キミの望むもの
「スカボロー・フェアに行くのなら
パセリ セイジ ローズマリー&タイム
どうかある人を訪ねて欲しい
わたしがかつて愛した人を…」
黒い水面が揺らめく空間に歌声が響いている。
「それ、なんの歌ですか?」
美しい桜の木の下に座るクロに少年の姿のロゼは話しかける。
「わかんないんだ」
クロは歌うのを止め、困ったように笑う。
「生まれた時に、あの2人に教えてもらったんだ」
それは、クロのような存在にだけ伝わっている歌。
「この歌を知っていれば、仲間の目印でもあるんだって」
けれど、数の少ない彼らが出会うには、世界は広すぎた。
「あの2人意外、1人も会わなかったけど」
それは、あの双子も同じだったのだろう。
どうしたって、誰かとは共にいられなくて、だからあの双子は一つの体を二つに分けた。
分かっていたはずだ。
それは虚しい一人遊びということくらい。
「寂しさの埋め方なんて知らなかったんだ…」
手をつなぐ温もりもしらない。
「でも、せめては真似事だけでもしてみたかったんだろうねえ」
自分が生まれ落ちていたら知っていたはずの全て。
独りではできない全てを、体を二つに分ければできると信じていた双子。
「独りで消えて行くのは、きっとこわかったはずだよ」
最後まで、双子は体を分けたままだった。
戻れば、もっと強い力を使えたかもしれない。
けれど、それ以上に欲しいものがあったのだ。
「ごめんね」
クロは黒い空間に言葉を投げた。
水面をゆらすことも、もう、届くことのない言葉。
「ねえ、ロゼ
ボクね、これからボクみたいな存在と会おうと思うんだ」
「会って、どうするんですか?」
「終わらせてあげるんだ
きっと、寂しさに振り回されるのはたくさんだと思うから」
「…それは、出会った仲間を消すということでしょうか?」
「うん
あの2人みたいに、解放してあげたい
それを続ける限り、ボクが2人を裏切った理由を持ち続けられる」
双子は、世界を壊す存在だったから、消した。
意味のない死にしてしまうよりは、理由をつけたい。
それが、クロのせめてもの償いなのだ。
「ボクは、双子の暴走を止めるために彼らを裏切った
同じように、世界の理を崩す存在を消していく」
「1人で、行くつもりですか?」
「だって…」
いつ、自分の本能が前に出てロゼを食べてしまうか分からない。
クロがうつむいた時
「大丈夫ですよ」
鋭い刀の切っ先が、クロの目の前に突き出された。
「その時は、ちゃんと止めてあげます
それに、約束したじゃないですか
ぼくの探し物を一緒に探してくれるって」
小さな蝶々は大切なものの守り方を知らない。
自分の守り方を知らない。
自分の存在が大切な人にとってどれほどの物かを実感できない。
「一緒に、歩き続けましょう」
刀を納め、手を差し伸べる。
「いいの?」
「いいに決まっているでしょうに」
ふわりと風が吹いて、桜の幹から、1人の少女が浮かび上がった。
「何も知らぬ赤子が、助けを求めて何が悪いのかしら」
「ボク、赤ん坊じゃないよ?」
「私にとっては同じことよ」
桜花もロゼの隣で手を差し出す。
「ほら、立ちなさい」
「ありがとう」
クロは2人の手をとり、立ちあがる。
そして桜花はそのまま自分の方へと引き寄せ
「いい子いい子
あなたはとってもいい子よ」
優しく抱きしめた。
「私はこの空間から出られないけど、休みたくなったらいつでも帰っていらっしゃい」
「なんだか、くすぐったいなあ」
照れるクロに、ロゼも抱き付く。
「ぼくもいます」
「あらあら、2人ともまだまだ子供ね」
それから3人は桜の木の下よりそいあう。
力をなくした神様に
一度その身を売った精霊
世界の理を崩す物の怪
まともな人が見たらいうだろう。
こんな形は、間違っていると。
消える者は、理に従い消えて
悪者を退治されなくてはいけない。
けれど3人は幸せそうによりそう。
誰かが指差し咎めるなら言えばいい。
「幸せを決めるのは自分自身だ」
と。
黒い空間に歌声が響く。
「スカボロー・フェアに行くのなら♪
パセリ セイジ ローズマリー&タイム
どうかある人を訪ねて欲しい
わたしがかつて愛した人を♪
♪縫い目も針の跡もない
パセリ セイジ ローズマリー&タイム
新しいシャツを私に作って♪
わたしのためにやってくれたら
パセリ セイジ ローズマリー&タイム
♪ わたしにも同じことを求めてよいから
スカボロー・ファエアに行くことがあったら
パセリ セイジ ローズマリー&タイム
どうかある人を訪ねてください
わたしがかつて愛した人なの♪」




