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クロの話

あの子の昔話を聞いたなら

次はオレとアタシのひとりごと。


『ねえ、クロ』


『ムカシのこと、覚えてる?』




◆◆◆



あるところに、一組の夫婦がいました。



◆◆◆


アタシが生まれたときの話をしようか。

自分のことを知ってもらうには、自己紹介が必要だもの。


オレが生まれたのは遠い昔。

場所は覚えていない。

でも、勝手に生まれたわけじゃない。


作ってくれた存在がいたんだ。


『なつかしいなあ、クロ』


『あなたがウマレテすぐのトキもこうしてみんなでアソビニいったわね』


◆◆◆


あるところに、一組の夫婦がいました。

結婚したばかりの、ありふれたどこにでもいるような仲睦まじい2人でした。


夫婦のうち、女性のほうのお腹には赤ん坊がいました。


やどったばかりの、小さな命でした。



◆◆◆


オレたちは、なりそこないから生まれた。

空っぽの器に、たくさんたくさんつめこんで、人形だったオレは気が付けば意思を持っていた。


ぬいぐるみに綿を詰めるみたいにして、アタシは生まれたの。


そして、ぬいぐるみを作ったのがアタシを生んだヒト。


もう、名前も顔も覚えていない。



生まれた瞬間、アタシは抱きしめられた。


ーはじめましてー


とてもとてもうれしそうに、歪んだ存在のくせにオレは祝福を受けたのだ。


ぬくもりは、感じなかった。

ぬくもりは、生きている者の特権だと教わった。


ぬいぐるみに、命はないと。


◆◆◆


夫婦は赤ん坊が生まれてくることを心待ちにしていました。

しかし、その命はうまれてくることはありませんでした。


◆◆◆


自分たちがなんなのかと、簡単に表せるような言葉を、聞いたことはない。

そのヒトも、自分のことを知らないと言った。


ただ、人間の望みをなんでも

見返りも

対価も

何一つ必要とせずかなえてあげられる存在なのだと。


ーそれ以外、言いようがないー


ただ、そういうものだと思うしかない。


ご都合主義な存在だと言えば、そのヒトは笑った。


ーでも、君が生まれてうれしいよー


オレも、生まれてこれてうれしかった。

アタシも、そのヒトの隣が大好きだった。


◆◆◆


母親の暖かいお腹の中から零れ落ちてしまった小さな命。

それは両親の側からはぐれてしまい、やがてあちこちをふらふらとさ迷い歩きました。


ここはどこだろう


自分は誰だろう


教わる前に、弾かれてしまった命。

なにも知らないということは、なによりも純粋でした。


◆◆◆


オレたちのような存在は、とても数が少ないらしい。

なんでも、こうして生まれるためにはいくつもの偶然と

たくさんの思いを抱えられる器が必要なんだって。


それがどんなものかと言えば、見た瞬間にわかるそうだ。


ー君も、その時になればわかるよー


今ならよく分かる。

クロちゃんの器を見たとき、ビビッときたもの。


あのヒトがアタシを抱きしめたみたいに

オレもあの子を抱きしめずにはいられなかった。


生まれてくれてありがとう。


『なあ、クロ

お前は裏切らないでくれよ』


『ねえ、クロちゃん

カナシムこともためらうことも、ないってオシエタじゃない』


◆◆◆


さまよい続けて、魂はとある場所にやってきました。

大きな大きな建物で、たくさんの人間の気配がしました。


そして、人間ではない気配もたくさんいました。


◆◆◆


魔法使いとか、化け物とか、呪いとか

呼び名の種類と同じくらい、オレはたくさんの世界と時間を見てきた。


どんなところだって、思うままにわたることができる。

人間がいれば、時間も空間もアタシを捕まえられない。


どんなところだって、人間のお願いは消えることはないんだから。


◆◆◆


魂は、何も知りません。


自分がどこに行くべきか

なにをすべきなのか


おしえられる前に、弾かれてしまったのですから。


建物の中には、真っ黒い塊がいっぱいいました。


―おいでおいでー

黒い塊は言います。


―こっちで一緒に遊ぼうー


魂は無邪気に、本当に遊んでもらえるのだと思い、そちらに寄って行きました。

無邪気な存在は、恐怖もなにも知りません。


真っ暗な世界に取り込まれようとしたその時


『『みいつけたあ』』


魂は、後ろから捕まってしまいました。


驚き、暴れる魂を


『待て待て』


『アタシタチハみかたよ』


優しくなぐさめ、そっと建物の屋上に連れて行きました。


「あなたたち、だあれ?」


魂は聞きました。

目の前にいたのは、顔も服装も姿も全部そっくりの男の子と女の子でした。


『なあ、お前一人か?』


「うん」


『なら、アタシタチトいっしょにこない?』


「たてものの中にいた黒いひとたちの仲間?」


2人は首を横に振りました。


『あれは、なりそこないさ』


『もしくは、なにもナレナカッタやつら』


人間の多く集まる場所には色んな感情が混ざります。

混ざって混ざって真っ黒になったそれらは、無邪気な存在を狙います。

人の無念

何かになりたかった思い


でも、なれなかった思い


自分の報われない思いを、他の者達にも味あわせてやろうとしているのです。


『あれに捕まると、戻れなくなるぞ』


『そんなモノより、アタシタチトおなじになりましょうよ』


「同じ?」


2人の真っ黒な服装を見て、魂は尋ねました。


「あなた達も、黒いよ?」


そうだよ、と2人はにこやかに頷きます。


これしか、着られないのだと

自分たちは、自分の正体も、何でできているのかわからない。

何色にも染まれない存在。


対価もなく、願いを叶える理から外れた存在。


黒色は、その証だと2人は言うのです。


『オレタチは、寂しいんだ』


『ナカマヲさがしているの』


『『あなたもそうでしょう?』』


魂もまた、独りぼっちでした。

だから、手を差し伸べられたことがうれしくてうれしくて、魂は2人の提案を受け入れてしまいました。


◆◆◆


人間は好き。

それは、オレみたいな存在に刻まれた共通の思い。


ー人間のお願いを叶えるのは好きだー


現に、そのヒトもたくさんの願いを叶えてきた。








好きで好きで大好きで


もし、その結果で独りになった人間がいたのなら寄り添ってあげたい。


でも、気が付くと食べちゃってるんだ。


好きなものほど、食べちゃうの。


ー大好きなほど、おいしそうに見えるよねー


あのヒトのことも、オレは食べてしまった。



◆◆◆


『お前の』


『ナマエハ』


『『クロ』』


呼び名もない存在になった魂は、初めて名前をもらいました。


『『うまれてくれてありがとう』』


はじめて、抱きしめられました。


クロは、2人の後をついて回り、たくさんのことを教わりました。

自分たちの正体を見つけた者はいないことや

力の使い方


たくさんの始めてをくれた2人のことが、クロは大好きでした。


願いを叶えることも

その結果、1人になった人間の魂を食べることも


疑問を持つことはありませんでした。


◆◆◆


あのヒトは最初から食べられるつもりだったらしい。

そのために、オレを産んだんだ。


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