幕間 ドラゴンさんのいる国とは。
前述したとおり、ドラゴンさんはザイドラ村――今はもう街となったその場所に存在している。その街は、リブンという王国に所属している街である。
自然豊かな王国に住み着いた高位竜。そして、高位竜が住まっているという事で隣国からの干渉も減ったものである。
人の手に余る高位竜。
本来、竜とは人と関わることはせずに自由気ままに生きているものである。高位竜にとって人という人種は虫けらのような取るに取らない存在でしかない。
人は時に高位竜の強さにあやかろうとし、時にその力を利用しようとしてきた。
まさか、高位竜が人間の赤子を拾ってから人と此処まで関わるようになるとは誰も思ってもいなかったのだ。高位竜がこうして人の国と深く結びつき、その影響で他の竜たちをもその国に住み着いたり、やってきたり――そんなことになるなどと誰も想像もしていなかった。
だからこそ、近隣国の中ではリブン王国はよくやったなどと悔しそうに口にする者もいる。多くの人は高位竜の恐ろしさを把握しているために、愚かな真似をするものは少ない。しかし中には、高位竜が人間の赤子を使うことによって国に居つくというのならば、赤子を高位竜の前に差し出せばいいなどという恐ろしいことを考える者もいるのだ。
ドラゴンさんが人の赤子を拾ったのは偶然でしかない。しかし、中にはそれを仕立て上げようと考えている者もいたのだ。ただし、それはうまくいくはずもなかった。そもそもドラゴンさんが人の赤子を拾ったのは本当に偶然であったし、基本的に高位竜というものは人の前に姿を現さない。人の姿になって人の街にいることもあるが、そんな竜を人が見つけることは困難である。そのため見知らぬ高位竜相手に仕立て上げることはあきらめたものの、居場所が分かっている高位竜――要するにドラゴンさんたち相手にそういう仕立て上げをしようと考えたようだ。
しかし流石にそういう動きはドラゴンさんの言うきんきらきんやきんきらきん2号の手によって阻止された。
ドラフ・シューベルトも、キジシサー・リブンもそんなことを望んでいない。
実際にドラゴンさんたちと接している彼らは、ドラゴンさんたちが決してただ甘いだけの存在ではないことを知っている。
人の赤子を拾い、その子供をいつくしんでいる。そしてザイドラに住む者たちを大切に思っている。楽しそうに笑い、人々の間に混ざって笑うドラゴンさんは決して恐ろしい存在には見えないかもしれない。とはいえ、ドラゴンさんたちは幾ら恐ろしく見えなかったとしても高位竜なのだ。そのことを忘れてはいけない。高位竜は決して侮っていい存在ではない。
例えばドラゴンさんたちはもし自分たちの大切にしているものが害されれば人に牙をむくだろう。その存在を殺すことをためらわずに殺しつくすだろう。例えば、このリブン王国がドラゴンさんたちにとって潰すに値する理由を作ってしまったら、何匹もいる高位竜の手によってすぐさま国は亡ぶだろう。
そのことを自覚しているからこそ、国王は間違えない。
――ドラゴンさんたちがこの国に住まうことを、近隣国は妬ましく思っている。しかし、ドラゴンさんたちが住み着いているというのは良い影響もあるが、悪い影響もあるものだ。まずドラゴンさんたちが住み着いているからと、周りの国々はドラゴンさんたちと親しくなろうと色んな手を使ってきたりする。また、ちょっかいを出そうと、服従させようと動いているものもいる。
一つでも対応を間違えば、ドラゴンさんたちは国に牙をむくかもしれないのだ。なのでドラゴンさんたちはある意味諸刃の剣のような存在である。
国王は繊細な注意を払い、ドラゴンさんたちに接しているのだ。
とはいえ、ドラゴンさんたちがどのような存在であるかは把握しているので、そこまで危惧はしていない。
ドラゴンさんの旦那さんは察しているかもしれないが、国王たちはドラゴンさんたちが楽しく暮らせるに努力をしているのだ。ドラゴンさんたちが不快になることが起こらないように、ドラゴンさんたちに何か働きかけるものに警戒をしたりと大忙しである。特にドラフ・シューベルトは妻がドラゴンさんと仲良しなのもあって、リブン王国においてドラゴンさんたちの係りのようになってしまっているので特に忙しいものであった。
彼らはドラゴンさんと良き関係を築いてくことを望んでいる。それは王国全体の意志である。
――そしてドラゴンさんたちと、王国の良き関係はこれからも続いていくのだ。




