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距離感。

結局。

メイに話していた内容は全て二人に聞かれていたようだ。


「ちょっと待て、お前昨日アイツに会ったのか?」


中空くんは立ち上がって私の方へ詰め寄ろうとするも、間宮くんに制されてそのまま再び席に押し戻される。


「この間ゆっくり話せなかったから、って言われたから……」

「だからってそんな昨日会ったばかりの奴に」

「……なんとなく、大丈夫かなって思ったんだもん」

「なんだよそれ」


昴、と間宮の声が入る。

中空くんは不服そうに口を尖らせて頬杖をついた。


「確かに、いくら相手が中学生と言えども知り合ってすぐなのに二人で会うのは無防備すぎるんじゃないかな。少なくとも俺と昴はそう思ってる」


中空くんを押さえてくれていたはずの間宮くんまでもがそんなことを言う。


間宮くんはタケルくんと知り合いというのもあるせいか、隣の彼ほど心配はしていないようだけど。


なんだか自分が否定されている気がした。

そう言えば昔もこんな事があったような──



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『だからお前は危ないって言ってるんだ』

『うるさいなあ。過保護だって』

『いいや、お前は何も分かってない』

『何よ、それってどういう事?』


あれは確か、クラスメイトのブランがデートに誘ってくれた時のことだ。

以前から食べてみたいと思っていたフルーツたっぷりのパンケーキを一緒に食べようと言われ、すぐにOKしたのをタイミング悪くリンに見つかってしまったのだった。


『ブランはお前の事を狙っている』

『パンケーキ食べに行くだけだよ』

『だからって二人だけで行くことないだろう』

『そんなに心配する事じゃないでしょ?』

『なんだよそれ』


リンと睨み合っている間を割って入るように、後ろから声が聞こえる。


『確かに、美味そうなお菓子に誘われてホイホイ着いていくのは無防備すぎるんじゃないか?俺も心配だよ』


兄がそんな事を言いながらこちらに近付いて来るのが見え──


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おい、人の話聞いてんのか?」

「えっ」

不意に耳に入ってきた声の主を見て、意識が現実に戻ってきた事に気付いた。


やれやれ、と肩をすくめる間宮くんを見ると不意に親近感を覚える。

「ごめん、ちょっと昔の事を思い出して」

話を聞いていなかった事を謝ろうとしつつ、なんだか懐かしい気分になってしまい思わず頬が緩む。


「お前なあ」

こんな時に何を、と言いかけて中空くんは何かを考えるかのように動きを止めた。


「中空くん?」

「え、お前『昔の事を思い出して』って……?」

「うん、昔もこうして2人に怒られた事があったなあって……あれ?」


自分で言っていて変な感覚に陥る。


さっき思い出していたのは

リンと──


「夢の中でも無いのに『今』思い出したり出来るのか?」

「えっ」


そう言われてみればそうだ。

前までは夜、寝ている間に『夢』として映像を観る気分だったのに。


中空くんとぶつかった時や手が触れた時、間宮くんともそうだったけれども。


「……確かに、普通に思い出してるね」

「頭痛は?」

「全然」


中空くんと間宮くんが顔を見合わせる。

そしてまた、二人同時にこちらへ向き直る。


「やだ、さくらが覚醒してるってこと?!」

メイが驚いたように口にした途端、授業開始のチャイムが鳴り響いた。


「覚醒って」

私は聞きなれない漫画の世界のような言葉に思わず吹き出したが、メイは至って本気だ。

「だってそうじゃない。今まで死にそうな顔して夢が~って言ってたのに」


確かに。

あの頃の体調の悪さに比べたら、今が不思議なくらいだ。

時折、勝手に意識がワープしてしまうのは如何なものかとは思うけれども。


先生が教室に入ってくる音で、私は一度思考を止めた。授業に集中するためだ。

おかげで、一瞬脳内をよぎった考えをすっかり忘れてしまった。


皆が黒板へ集中する間、間宮くんは何か考え込むようにノートを見つめているのが見える。

彼にしては珍しい光景だ。


「間宮」

先生もいつもと違うその様子が気になったのか、突然に彼の名を呼んだ。

「あっ、はい」

反射的に慌てて立ち上がる間宮くんは、本当に心ここにあらずといった様子だった。

「立たなくていいから、そのまま教科書を読んで」

「は、はい」


完全に油断していたらしい。

皆がくすくす笑うのを遠くに聞きながら、間宮くんは黙々と目の前の文字に目を滑らせる。


らしくない彼の様子が気になるものの、それを訪ねられるほどの間柄でもないことを

今朝の挨拶の雰囲気から推測し踏みとどまる。

私が入ることのできない『何か』が、彼との間にある気がしたのだ。


そうして。

上の空のまま授業を終えた休憩時間。

私は改めて、ポケットに入った端末のメッセージをチラリと確認する。


タケルくんからはもう少し、続きのメッセージが来ていたようだ。

『昨日の言葉、一旦忘れてくれていいから。俺から答えを急いで君に求めることはもうしない。』

指でそっと画面をスクロールする。

『だけど──友達として、これからも時々……会ってくれたら嬉しい』


友達として。


その言葉に心なしかホッとした。

そう、記憶を共有する仲間として、思い出を語り合える仲でありたいとは思っている。

それはタケルくんにだけではなく、こうして隣に座る彼らもしかり。


クラブ活動のノリでいいと思っていた。

あの頃の楽しかったことを、時折振り返って懐かしむ関係がいい。


それから先のことは、何も想像できない。



私は小さくため息をついて、再びポケットへそれをしまった。

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