絵描きの世界3
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人形をつかう方法が無理なら、もう一つの方法を使えばいい。
気にいった子を連れてきて、誘い込むんだ。
魂を生まれなおさせるんだ。
魂は、生まれて7日で世界になじむ。
だから、6つの世界を渡り歩かせて、こっちの存在に慣れさせる。
最期のほうにはこちらになじむ。
そして決断をさせるんだ。
こちらで生きたい
と。
◆◆◆
次の賞をとったのも、あたしだった。
予想通り、どんどんいじめは、ひどくなった。
きっと、これは嫉妬なんだろう。
いや、違う。
逆恨みだ。
「お前が盗作なんてするからだからな!」
彼女の親友と名乗る人が怖い顔で迫ってきた。
「あの子、卒業まで賞を取り続けることで、親から絵の道に進むことを許されてたんだよ!?
なのに、あんたのせいで・・・!
あんたが、横取りするから!!」
うらやましいなあ、と本心では思った。
そこまで起こってくれる人がいるんだ。
ああ、でも、そうか。
あの時、彼女が言ったことの意味がようやくわかった。
あたしは、盗作なんてしていない。
けど、彼女の道をつぶしたことは、事実なんだろう。
「あんたが、わたしを傷つけた」
いつしか、その言葉が耳の奥で反響するようになって、あたしは自然と筆をおいた。
絵を描くことが、好きだ
が
絵を描くことが好きだった
になった。
あたしの絵は、本当に彼女を傷つけたのだろうか。
それは、きっと楽しいことではない。
「楽しい」のない行為に、どれだけの価値があるんだろう。
◆◆◆
『どうせ本能には逆らえないんだから』
『さっさとアキラメチャえばいいのに』
双子は仲間を愛している。
仲間の幸せをいつだって考えている。
そのためなら、どんな手段もいとわない。
◆◆◆
絵を描かなくなって、久しぶりに美術室に行った。
明日、授業で使うスケッチブックを置きっぱなしにしていたことを思い出したから。
扉に手をかけた時、話し声が聞こえた。
「あいつ、最近こないね」
「来なくていいよ。
あんな卑怯者」
「この前の作品も、また盗作なんでしょ?」
「最低だよね」
「むしろ、今まであれだけ注意してやったのに、また盗んだことが許せないんだけど」
「けど、いい加減こりたでしょ」
「あいつ、教室でも居場所ないらしいよ」
「当然だよ」
「ねえ、あんたもそう思うよね?」
一拍おいて、彼女の声がした。
「そうね」
その、自慢そうな、満足そうな満ち足りた声を聞いた時、あたしの中の何かがカッと熱くなった。
勢いよく扉を開くと、バッと視線が一気にこっちを向いた。
無視して大股で進んで、無言でキャンバスをたてる。
射貫くような視線があっちこっちからとんでくる。
かまわない。
そう、思えるくらいに、あたしの中の感情は沸騰していた。
怒ってる。
そうだ、怒ってるんだ。
描きかけの絵を引っ張り出した時、後ろから強く肩を掴まれた。
「なにやってんだよ」
無言で振り払うと
「何すんだよ!!
この卑怯者!」
床に押し倒されて、思い切り頬を叩かれた。
「恥知らず!
どうせ、またあの子の絵を盗むんでしょ!?」
「あの子、泣いてたんだよ!
なくなった絵が、賞にはいってたって!」
「なくしたこと、心配かけたくないから黙ってて、でも、絵が発表されて我慢できなくなったって、泣いてたんだよ!!」
「あんたがあんなことを・・・あんたのせいだよ!」
「この、パクリ野郎!!」
いいなあ、
うらやましいなあ。
みんな、彼女が大事なんだ。
彼女は人から信じてもらえるような人間なんだ。
やっぱり、あたしは悪い子だなあ。
「死んじまえよ!!」
悪い子だから、こうなるんだ。
その後は、残ってた美術部員全員に髪を引っ張られて、トイレの個室に押し込まれた。
「そこで頭を冷やせよ」
なんども扉を殴ったけど、あかない。
あの絵は…あたしが出した、あの絵をあいつらはどうする気だろう。
それを考えると気が狂いそうで
のどが避けそうなほど叫んだ。
絵が、好きだった。
それしか、残っていないんです。




