顔なし姫2
呪いにかかった人間の話をしよう。
その人は、お姫様だった。
◆◆◆
「さて、無事に一つ目の遊びが終わったわけだけど…感想は?」
どこかの世界の小さな一軒家。
主とぼくは机を挟んで向き合っていた。
「感想もなにも、ぼくはただ、従うだけなので」
「つまらない返しだねえ」
主はイスの背もたれに背中を預け、わざとらしくイスをギシギシ鳴らす。
「つまらないもなにも、ぼくはあなたのシモベですから」
シモベとは、そういうものでしょう。
そう言えば、主はギシッと一際大きくイスをならした。
「固いねえ。キミ。
頭カチカチだ
もっと気楽に行こうよ。
難しく考えたってどうにもならないさ。
絵本をめくるみたいに、流れに身をまかせることほどつまらないものはないよ」
「それはあなたの意見でしょう」
「なら、キミは今楽しい?」
「…わかりません」
ぼくは主を見上げた。
「ぼくは今、なにも知りません」
ぼくはどうやら、主と約束をしたらしい。
らしい、というのはぼくは約束の内容を何一つ覚えていないのだ。
ただ、約束した事実だけはぼくの中に残っている。
「ぼくは、どうしてなにも覚えていないんですか?」
「それを望んだから」
「記憶を消すことを?」
「いいや
キミが願ったのはそれでもあるけど、それじゃない
最初に言っただろう
これはある意味ゲームさ
キミがボクと遊び、そして選ぶことで全てが終わる」
「…」
「どういうことか、知りたいかい?」
ぼくは少しだけ考えて
「いいえ」
首を横に振った。
「昔のぼくは、今のぼくが分からないことを全部知っていたんですよね」
「そうとも言えるね」
「なら、本当にぼくがほしかった願いは、叶ったんですよね」
「叶ってるよ」
「それなら、いいです
それなら、きっと昔のぼくは満足しているはずだから」
だって、そうでしょう。
欲しいものをもらって、満足しないはずがない。
「きっと、昔のぼくは幸せのはずです」
主は、奇妙なものを見るようにぼくを見おろす。
まるで、期待外れで、でも落胆はしていない。
そんな感じだった。
「でも、今のキミは昔のキミを知らないじゃないか」
意地悪そうに、主は言う。
「だから、見つけるんです
そのためのゲームなんでしょう?」
◆◆◆
彼女が呪いにかかったわけは、別に糸つむぎの針に刺されたからでも、藁人形を釘で打たれたからではけしてない。