絵描きの世界2
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昔から、絵を描くことが好きだった。
それさえあれば、なんにもいらないほどに。
自慢じゃないけど、結構うまいと思う。
賞は昔からとりまくってたし、みんなが読まないような描き方の本なんかもよみつくした。
うまくなるためなら、努力をおしまない。
その代わりといっちゃなんだけど、人付き合いは苦手だった。
でも、かまわなかった。
絵があればいい。
絵があれば、寂しさなんて感じなかった。
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仲間をつくる方法は2つ。
人形に綿をつめる方法と
6つの世界を超えること。
寂しがり屋のくせに、生まれた時は1人。
でも、それじゃあさみしい。
でも、それじゃあつまらない。
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「あの子、盗作してるんだって」
いつからか、そんなうわさが流れ出した。
理由はなんとなく知っている。
あたしを知らない「皆」は
都合のいい「あたし」を
簡単に作り上げる。
だってそうでしょう?
人づきあいが苦手ってことは、「あたし」を知ってくれている人はいないということ。
これいじょうない、ターゲットだっていうこと。
「それ、本当?」
「美術部の先輩がパクられたって」
「それで賞をとってんでしょ?」
「サイテー」
絵が、あればよかったんだ。
無視して、筆を動かし続けた。
「そうまでして先生のポイントほしいのかよ」
「もともと、暗いと思ってたんだよねえ」
人と関わらなかったせいだろうか。
全部、報いというやつなのだろうか。
「あんたなんてね、絵を描く資格はないんだよ!!」
知らなかった。
後ろから刺される指と、正面からぶつけられる悪意が
こんなにもいたいんだってことを。
「さっさ、死ねよ」
あたしは、よわいのだろうか?
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同類がいないわけではない。
けれど、出会えたからと言って、ずっと一緒にはいられない。
いたら、食べてしまうから。
どちらかを、つぶしてしまうから。
『今回、失敗したらどうしようか?』
『コンカイコソ、せいこうさせなくチヤ、でしょ』
『『それならやることは、ただ一つ』』
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「描く資格はない」
地味にこれが一番つらかった。
そんなの、あたしの自由でしょ。
あんたたちに言われる筋合いはない。
心の言葉はいくらでも出てくる。
でも、相手は先輩で仲間がいっぱいいて・・・
孤立無援のあたしの口すらも、あたしの味方にはなってくれなかった。
いつだってこの曲がった口は、うまくは開いてくれないのだ。
ウワサを流したのは、部活の先輩だ。
あたしが入学するまで、学校で一番絵がうまく
誰よりも友達が多く
どの生徒よりも将来をきたいされていたらしい。
おしゃれで、かわいくて、なによりプライドの高い人。
卒業後は、本格的に絵の道に進むのだと、大きな声で話しているのを聞いた。
彼女の絵は、あたしが描くものとは正反対で、抽象的ではあったけどキレイだった。
あたしは、基本的に風景画しか描かないから、自分とは違う世界を描ける彼女をはじめは尊敬していたんだ。
けど、その年、一番大きな賞をとったのはあたしだった。
学校で、少しだけ有名人になって
「すごいね」
なんて声をかけてもらえて、少しだけ友達っぽいものができたりもした。
すぐに離れて行ったけど。
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どちらかをつぶすなら、一人でいるしかない。
けれど、一人ではなんにもできない。
つまらないから、「それ」は二つに分かれた。
見た目は双子の少年と少女。
別れても、元は一人の存在。
限界を知る。
どうあがいても一人遊びに過ぎないことを知る。
だから、遠い昔に仲間を作った。
◆◆◆
「盗作された」
泣きながら、彼女が指差したのはあたしだった。
「やってない」
とはもちろん言った。
けど、みんなは信じない。
当然でしょう。
みんなは、本当を信じるんじゃなくて
みんな、信じたいものを信じるんだ。
こっちのみーずはあーまいぞ
なんて、ホタルみたいにみんなはおいしい方へ飛んでいく。
こっちのみーずはにーがいぞ
見向きもされないあたしは、やっぱり下流の泥水だ。
別に、大きく騒ぐことでもないでしょう。
こんなの、そこら中にゴロゴロ転がってる話でしょう?
「あーあ、本当、いやになる」
いじめの対策なんて、いくらでも転がってるのに、正解も大人がていじしてくれてるのに、あたしはそれにたどりつけない。
「なんて、悪い子だろう」
◆◆◆
2人は新しい仲間に、自分たちの存在意義を教えた。
さみしくなれば、仲間を作ればいいと教えた。
しかし、新しい仲間はそれを拒んだ。
迷いをもったまま、最初に行ったゲームに失敗して、お人形を壊してしまった。
悲しむ仲間に双子は言う。
『もう一度』
『ツクレバいい』
『『こんどはちがうホウホウで』』
◆◆◆
そういえば、この学校には座敷童がいると聞いた。
昔から、困ったり悲しんだりしている生徒の前に現れるらしい。
捨てたはずの古い備品がいつの間にか戻ってきていたら、それは座敷童が宿っている証拠。
その依り代を見た人は、幸せになれるとかなんとか・・・
オカルトの類は信じないけど、今はいるなら出てきてほしい。
放課後、一人でキャンバスの前に座って考える。
入部したてのころは、部員の人と一緒に描いていたけど今は道具だけ持って空き教室でひっそりと絵を描く。
そのほうが、ひそひそした声や、あからさまな視線を煩わしく思うこともないから。
あたしは、今、困っている部類にはいるのだろうか。
色を混ぜながら考える。
あたしみたいな境遇の生徒は、全国にいくらでもいる。
座敷童みたいなのが現れるなら、それは、もっと、不幸で、救いようのない人間、じゃないのだろうか?
(それなら…)
ちゃぷん、と筆を水につける。
(それなら、あたしは、幸福なんだろうか?)
透明な水が、あっという間に濁っていく。
(ありきたりな不幸をもつ、ありきたりな人間なんだろうか?)
だれか、おしえてほしい。
そんなことを思ったとき
ーカンー
何かが落ちる音がした。
振り返ると、床に筆が落ちている。
随分と年季が入って、触れるだけで壊れそうだ。
どこから落ちたんだろう?
不思議に思いながら拾ったとき
「あんた、なにやってんの?」
教室の扉が開いて、彼女があたしを見下ろしていた。
突然だったので、ぽかんとしゃがんだまま彼女を見上げる。
「なんとか言いなさいよ!」
とたんに、いらだった目で彼女はあたしをきつくにらむ。
「……」
目をそらせば、彼女はふん、と鼻から息をはき
「なに?まだ描いてんの?」
つかつかと、描きかけの絵に歩み寄った。
「へったくそ」
ぐっと、唇をかみしめた。
顔を上げたると、彼女はまるで親の憎い仇でもみるような顔をしていた。
「あんた、傷ついてるのは自分だって思ってるんでしょ?」
「・・・え?」
「違うからね」
「あの・・・」
振り返った彼女の目は、血走って、鋭く、ギラギラした憎しみを宿していた。
「あんたが、わたしを傷つけたのよ」




