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魔法使いのくつ4

◆◆◆


「あははははははははは!!」


「いい加減、笑うのやめてくださいよ!」


「いや、だって…楽しくて!」


「もう、知りません!」


外に出て、人気の少ないところに一目散に行ったと思えばこれだよ。

ぼくは、どこからどう見ても男の子だよ!

男の子…だよね?


はあ…。


◆◆◆


「ごめんね」


店を去る時、女性は男の子にあるものを渡した。


「なんです?これ」


握らせたのは、皮のひもで編まれたブレスレット。

赤い飾りが、ピカピカ光っている。


「クツの材料のあまりで作ったの。」


「ふうん」


あまりと言っているわりには、丁寧なつくりだ。

男の子は、不機嫌な顔はそのままにブレスレットを受け取った。


◆◆◆


「あー、おもしろかった」


「まったく、笑いすぎですよ」


「ごめんごめん」


全く、本当に思っているのか。

主はまだ笑いの残る口元のまま、路地の外を見た。


「みんな、一体どこに行くんだろうねえ」


「ぼくがしるわけないじゃないですか」


「そりゃ、そうだ」


くくっと、主はこらえるようにまた笑う。


「ならさあ、キミはどこへ行きたい?」


◆◆◆


「おや、綺麗なものだけど、もらっても大丈夫なのかい?」


女性から渡されたブレスレットに気が付き、姉はなんだか悪いな、と頭をかいた。


「いいんですよ。

おわびの意味もかねてますから」


「ふうん…なら、そうだ。

これをくれるお礼に、キミの願いを叶えてあげようか」


「はい?」


突拍子もない提案に、女性は目を丸くした。

姉はそんなことには気にもとめず


「なんでもいいよ。

実はボク、ここじゃないところでは魔法使いなんて言われてるんだ」


「はあ…」


「なにがいい?

見たこともないような綺麗な靴でもだしてあげようか?」


手品でも見せてくれるつもりだろうかと女性は思いながら


「それなら、どんなところでも一っ跳びに行ける靴なんてどうですか?

お店が忙しい時は、材料を買いに行ったりするのが億劫だったりするんですよね」


冗談めいた提案に、姉はにっこりと頷いた。


「いいよ」


そして女性は、姉がどこからか取り出した真っ黒なハイヒールを渡された。



◆◆◆


行きたいとこはあるかと、言われても思い浮かばない。

黙ったままのぼくに、主は重ねて言う。


「キミってさ、本当に純粋だよね

なんで?」


「?」


「なんで、疑問持ったりとか、失くした物に執着したりとかしないの?

逃げようとか、思わなかったの?」


ひょっとして、まだ小屋での話をひきずっているのだろうか。


「そのことについては、ここに来るまでに言ったじゃないですか

ぼくは…」


「それが、植え付けられたものだったとしても?」


「え?」


「キミの考えが、本当はキミのものじゃなかったとしても

ボクの側にいてくれるかい?」


◆◆◆



彼女のお城からは、通りの音がよく聞こえる。


コッコッコ


(これは、きっとハイヒール)


トットットッ


(随分と速足。

転ばなければいいけど)


タタタタ


(響きが軽い。

向かいの子供が遊びに出かけたのかしら)


耳を澄まさなくても、彼女には分かる。

幼いころから、女性は人の足を見ていた。


白い足

日焼けした足

子供の足

大人の足


1つとして、同じものはない。

それらを包み込み、飾り立て、冷たい地面から守る。


なんて、クツとは不思議なのか。


人からすれば、馬鹿らしいと切って捨てられる彼女の気持ち。

それだけで、彼女はクツの作り方を学び

経営を学び

店を構え

ここまで来た。


どれだけの、努力があっただろう。

どれだけの、時間を費やしただろう。


その情熱の元は、幼いころの好奇心。


足とクツはなんて不思議なんだろう。


望まれるなら、彼女はガラスのクツだって生み出すだろう。


「そういえば」


女性は不思議な客から渡されたハイヒールを店の奥から取り出す。


「これ、結局履いてもいいのかしら?」


自分がいきたいと思ったところに、あっという間に行ける靴だと、男の子の姉は説明した。

彼女はいまだにそれに足をいれていない。

騙されているのではという不信感もあったし

なんとなく、怖かったのだ。


「うーん」


それでも、好奇心には勝てない。


「まあ、嘘なら嘘で普段用に使えば良いか」


そっと、白い足をその中に滑り込ませた。



◆◆◆


「別にいいんだよ

好きなところへ行ったって」


「そうは言われても…」


「ないことは、ないだろう?」


全部お見通し問わんばかりに主は言って、ぼくの頭に手を置いた。

「ねえ、クツってどういうものだとキミは思う?」


「なにって…履かないと痛いじゃないですか」


裸足で外を歩けばけがをする。


「なるほどなるほど。

確かに、クツは大事だねえ。

ガラスのクツでロマンスをつかんだお姫様だっているくらいだもの」


おとぎ話と、主は教えてくれた。


「行き先は、ちゃんと決めないとね」


◆◆◆


「ウソでしょ」


試しに、隣町の店に行きたいと願った。

そして一歩を踏み出すと


「魔法みたい」


女性は目的地に立っていた。

試しに、店に戻りたいと思いながら足を踏み出せば


「すごい!すごいわ!」


元の場所に建っていた。

どんなところへも、一歩踏み出せばたどり着ける。


女性の戸惑いはすぐに消え、その靴であちこち移動するようになった。


並々ならぬ靴への執着心をもつ彼女にとって、その靴は何よりも価値のある宝物になった。


「これで、もっと靴づくりに時間をかけられるわ」


町から出ないと仕入れることが出来ない材料は少なくない。

仕入れには必ず移動だけで半日かかる。


それが、この靴なら無駄な時間を全部排除できる。


もっともっと


理想の靴を追い求めることができる。


そうして、彼女の作る品物の質はどんどん上がっていく。


それと同時に、町にはとあるウワサが流れるようになった。





怖い怖い、オニのウワサだ。







「まだ、犯人は捕まっていないそうですな」


お昼過ぎ、クツを買いに来た老人は、世間話のかわりにそう切り出した。


「そうですね」


女性は神妙な顔をして、頷く。


「全く、警察は何をやっているのか」


美しい足の持ち主を遅い、足首を切り落とす。

襲われた人が履いているクツは、どんな色も赤く染まる。


「怖いですねえ」


オニはとても狡猾で、逃げ足が速い。

ウワサでは襲われた人はほとんど抵抗する間もなく、一突きされているという。


「おちおち、外にも出られんよ」


つまりは、町の人にとって、警戒されない人物であるということ。

一体、オニは誰なのか。


「気を付けないといけませんねえ」


町一番の靴屋の女性は、老人に見合ったサイズのクツを選んだ。


「あんたも、気をつけるんじゃぞ。

あんたのクツは一番心地よい。」


「あら、ありがとうございます。

私も、キレイな足に、クツを履いてもらえてうれしいです」


◆◆◆


「靴屋ってさ、魔法使いみたいだよね」


夕暮れ時。

人もまばらになってきた。


「どんな物語でも、魔法使いは人が目的地まで行けるよう支えるんだ。

靴屋さんも、持ち主が進むためのクツをあげるよね」


クツがないと前には進めない。

ひっそりと、主とぼくは、屋根の上から町の様子を見下ろす。


「どっちも、願いをかなえてくれるんだ。

これって、とっても素敵だね」


◆◆◆


唐突だけど、少しだけ本筋から離れた話をしようか。


なぜオニがそんなことをするのか。


これは、推理小説ではないから、簡単に明かそう。

簡単に言えば


美しい足には、美しいクツが必要だからだ。


むろん、町の人間はそんなことを知る由もない。

だから、これはただの文章の連なりと思ってほしい。


宝の持ち腐れほど、オニが嫌うものはない。

せっかくの足に、不似合いなものが飾られていたら、嫌悪感が体中を駆け巡るのだ。

だから、不格好なクツは、せめて一番美しい赤に染めてしまう。

緑も黄色も青も城も、すべて邪魔でしかない。


正しい色に染め上げたら、クツはその場に放って足首を家に持ち帰る。


きっと、オニの家には美しいコレクションが彩られているだろう。


それこそ、オニが求める楽園であり、理想郷なのだから。



◆◆◆


「あなたは」


「うん?」


「あなたは、どうして人の願いを叶えるんですか?」


「それはね」


主が何かを答えようとした時


「それは、そいつがそれしか出来ない存在だからよ」


路地の向こうから、夕闇を切り裂くような鋭い声が飛んできた。



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