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違和感

その頃

さくらとタケルが二人で会っているとはつゆ知らず。

間宮拓海は自室のベッドに海に身を沈めていた。


ピンポーン


どのくらい眠っていたのだろうか。

遠くに響くインターホンの音で意識を取り戻す。


両親はまだ仕事中だ。

もうこのまま居留守を決め込んで寝てしまおうかと思っていたのだけれど。


ふいに時計を見て今は夕方なのだと気づく。

おもむろに窓の外を見やると、見慣れた人物が玄関先に立っているのが目に入った。


ゆっくりとドアを開ける。


「よ、具合はどう?」

「寝起き」

「そう」


質問の答えになっていないが、そこを深く掘らないところが

彼──中空昴の良いところだと思っている。


軽く促して彼を部屋へ招き入れる。

昴もまた、慣れたしぐさでそれに従った。


部屋に入るなり、授業のノートや預かったプリントを手渡される。

「ん」

「ああ、サンキュ」


まだ寝起きの、うまく回らない頭で受け取った書類を確認しながら

じっと自分に向けられた彼の視線の意味を考える。


「……なに?」

「顔色悪いな」

「ああ、寝てたからじゃないかな」

「それだけか?」


ノートのページをめくる手が止まる。

それだけ、とは?


「……」

「大丈夫か?」

「なにが?」


素直にそう聞き返す。

大丈夫だと答えたところで、目の前に佇む彼は納得しないだろう。


「本当に、ただの頭痛?」

「うん」


手短になんでもないフリをして答える。

そう、これはただの頭痛だ。

なんの意味もない症状。


少し疲れているだけだ。

しっかり休んで冷静になればきっと──


きっと、どうなるのだろうか。


漠然とした謎の不安に苛まれそうになり、思考を切り替える。

深く考えるのはやめよう。

体に良くない。


そう自分に言い聞かせているのに


「あの時……何かあったんじゃないのか」


彼は静かに尋ねてくる。

その目は何故か、心を見透かされていそうで居心地が悪い。


「予想外すぎて驚いただけだよ」


まさか彼女と手が当たっただけで

あんなにも鮮明に記憶が引きずり出されるとは思わなかった。

そう、想像以上に鮮明だったのだ。


そして──

それに引っ張られるかのように

古い記憶が次々と蘇ってくる。


自分の罪を知らしめるかのように。



「確かにアイツとああなった後はキツいけどな」

「え、お前も同じことが……?」

「ん?ああ、お前には話してなかったか。前にちょっとあってな」

「……」


彼女と触れることで反応する記憶があるのだろうか。

そうなると──


「なあ……お前、何か思い出したんじゃないか」


昴の声にハッとする。

今なら、話しても良いんじゃないだろうか。


「……」


口を開こうとして、ふと窓の外に視線を感じる。


「……なんでもないよ」

「今、絶対お前何か言おうとしただろ」

「いや、違う」

「何が違うんだよ」


思わず昴が両肩を強く掴む。


「やめろ!」


その手を振り払い、彼から一歩後ずさる。


「どういうことだよ」

「ごめん」

「一体何を謝ってんだよ」

「……ごめん、まだ……少し……混乱してて」


外に感じた、刺さるような視線。

喉元に刃物を突きつけられるような恐怖と緊張感。


「……病み上がりに悪かった」


昴はそう言って、小さくため息を吐き

足元に投げ出されたカバンを拾う。


「なあ、これだけ聞いていいか?」


部屋を出ようとして一度立ち止まり、こちらを振り返る。


「……あの、タケルって奴。あいつは誰だ?」

「……塾の後輩だよ。そして俺の兄、フリッツだと名乗ってきた」

「それって本当のことか?」


すぐに返された質問に、思わず喉が詰まる。


「俺は、お前の方がよっぽどフリッツみたいだと思ってた」

「!」

「本当にお前の顔色が悪いから今日は帰るけど──もし、話せる時が来たら……ちゃんと言えよ」


彼はそう言って、玄関へと足を運んだ。


「ごめん」


小さくつぶやいた声に、彼は片手をあげて答える。


「じゃあ」


そう言ってドアノブに手をかけた途端、インターホンの音が鳴り響いた。

思わず二人で顔を見合わせる。


昴がドアを開けるとそこには


「こんにちは」


中学校の制服に身を包んだ少年

小林タケルが、立っていた。

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