クロの話2
人の欲望は果てしない。
人間達は、やがて戦争を始めた。
仲間同士で殺し合った。
土地の多くは荒れ果て、それでも恵みを維持しようとして、神様の力は急速に衰えて行った。
桜の花が一つ。
また一つ。
枯れて行く。
弱った神様を見つけて、よくない物もたくさん集まるようになった。
人の負の心は固まって、形を成す。
それはおよそ意思なんて上等なものを持っていない。
ただ、自分の苦しみを味あわせてやろうと
こちら側に引き込んでやろうと
虎視眈々とぼく達を狙った。
追い払っても、追い払っても、やってくる。
あなたの命は消えて行く。
もう、限界だった。
やっぱり、ぼくは無力だった。
「いいのよ
これで消えるなら、それが運命なの」
そんなの認めたくない。
あなたには生きていてほしい。
その時、ぼくの頭に浮かんだのは、ある存在だった。
それは、人の思いを食べて生きているけれど、ここにやってくる負の塊たちとは少し違う。
対価もなく、願いを叶える不思議な存在。
名前はない。
でも、ぼくみたいな人外には少し有名な存在だ。
来てほしいと、強く願えば、現れるという噂。
でも、あなたはその存在の正体を知っていたらしい。
物の怪と一緒だと言い、ひどく嫌っていた。
でも…
どうせ、このまま消えるなら
ぼくは、願った。
願ってしまった。
神様を、助けてください、と。
音もなく現れたその人は言った。
「いいよ
でも、そのかわり、キミをちょうだい」
気づいたあなたは叫んだ。
「だめよ!」
「ごめんなさい」
ぼくは、蝶々の姿であなたの手のひらに止まった。
人の戦争は広がって、今ではもう森にまで火がついている。
多くの動物たちの断末魔が聞こえる。
負の塊が、こちらを狙っている。
このままじゃ、どっちをとってもあなたは消えてしまう。
「生きて…」
ぼくは、どうなってもいい。
「生きて、ほしいんです」
ぼくは、消えたっていいんだ。
「お願いしまう」
「どうして…」
あなたは涙を流す。
ぼくの羽に、生温い水が触れた。
「どうして、あなたは…私のことばかり…
あなたの…あなたの世界には、どうして私しかいないの!?
どうして、あなたは自分をもっと大切にしないの!」
大切ってなんですか?
あなたを捨てて逃げることですか?
わかりません。
ぼくは、バカだから。
「あなたが消えては、私は幸せにはなれない!」
そうなのかな?
でも…
「あなたが消えたら、そこにぼくの幸せはありません」
あなたが笑っていてくれることがぼくの幸せ。
なのに、あなたは泣いている。
ねえ、幸せとはなんですか?
◆◆◆
『オレはクロのことが大好きだ』
『アタシはクロちゃんのこと、アイシテル』
『『ほんとうだよ』』
◆◆◆
「こういうのは、どうだろう」
ぼくたちの様子を見ていたそれは、ある提案をした。
「蝶々くんの願いは叶えてあげる。
でも、そのことに神様は納得してないみたいだから、勝負をしようよ」
ぼくが、あの人と、それ。
どちらを選ぶか。
「蝶々くんはボクと一緒にこれからしばらく一緒に遊ぶんだ。
ただ遊ぶんじゃない
記憶を消す
でも、もし蝶々くんが記憶をもどしたり
違和感を感じてボクから離れたいと言ったら、ゲームはそこで終わり
記憶を返して、元の場所に戻してあげる
ちなみに、神様はゲームの間、ボクの作った空間にいてもらう
キミを護るためだけに創る空間に
そこからでれば、神様は消えてしまう
だから出てしまえば、蝶々くんが願った神様を助けたいという願いは成立しなくなるから、約束が壊れてしまう
だから、絶対に出てこないこと
いい?」
あなたは唇を噛みしめた。
「断れば、どうなるの?」
「断っても、蝶々くんは願いを取り消さない
だから問答無用でもらっていく」
「憎らしい…物の怪め
私に、私に本来の力があれば!」
泣きながら、あなたは約束を受け入れた。
そうだ
そうしてぼく達は、約束したんだ。
でも、まだだ。
まだ、思い出せない。
まだ、足りない。
あなたの名前
あなたがくれた名前
思い出さなきゃ探さなきゃ
どこにあるの?
ぼくは落ちて行く
深く深く
もっと深く
◆◆◆
クロの体の中は大きくきしむ。
やぶられた約束のせいで、力が乱れ、形を保てずクロの体は黒い塊に溶け始める。
(早く、早くもどらないと)
同じように、少女と蝶々も反動を受けているはずだとクロは立ち上がろうと力を込める。
けれど、力が入らず、立ち上がることさえできない。
そんなクロに、双子は囁く。
『なあ、クロがもう一度やる気がでるように』
『昔話をしてあげる』
『『昔みたいに、遊びながらね』』




