桜の話
どぽん
音がした。
主に肩を押されたのは覚えている。
覚えている。
遠くなる視界。
どこ行くの?
行かないで。
落ちて行く
落ちて行く
◆◆◆
『スカボロー・フェアに行くのなら』
『パセリ セイジ ローズマリー&タイム』
『 どうかある人を訪ねて欲しい』
『わたしがかつて愛した人を…』
そこはどこかの世界の草原。
空には月一つ。
黒い空に、はめ込まれた幾億の星たち。
その下でよりそい、楽しそうに歌う二つの影。
「見つけた」
2人の目の前に、夜の闇から溶け出すように一つの影が溶けだした。
『お、クロじゃん』
『あら、どうしたの?』
歌うのをやめて、双子の少年少女は無邪気に首を傾げる。
まるで、示し合わせたように同じ動作。
人形のように愛らしい2人に、クロと呼ばれた陰は
「どうしたのじゃ…」
両手を素早く突き出し、2人の首を絞め上げた。
「ないだろう!」
◆◆◆
水が、水が口に入ってくる。
ここはどこ?
主はどこへ行ったの?
無意識に手を前に出す。
苦しい
苦しい
助けて
そうして誰かが手を掴んだ。
◆◆◆
「じゃまをするなと言ったはずじゃないか」
首をしめられたまま、双子はクスクスと同じトーンで笑いをこぼす。
『だって、クロってばやり方がぬるすぎるんだ』
『だって、クロちゃんまだためらってるんだもの』
「なっ…」
動揺で手から力が抜けた隙をついて、2人はするりとクロから離れる。
『『2度目はないって、言ったよね』』
◆◆◆
ざぱあっと、水をかき分ける感触。
「げほっ…」
引き寄せられるまま、体をそちらに動かせば陸地のような場所に上がった。
「ここは…」
顔をあげると、はらりと落ちる桃の花びら。
「どうして…」
声のする方に顔を向ければ
「どうして、ここにいるの?」
あの少女がぼくを立って見おろしていた。




