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魔法使いのくつ2



あの、おかしなお茶会が終わってから数日が過ぎた。


あの日、あの双子と主は随分と親しげにいろいろと話していたけれど、彼らがどういう繋がりなのか、いまいち分からなかった。


さんざん飲んで騒いで、気が付いたら双子は消えていた。

主に聞けば


「ボクらだって気ままにあちこち行ってるじゃないか」


と返された。

そうだけど、なぜだろう。

なんとなく、納得いかない。


でも、そんな数日前のことよりも、今、ぼくが頭を悩ませているのは


「ねえ、こっちも着てくれないかい?」


色の海に溺れる主様だ。


「いいねえ、似合ってる」


「こっちは?」


「あーこれなら、前の色がいいね」


ポンポンと主はまるで魔法みたいになにもない所から様々な服を生み出す。

まるで本当に魔法使いみたいだ。

本当に、このヒトはなにものなんだろう?


「ん?どうかしたかい?」


じっと見ていたら、主は服を漁る手を止めた。


「いえ、一体ぼくは何度全裸になればいいのかと思っただけです」


「あはは、疲れちゃった?」


「当たり前でしょう

半日以上、着せ替えしてるんですよ」


「ごめんごめん」


それじゃあ少し休もうと言われてため息をつきながらその場に座り込んだ。

ここは、双子と出会った世界とはまた別の世界。

ぼくらは小さな小屋の様な家にいる。

家具もなにもない、なんのためにあるのかと思えるような場所だ。


まあ、今は服が床をうめつくしているんだけど。


「服なんて、着られればなんでもいいでしょう」


「乙女心がわかってなーい」


10代の見た目は可憐な姿の主。

腰まで伸びたストレートの黒髪の毛先をクルクルと指先に巻き付ける。


「あなた、女でも男でもなんじゃなかったんですか?」


「まあ、そりゃあ、そうだけどさ」


主はいったん言葉を区切り


「なんか、悔しいんだもん」


拗ねたように頬を膨らませた。


「悔しい?」


「だってさ、キミを喜ばせるのはボクの楽しみなのに

あの2人に仕事をとられたみたいで、納得いかない」


「子どもですか」


「いいじゃん

悩みがあるなら、なんで相談してくれなかったのさ」


「手を煩わせたくなかっただけです」


「本当に?」


納得がいかないと、主はじっとりと目を細める。

物の怪というよりは、おもちゃをとられた子供だな。


「本当ですよ

それにぼくは以前、願いを叶えてもらったんですよね?

そんなに何度もお世話になるわけにもいきませんよ」


ぼくは、何を願ったんだろう。

おそらく、花びらのあの人に関係することなんだろうけど。

いまだによくわからないなあ。


「なんか、いまだにキミと距離が縮まった気がしなーい

もっと、ボクのことしりたいって言ってたくせにー」


ひっくり返ってバタバタ暴れるから、埃が舞う。

ぼくはしかめつらで注意した。


「子どもみたいな駄々をこねないでください」


「キミの愛情が感じられないのがわるいんだもーん」


「全く…」


ため息交じりに、服をかきわけ主の側に行く。

寝ころぶ主の隣で体育座りをして、天井をなんとなく見上げた。


「大丈夫ですよ」


「なにが?」


「例え、ぼくとあなたの繋がりが、約束だけだで

全てが終わって、その効力が消えてもぼくは多分あなたから離れません」


不思議だ。

照れくさいことを言っているけど、上を向くと話しやすい。

いや、相手の顔を見ないほうが話しやすいこともあるんだろう。


―あなたは、照れ屋ね

大事なことは、必ずそっぽを向いてしまうー


誰かに言われた言葉が、不意に頭によみがえる。

同時にとても、穏やかで優しい気分になった。


「ぼくね、わからないことも多いですけど

予想ついてることもあるんですよ」


ぼくの頭に時々浮かぶこの声は、きっと花びらのあの人。

昔のぼくが大切にしていたヒト。


「昔のぼくは、記憶の全てを失くしても守りたい何かがあったんでしょう」


きっと、昔のぼくはあの人を助けたかったんだ。

どんな形であっても。


「今のぼくは、もしかしたら他人から見たらあまりよくない状態なのかもしれません」


昔のぼくが、主と関わりを持っていたかは知らない。


「でも、多分ぼくはあなたのこと、嫌いじゃないです」


でも、あの人が言うように、主は根っからの悪者。

悪意の塊なんかじゃないと思うんだ。


「それは、少し怖いと思うところも多いですよ」


得体がしれないことのほうが多い。


「それでもやっぱり、願いを叶えてくれる存在が、いけないものだと思えないんです」


今のぼくは幸せだろうか。

昔のぼくは幸せだったのだろうか。


そんなことはどうでもいい。


「幸せは誰かが決める物じゃない

感じるものだって、最初に教えてくれたのはあなたじゃないですか」


とりあえず、今は進んでみたい。

ただ、それだけ。


「ふーん…」


大分間があって、主はほとんど息のような声を出した。

そちらをむくと、主は仰向けに寝転び顔の半分を腕で覆っていた。


「だめだなあ」


ぼそりと、つぶやく主。


「どうしたんです?」


「…なんでもないよ」


ふっと、見えている口元が笑みを浮かべる。


「ただ、どこにもいかないでほしいって

この関係がずっと続けばいいなって思っただけ」



色とりどりの布に埋もれる主は、まるでどこかの花畑にいるみたい。



寝ころんだまま、主はゆっくりと歌いだす。


「♫

♪バラの花輪だ 



♪手をつなごうよ♫,



ポケットに 花束さして♬・・・」


そういえば、あの人も歌がうまいんだよな。

なぜだか、そんなことを思い出しそうになっていた時



「そうだ」


歌声がピタリとやんだ。


「せっかく人の姿になれたんだ。

この姿じゃないとできないことをしに行こう」


「例えば、なんですか?」


「最初に、クツを買いに行くのはどうだい?」


「くつ、ですか?」


「そう、今は裸足だろう?

なら、クツがいるよ」


「クツなんて服と同じように出せないんですか?」


確かに、今のボクは裸足だ。

服は、人の姿になった時に双子がおまけでつけてくれていたみたいだけど。


「なんでもかんでも出したんじゃ、つまらないじゃないか


それに、そろそろ次の遊びも始めたいし」


「ふうん…

でも、いいんですか?」


「なにがだい?」


「クツなんて渡したら、ぼく、どこかに走って行っちゃうかもしれませんよ」


そう、意地悪で言ったら


「だからだよ」


主は顔の半分を隠し、笑みを浮かべながらそう言った。


◆◆◆


たまには、くだらない話をしよう。

これからするのは、読み飛ばしたってかまわないくらい

どうでもいい物語。



意味のない、話。


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