絵描きの気持ち2
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「さあ、ついたよ」
気が付けばそこは、暗くて長い廊下の真ん中。
右手側にはびっしり窓が、左手側には扉が等間隔に並んでいる。
「変なところですね」
いままでおかしな隠れ家を見てきたが、これは中でも一番変だ。
おそらく大きな建物なんだろうけど、主が選ぶにしては違和感がある。
「ここはねえ、夜限定の家なんだよ」
「夜だけの、ですか?」
ここ、ぼくはあんまり好きじゃないなあ。
だって、ここはくさい。
「なんだか、人の気配がいっぱいするんですけど」
べったりと、それこそ体全体でこすりつけたような・・・
大嫌いな、人臭さであふれてる。
「ここはね、学校っていうんだ」
主はどこか得意そうにえへんと胸をそらした。
「人の子供が、明るいうちに色んなことを勉強するんだ」
「べんきょう、ですか?」
そういえば、聞いたことがある。
人の子供は、みんな棒切れを握って紙にその先をぐりぐりこすりつけることをするとか。
それで、時間を目に見える形であらわして、ずっとそれに従わないといけないらしい。
「窮屈ですね」
「ボクもそう思うよ。
自分がそんなことしろなんて言われたら、体中にブツブツ出ちゃう」
ぞわぞわすると、主は自分の腕をごしごしこする。
「でも、今は人はいないよ。
ここは静かで面白いものがいっぱいなんだ」
にひっと、子供のように主は唇を吊り上げる。
「さあ、3つめの遊びの始まりさ!」
「あ、待ってくださいよ!」
ぱたぱたと走り出すその黒い背中を、ぼくは追いかける。
窓からこぼれる月明かりが、主を青く照らす。
ひらひら舞うマントが、まるで薄暗い海を泳いでいるようだった。
◆◆◆
みんな、隠してしまう。
「大切」なものを隠してしまう。
だって、バカにされたら嫌だもの。
笑われたら嫌だもの。
否定されたら悲しいもの。
みんな隠すことに必死なんだ。
自分がこんなに我慢してるんだ。
みんなもそうだろう?
みんな一緒が、教室の中の決まり事。
◆◆◆
「ねえねえ、どうだい?
似合う?」
歩きながら、また形を変えたらしい主。
両手を広げて、にっこり笑って見せる。
まるで、新しい服を試着した女の子みたいだ。
・・・姿は少年だけど。
「なんです?その窮屈そうな服」
首元まできっちり覆われた襟。
体にぴったりと合わされたデザインにはゆったりした部分はどこにもない。
前を留める、ピカピカの金のぼたんがさらにカッチリした印象をぼくにあたえた。
背中のマントとは、正直言って似合っていない。
「これはねえ、制服っていうんだよ」
「どこかを支配するための礼装ですか?」
「その征服じゃないよ。
服の種類のこと
学生服っていうんだよ」
「へえ・・・」
ぱたぱた移動して、いろんな角度から見てみるけど
「面白くない服ですね。
あなたの好みとは遠い気がするんですが・・・」
正直に感想を言った。
主はたいして気分を害した様子もなく
「まあね、普段なら着ないよ」
首元のホックをとった。
やっぱり窮屈だったんだ。
「ただ、特別な場所にはふさわしい服ってものがあるんだよ。
学校にはいる子供たちはこの制服を着るんだ。
まあ、気分を味わうってやつ?」
「つまりは、いつも通りの遊びですか」
「そういうこと。
で、似合う?」
「姿を変えられるんだから、似合わない顔になるわけないでしょう」
「素直に、似合うと言えばいいのに」
ぶうっと、主が頬を膨らませた時にちょうど曲がり角にきた。
そのまま、進むかと思いきや、主はぴたりと足を止める。
「どうしたんですか?」
「ああ、いやあ・・・ねえ、キミ。
曲がり角の向こうに誰もいないか見てきておくれよ」
どこか落ち着きなく視線をあ泳がせる主。
「誰もいないんじゃなかったんですか?」
「ああ、うん。
本当ならそうなんだけどね・・・」
たまに、人間の大人が学校を見回っているのだと主は教える。
見つかると、とってもややこしいらしい。
「初めて来たときに、ばったり会ってひどい目にあったんだよ。
必死で逃げる相手をどこまでも追いかけるなんて・・・人間、怖いよ」
そこまで大変だったのだろうか。
主は顔を覆う。
「そんなわけで、偵察に行ってきてよ」
「はいはい」
あれだけぺらぺら喋ってたくせに、今更怖がるなんて、全くもう。
曲がり角の向こうは同じような風景が続いてるだけで、変化はない。
「誰もいませんよ」
『本当だね!?」
「嘘ついてどうするんですか」
びくびくと顔をだし、それからゆっくりと角を曲がる。
べったり壁にくっついている姿は、威厳なんてあったものじゃない。
なのに、ほかの世界ではどこか逃げたくなるような雰囲気を出すんだから、主はよく分からない。
無邪気で、なにも知らない子供のようで
ぼくの何倍も物事を知っている。
残酷なことを面白がるのに
小さなことにびくびくする。
「いやあ、それにしてもこういうのもスリルがあっていいねえ。
かくれんぼみたいだよ」
「怖がってたのはどこの誰ですか!?」
本当に、主は不思議だ。
◆◆◆
けれど、どんな時でも罪人は現れる。
ルールを破ったのは誰?
それは一人の女の子。
罪状は何?
それは空気を読まなかったこと。
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