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赤い女王様2


◆◆◆


昔々というほど、時間はずれていないけれど、あるところに一人の女の子がいた。

金の髪に赤い瞳。

笑うとできるえくぼに、さえずる声はまるでカナリア。

誰よりも貧乏な家に生まれた彼女は、誰よりも美しい容姿を持っていた。


来ている服こそつぎはぎだらけだが、見た目ばかり気にする少女たちでは一生かかっても太刀打ちできない「それ」


美しさは彼女に与えられた唯一の財産。


誰にも奪えないそれは、彼女にとっての武器でもあったのだ。


女の子が村の人々に愛されたのは、その容姿が大きな役割を持っていたことが大きいのは言うまでもない。


誰だって、愛でるならば醜いよりは逆の方がいいだろう。


彼女の暮らしはつつましくはあったが、それなりに満ち足りていた。

父は女の子が生まれる昔に星になってしまったが、母は優しく、友達も大勢いた。


ほら、一歩家の外に出れば、大勢村人が寄ってくる。


「おはよう。

今日のあなたは昨日よりも一段とすてきね」


「おはよう。

…ありがとう」


同い年の女の子たちが彼女を取り囲む。


狭いこの村では、彼女が人目を避けられる場所などそう多くはない。


「おはよう。

あなたの金の髪、日の光に透けて、とってもきれい」


「ねえ、また今度、あなたの歌声を聞かせてよ」


「この村には、あなたほどの美しい声の持ち主はいないわ」


「あら、声だけじゃないわ。

あなたのその容姿も、この小さな村でかなう人間はいないんだから」


「…ありがとう」


大きな森の中心にひっそりと存在する村。

外とのつながりはほとんどなく、何度もなんども同じ毎日が繰り返される。


生まれたその瞬間から、この小さな村が彼女の世界のすべてだった。


「ねえ、あなたに新しい服を作ったの」


つぎはぎだらけの彼女は、よく服をもらう。


「あなたには、赤い色が一番よく似合うわ」


もらうのは、どんな時でも真っ赤な色。


「色白の肌にはよく映えるわね」


物心ついたときから言われ続けたセリフ。


「本当、あなたがうらやましいわ」


「私たちは色黒だものね」


「さっそく着て見せてよ」


「そうね、それがいいわ」


「あなたの美しい姿がみたいわ」


加減を知らない雪のように降り注ぐ言葉に、彼女は決まってこう返す。


「ありがとう」


可愛らしいえくぼに、周りもつられて笑った。


「ねえ、今日も森へ行くんでしょう?」


「そうよ」


「なら、今日はわたしがあげた服を着て言ってね」


「ええ。わかったわ」


赤い服は彼女の仕事着。

つぎはぎだらけの服を脱ぎ、仕立てのいい赤に袖を通す。

動物を引き寄せる香りをまとわせたら、さあ、今日も行きましょう。


「いってきます」


「いってらっしゃい」


母親に見送られ、赤い服の彼女は今日も森へと歩を進める。



手にはかご。

かごには食べ物。

食べ物はお肉とブドウ酒。


これを見て、おなかを空かせないものはいない。


てくてく


てくてく


彼女はいつも通り森を歩く。


「いいかい?」


出かける前に聞かされた約束を思い出す。


「言われたところを、まっすぐ進むんだ」


てくてく てくてく


「寄り道しては、いけないよ」


何度も言われて身に沁みついた約束事。

彼女が答えたのは、こうだ。


「ええ、わかったわ」


女の子は約束は破らない。

赤い服の彼女は、村のみんなのお姫様。




◆◆◆


「友達がいて

母親は優しく

性格は穏やか

誰にも負けない美貌をもち

彼女を嫌うものはいない」


空の上から少女を見おろし、主は彼女の特徴を指を折って数えた。


「ねえ、キミはあの子は不幸せだと思うかい?」


真っ黒なマントをなびかせて、主はぼくに聞いた。

ぼくは風に飛ばされないように必死にマントにしがみつく。


「それを決めるのは、ぼくじゃありません」


「そっか」


黒い短髪に切れ長の目。

主は青年らしい低めの声でクスクス笑う。


「それじゃあ、誰が決めればいいのかなあ」


ぼくが答えるより先に、主は続けて口を動かす。


「ああでも、幸せって言葉にするんじゃなくて

感じるものだっけ」



◆◆◆


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