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ドラゴンさんの子育て日記⑬

 新聖歴890年 新月の一日


 今年も新年を村の人間達と共に祝った。ルグネも二歳である。ラビノアとシノウールももちろん連れてきた。

 野放しにすると力加減を知らない二匹が何をするかわからないので、我とラオでしっかり見ておかなければならなかった。人間の子も、竜の子も、生まれたばかりでは目が離せないのは一緒なのだ。

 それにしても去年、こうして新年を過ごした際、我は自分で自分にびっくりしておった。日記を読み返していてもそれはよくわかる。我は人の子の母という立場に収まる気がなかった。でも我は今はルグネの事が可愛くて仕方がない。そして去年の我はこうして我が子が生まれている未来なんて想像をしていなかった。

 世の中というものは予想外の事が起こっていき、面白いものだなと改めて感じられた。こんな新鮮な気持ちを、母親としての感情を、生まれてから三百年以上も経って感じる事が出来るとは思ってもいなかった。

 ラオと番になったのも、我が子が生まれたのも、人間たちと仲良くするきっかけをくれたのも……全てルグネだ。ルグネをもし拾わなければ、捨てられたルグネに我が興味を持たなければ……我は子を持つ幸せなど知らずに生きただろう。それを思うと、ルグネはこんなに小さくて、我が少し力を入れたら死んでしまうほどに弱いのに、なんという影響力を持つのだろうかと思った。

 来年もまた新鮮な驚きがあればうれしいとそんな風に考えながら、我は楽しく新年を過ごした。



 新聖歴890年 新月の三日


 ルグネ。我の拾った人間の子。種族は違えど、我の大切な子。

 ラビノア、シノウール。我が生んだ竜の子。我の大切な子供達。

 人と、竜。

 その差があるから、育ち方が違って、中々大変だ。

 人の子は本当にか弱く、目を離したら死んでしまうようなか弱さがある。

 竜の子は知能が最初から備わっているが、子供は子供で、何かをやらかそうとする。

 どちらも目が離せない。正直大変だけど、でも我が子である一人と二匹が愛おしく、面倒を見る事に苦は感じない。


 新聖歴890年 新月の六日


 ラビノアとシノウールはルグネの事を興味深そうに見ていた。ルグネは我やラオで竜という生き物に慣れているせいか特に警戒もせずに二匹に近づこうとしておった。

 でも力加減を覚えていないラビノアとシノウールの近くにはやれないと引き留めておるのだが、何で遊べないの? とルグネが泣いておった。

 はやくラビノアとシノウールには力加減を覚えてもらわねば。しかしそう簡単に覚えられるものでもないのは百も承知である。そもそもラビノアとシノウールは最初からそれなりに知能が発達しておるが、それは知識として知っているだけなのだ。

 我は子持ちの雌達に子を育てる大変さを聞かされた事があるから、それを知っておるのだ。

 それにしてもあの頃は、番を作るのは良い、子を産むのは幸せと、ラオの思いに応えたら、などと言われていたわけだが、実際にそれが現実になるとは……。我、正直ルグネを拾わなきゃ誰かと番う気もなかったので、ラオと番う事も、子を産む事もなかっただろう。とラオに言ったら、ラオがルグネに「ルグネのおかげだ」と感激したように話しかけていた。


 新聖歴890年 新月の十一日


 何度も何度も、ラビノアとシノウールにルグネは人の子だが、おぬしらの兄なのだぞ、か弱いのだから力を込めたら死ぬのだぞと言い聞かせる。

 ラビノアはまじめに聞いておるが、シノウールは我が言い聞かせている間も動きまわるルグネに視線を向けたり、周りが気になって仕方がないようだった。同じ時に生まれたのだが、二匹とも性格が結構違うようだ。


 新聖歴890年 新月の十四日


 きんきらきんからいつ国の長の一族がやってくるか連絡が来たらしい。我やラオはこう、びゅっと飛んでいけばすぐに移動できるのだが、人は翼をもたず、地をかけてくる事しか出来ない。だからすぐにはこれないらしい。

 あとは、国の長の一族が遠出をするとなると準備が色々必要らしいとラオが言っていた。人は遠出するのに準備が必要だと聞くが、長の一族となるとそれ以上に準備をしなければならぬようだ。なんとも大変な立場である。


 新聖歴890年 新月の十八日


 ラビノアとシノウールは、生まれた時から知能がそれなりに発達しているのもあって我の事を「ママ」とは呼ばぬ。正直ルグネにそう呼ばれておるので、「ママ」と呼んでくれぬかなと期待していたのだが。

 ……思い出してみれば我も幼竜の頃に「ママ」などといった呼び方をしたことはなかったから仕方がない事だと思った。

 

 新聖歴890年 新月の二十日


 生まれて間もないラビノアとシノウールはまだ飛ぶ事も、人化する事も出来ない。母親として沢山の事を教えていかなければならないが、我は正直教えるのが苦手である。

 それはラオも同様である。というか、我もラオも感覚でちゃっちゃとそういう事が出来たので教え方がわからないという事態が発覚した。

 普通は結構こういう事を覚える時に躓くらしいが、我もラオも特に躓かずに覚えてしまったのだ。どうやって飛ぶの? ってこうなんというか、翼に力を込めてびゅんっと……と答えたら呆れた目で見られた。



 新聖歴890年 新月の二十三日


 ラオと話して、誰か竜の知り合いに声をかけてみるかという話になった。我とラオも教え方がわからぬからな。

 あと、飛ぶ練習をしているラビノアとシノウールを真似て、翼もないのにルグネが飛ぼうとしているのが可愛かった。



 新聖歴890年 新月の三十日


 ラオは知り合いの竜の元へ向かった。来てくれるといいのだが。

 そういえば、我もラオも特に番になったことを言いふらしていなかったから驚くかもしれぬ。







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