとう」
素直にそう返事をすると、ニヤニヤしているメイが視界に入った。
「なによ」
「いや、いい感じだなって思って」
「ええ?メイったら何処を見てそんな風に」
「終始」
「はあ?」
素っ頓狂な声を上げたのは中空くんだった。
「おま……俺は別に」
「はいはい分かった分かったから!ムキにならないの」
「だからそういう言い方」
「あっ、ほら授業始まっちゃう!早く用意しないと」
シレッとメイが席に着くとタイミングを計ったかのようにチャイムが鳴る。
「……ったく」
「もう」
同時にため息をついて、思わず顔を見合わせる。
「ふふっ」
二人で同時に吹き出し、不思議な気持ちになる。
居心地のよい空気感とでも言うのだろうか。
まだ知り合って間もないけれど、ずっと昔から知っているわけで。
それがまた、懐かしさを引き出すのだった。
けれど──
『懐かしい』と思うのは『さくら』の記憶であって
厳密には私のものでは無いのだ。
こうして、過去の自我と今の自分との境界線が
どんどん曖昧になっていくのが怖い。
過去の私にとらわれてしまうと、今までの私が歩んできた道が潰されてしまいそうな気がする。
そうなると『私』はどうなってしまうんだろう。
漠然とそんなことを考えていた私の目を覚まさせるかのように、ポケットに入れたままのスマホが震えるのを感じた。おそらくメッセージの受信通知だ。
まだ先生は教室には来ていない。
私は机の下でそっとメッセージを確認した。
『今日、予定ある?』
『偶然、そっちに行く用事があってさ。ついでに会えたらと思ったんだけど』
前回のことを思うと気まずいとは思う。
だけど、その後に送ってきたメッセージには反省している様子が見えた。
そもそも、まだ彼は中学生だ。
感情に任せてつい走り過ぎてしまうこともあるかもしれない。
私はそっと隣を伺う。
彼は次の授業で使う教科書をパラパラとめくり、ぼんやりと眺めていた。
相談、した方がいいのかな。
でもきっと、行くなと言われる気がする。
もしくはメイにも頼んで一緒に来てもらうか。
少しの間、思案して。
私は手早くメッセージを返信した。




