絵描きの気持ち1
覚えているだろうか
あふれるほどの宝物を抱えていたことを
忘れているだろうか
くたびれた箱の中にしまい込んでしまったことを
それでもいいと
絵描きはいつも思っている
◆◆◆
主様はあっちへこっちへフラフラするのが好きらしい。
「家」と呼ぶ場所を様々なところに持っていて、少しも一つの場所にとどまっていない。
「ねえ、今度は海の見える場所に行こうよ」
「いいですけど、前みたいに海底に潜ろうとするのはなしですよ」
サンゴでできた家があると言って、海に引きずり込もうとするのには参った。
ぼくは水に弱いとあれだけ言ったのに。
「大丈夫大丈夫
でも、早くキミも水になれたほうがいいよ?」
「なれる、なれないの問題ではありません」
水にぬれると飛べなくなると、何度言えばわかるんだ。
あと、ぼくは肺呼吸しかできない。
「やればできるって」
「無責任な応援ほど質の悪いものはありません」
「あはは」
「全く・・・」
おそらく、主のいう「家」とは、人間が定義するそれとは別物だと思う。
最初に連れてきてもらった場所のように、確かに「家」と呼べる形のものもある。
けれど多くは泉の底や、岩の隙間、大木の上とか、およそ住むことを前提に選ばれていない。
物だって、なんにもないように思えば、ぐちゃぐちゃで足の踏み場のないところもある。
「でも、どうして家なんかわざわざ作ってるんですか?
あなたは別に休む場所なんて必要ないでしょう?」
統一性のないそれらは、ぼくからすれば、どうにも必要のないものばかり。
主は、休まなくても永遠に動いていられるだろうに。
あれ?なんでそんなこと知ってるんだっけ?
「どうかしたかい?」
「…そういえば、ぼく、あなたのことほとんど知りませんよね
シモベなのに、これってダメですよね」
浮足立って歩いていた主の足が、ピタリと止まった。
「キミってまじめだよねえ」
振り向いた時、主はまたぐにゃりと姿を変えて、最初の頃の青年の姿になった。
「どうしてそこまで役目にこだわるのさ?」
「それが、ゲームというものじゃないんですか?」
覚えてなくても、これはぼくが始めたこと。
なら、ぼくが全てを終わらせなくちゃ。
そのためにできることは、なんでもしなくちゃ。
「まじめだねえ」
主は、ふう、とため息をついた。
「そんなんじゃ、いつか壊れちゃうよ
それに、キミは一つ思い違いをしている
キミが全てを選ぶために必要なことは、記憶を取り戻すことでも、全てを知る事でもない
ただ、選ぶだけ」
「じゃあ、ぼくはなにも知らないほうがいいんですか?」
「それを決めるのは、キミ自身だよ」
ニヤリと、主は笑う。
「でも、そうだなあ
1つ教えるなら、キミが記憶を失ったのは願いの対価なんかじゃない
ボクは、そんなもの必要ない
ボクは願われればなんでも、叶える
そんな存在さ」
「よく、わかりません」
「それでいいんだ」
主はささやくように、ゆっくりと歌いだした。
♪二羽の小鳥が一つの石に止まっていた
ファ ラ ラ
♫ラ ラル ドゥ
一羽が飛んでいって 一羽が残った
ファ ラ ラ ラ
♫
ラル ドゥ
「だって、ボクにもわからないんだから」
◆◆◆
自分の「大切」が相手の大切とは限らない。
自分の「くだらない」が相手も同じとは限らない。
どちらも当たり前で、忘れがちなこと。
なのに気づくことは難しい。
だから、守らなきゃ。
理解してもらえない周りに壊されないように。
「大切」は、守らなきゃ。
そのためには、くだらないものはいくら壊したっていいんだ。
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