絵描きの気持ち
ーこんにちはー
3回目ともなると、ここに来ることも少しは慣れた。
真っ暗で桃色だけが降る世界。
この薄い花びらは、どうしてか当たっても痛くも重くもない。
それどころか、少しだけ懐かしさを感じる。
「こんにちは
来てくれたのね」
花びらを流すと、すぐに声が帰ってきた。
ーやくそく ですからー
そう。これは約束。
ーあなたとも やくそく しましたからー
あの人とぼくとの、小さな契りごとでもある。
「そうね・・・」
外の世界のことを教えてほしいと、あの人は言った。
ぼくが見たもの、感じたこと、何でもいいから、話してくれと。
その代わり、ぼくの質問に答えてくれると。
でも、本当は分かってるんだ。
この向こうに、ぼくがなくしてしまったものの正体があるっていうこと。
ぼくが主に願ったことに深く関係があるっていうこと。
「ねえ、今日はどんなお話をしてくれるの?」
ーあのですねー
なら、どうしてあの人は泣いてるのかな。
願いは、叶ったはずなのに。
ーそれで ぼくの ぶんの おちゃを のんでしまったんですよー
「あらあら、それは災難だったわね」
くすくすと、笑い声が聞こえる。
よかった、ちゃんと笑ってくれてる。
花びらが落ちてこない風景はひどく殺風景。
でも、笑顔でいてくれたほうがずっといい。
見えなくても、それが一番だ。
ーそれでですねー
時間はあっという間にずぎる。
「あら、もうこんな時間」
あの人のその一言で、ハッと我に返った。
花びらの上の手がとまる。
「そろそろ、あなたは帰る時間ね」
ーそう ですねー
「そろそろ、今日の質問を聞こうかしら」
ー…ー
聞きたいことはある。
知りたいことも、あふれてくる。
話したいことも、まだまだあるんだ。
―…ぼくと あなたは どんな かんけい だったんですか?-
でもそれは、昔からそうだった気もするんだ。
「え?」
―いえ すみません なんでもないですー
ぼくは、誰だったんだろう。
それは、知らなくちゃいけないことなんだろうか。
ーいえ なんでもないですー
なにかが少し、頭をかすめた気がした。
まあいいや。
ーあのですねー
「ええ」
ああ、うん。でもやっぱり
ーあなたはー
話すよりも、聞くよりも、会うよりも
ーどんなお茶が好きですか?ー
ただ、傍にいたいと言ったら、あなたは困るだろうか。
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