赤い女王様4
◆◆◆
「ねえ、オオカミと王子の違いってなんだと思う?」
「どうしたんです?急に?」
「答えはねー」
「人の話を聞いてください」
「どっちの立場から見るかってことさ」
どういう意味かと聞く前に
「ねえ、キミはどちらになりたい?」
「意味が分からないです」
主は笑った。
笑って、待ち合わせの場所に行ってしまった。
◆◆◆
赤ずきんがオオカミの甘言に乗った瞬間を、猟師は物陰から見ていた。
そして時間は進み
てってって、と弾む音。
約束は、草木も眠る丑三つ時。
つぎはぎだらけの服を着て、彼女は約束の場所までやってきた。
もう、オオカミたちに好き勝手に体を触られることもない。
ご機嫌取りの言葉に悩まされることもない。
繰り返した昼は遠くへやって、今度は新しい朝が来る。
彼女の中で、昼の気配はもはや去った。
「………」
手にはランタン。
転ばぬように足元を照らす。
ああ、大変だ。
赤ずきんが間違った道に行こうとしているよ。
「だめじゃないか」
約束の場所。
立っていたのは、王子様ではなかった。
「こんな夜に出歩いては、危ないよ」
猟師たちが、そう言って優しく笑った。
彼らの足元に転がるのは、赤ずきんを連れ去ろうとした悪いオオカミ。
もう、ピクリとも動かない。
「どうして?」
強く叫んだつもりが、出たのはかすれ声。
真っ青な顔の彼女に、猟師たちは顔を見合わせた。
「どうしてって、決まっているだろう」
「こいつが、あんたを連れ去ろうとしたからだ」
「あんたがいないと、困るんだよ」
「そうさ、ほかの娘じゃ、物足りん」
「ほら、一人で帰るのは危ないから、迎えを用意しておいたぞ」
どこにいたのか、少女の友達と母親が、彼女の手をそっと握った。
「あなたがいないと、みんな困るのよ」
本当は誰も、赤色なんて着たくはない。
「あなただって、それでお金を稼いでいるじゃない」
それは、目印。
「いったい、何が不満なの?」
娯楽のないこの村で、男の慰みを務める娘の、目印。
「あなたほどの美しい娘はいないというのに」
もちろん、彼女が消えればその役目はほかの適当な娘になるだろう。
そんなのはごめんだと、誰もが思う。
だって彼女がいるから、ほかの娘はそんなことをしなくてもいい。
当たり前の、綺麗な体で、いられる。
普通の娘として、結婚をして子供を産んで、家庭を作る。
「また、あなたに赤い服を作ってあげるわ」
でも、彼女は違う。
彼女はこの先、誰ともしれないオオカミの子を産まされ、その子もまたなぐさみものになるだろう。
「さあ、一緒に帰りましょう」
優しく微笑む、彼女の母親と同じ人生を、少女は歩むのだ。
「…いや」
それを哀れに思ってか、はたまた、機嫌を損ねて逃げられぬようにか
「そんなの…いや…」
村のみんなはいつだって優しくしてくれる。
お人形を綿でくるんで絞め殺す。
彼女は村の、お姫様。
「いやよ!!」
彼女の中で、何かが壊れた音がした。
「どうして!?どうしてなの!?」
村の人達の手を振りほどき、少女は叫んだ。
「やっと…やっと…」
大きなものを望んだ覚えはない。
ただ、普通の娘のように、幸せになりたかった。
ここから、抜け出したかった。
「彼が…彼だけが…本当に愛してくれたのに…」
本当のオオカミは、誰だろう。
この物語は、正しく進んでいるのだろうか。
この物語の赤ずきんを助ける猟師は、どこにいるのだろうか。
「いやあああああああああ!!」
さあ、ランタン投げて村人を遠ざけろ。
カナリアがくちばしにくわえてるのは、鍵なんて上等なものじゃない。
「ねえ、落ち着いてちょうだい!!」
「近寄らないで!!」
くわえてるのは、カゴを壊す金づちだ。
「誰も、わたしにふれないで!!」
猟師がいないなら、赤ずきんがオオカミを倒すのだ。
さあ、カゴをぶち壊せ。
「誰か!水だ!」
「あの子を抑えろ!」
いろんな怒号が交差する。
もう、誰が誰だか、彼女にはわからない。
ランタンの火は木々に燃え移り、夜空は夕焼けのように照らされた。
大きく揺れる炎に後押しされるかのように、少女は地を蹴り、駆け出した。
急げ、急げ
後ろから、オオカミがやってくる。
てってって、と弾む音。
約束は、草木も眠る丑三つ時。
つぎはぎだらけの服を着て、彼女は約束の場所までやってきた。
もう、オオカミたちに好き勝手に体を触られることもない。
ご機嫌取りの言葉に悩まされることもない。
繰り返した昼は遠くへやって、今度は新しい朝が来る。
彼女の中で、昼の気配はもはや去った。
「………」
手にはランタン。
転ばぬように足元を照らす。
ああ、大変だ。
赤ずきんが間違った道に行こうとしているよ。
「だめじゃないか」
約束の場所。
立っていたのは、王子様ではなかった。
「こんな夜に出歩いては、危ないよ」
猟師たちが、そう言って優しく笑った。
彼らの足元に転がるのは、赤ずきんを連れ去ろうとした悪いオオカミ。
もう、ピクリとも動かない。
「どうして?」
強く叫んだつもりが、出たのはかすれ声。
真っ青な顔の彼女に、猟師たちは顔を見合わせた。
「どうしてって、決まっているだろう」
「こいつが、あんたを連れ去ろうとしたからだ」
「あんたがいないと、困るんだよ」
「そうさ、ほかの娘じゃ、物足りん」
「ほら、一人で帰るのは危ないから、迎えを用意しておいたぞ」
どこにいたのか、少女の友達と母親が、彼女の手をそっと握った。
「あなたがいないと、みんな困るのよ」
本当は誰も、赤色なんて着たくはない。
「あなただって、それでお金を稼いでいるじゃない」
それは、目印。
「いったい、何が不満なの?」
娯楽のないこの村で、男の慰みを務める娘の、目印。
「あなたほどの美しい娘はいないというのに」
もちろん、彼女が消えればその役目はほかの適当な娘になるだろう。
そんなのはごめんだと、誰もが思う。
だって彼女がいるから、ほかの娘はそんなことをしなくてもいい。
当たり前の、綺麗な体で、いられる。
普通の娘として、結婚をして子供を産んで、家庭を作る。
「また、あなたに赤い服を作ってあげるわ」
でも、彼女は違う。
彼女はこの先、誰ともしれないオオカミの子を産まされ、その子もまたなぐさみものになるだろう。
「さあ、一緒に帰りましょう」
優しく微笑む、彼女の母親と同じ人生を、少女は歩むのだ。
「…いや」
それを哀れに思ってか、はたまた、機嫌を損ねて逃げられぬようにか
「そんなの…いや…」
村のみんなはいつだって優しくしてくれる。
お人形を綿でくるんで絞め殺す。
彼女は村の、お姫様。
「いやよ!!」
彼女の中で、何かが壊れた音がした。
「どうして!?どうしてなの!?」
村の人達の手を振りほどき、少女は叫んだ。
「やっと…やっと…」
大きなものを望んだ覚えはない。
ただ、普通の娘のように、幸せになりたかった。
ここから、抜け出したかった。
「彼が…彼だけが…本当に愛してくれたのに…」
本当のオオカミは、誰だろう。
この物語は、正しく進んでいるのだろうか。
この物語の赤ずきんを助ける猟師は、どこにいるのだろうか。
「いやあああああああああ!!」
さあ、ランタン投げて村人を遠ざけろ。
カナリアがくちばしにくわえてるのは、鍵なんて上等なものじゃない。
「ねえ、落ち着いてちょうだい!!」
「近寄らないで!!」
くわえてるのは、カゴを壊す金づちだ。
「誰も、わたしにふれないで!!」
猟師がいないなら、赤ずきんがオオカミを倒すのだ。
さあ、カゴをぶち壊せ。
「誰か!水だ!」
「あの子を抑えろ!」
いろんな怒号が交差する。
もう、誰が誰だか、彼女にはわからない。
ランタンの火は木々に燃え移り、夜空は夕焼けのように照らされた。
大きく揺れる炎に後押しされるかのように、少女は地を蹴り、駆け出した。
急げ、急げ
後ろから、オオカミがやってくる。
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