表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/47

顔なし姫5

顔を隠された姫の噂は瞬く間にあちこちに広まり、様々な尾ひれがついた。

美しい者には美しい花を。

自信に満ちた多くの若者が、絶世の美しさを持つ姫を見ようと城に募った。

けれど、いまだかつて、その姿を見た者はなし。


たいていの人間は一度失敗すればあきらめるのだが、どこの世にも変わり者はいる。

ある青年だけが、あきらめ悪く姫を城の外へ連れ出そうと様々な手段を試し続けた。


そして彼は、はるか北。

荒れ地に住んでいるという、魔女の噂を耳にする。

その魔女に頼めば、どんな願いもかなえてもらえるという。


悪路を進む苦労などなんのその。


青年は、そうして荒れ地の一軒家の扉をたたいたのだ。


◆◆◆


「まあ、とりあえず、あれだね」


主はカップから口を離す。


「その、お姫様を外に出したいっていうのがキミの願いでいいんだよね」


「無理でしょうか・・・?」


頼りなさげに青年は眉をさげた。


「ん?そりゃできるけどね」


あっさりと、主は言う。


「では!!」


「でもさ」


身を乗り出す青年と対照的に主は静かな口調で聞いた。


「キミはそのお姫様を誰に出してほしいの?」


「え?」


ん?


一人静かにお茶を飲む主。

おそらくぼくと背年はそろって頭にはてなを浮かべていただろう。


「どういう、ことですか?」


ぼくの疑問を青年が口に出す。


「だーかーらー」


主はふーっと、お茶の表面に息を吹きかける。

つよすぎて 表面が波立つ以上にしずくがカップの外に飛び出してしまった。


「行儀がわるいですよ」


しずくがこっちにかかりかけて、文句を言えば


「ごめん、ごめーん」


絶対に悪いと思ってないでしょう。


「思ってるさ。

それで、話を戻すけどね、キミはそのお姫様を誰に出してほしいの?

ボク?キミ?それとも、この子?」


指をささないでください。

主がおかしなことを言うから、彼がこっちを変な目で見てるじゃないですか。


「それは、一体どういう・・・」


青年の心中は察する。


「別におかしなことを言った覚えはないよ?

だって、キミは助けたいばかりで、肝心の『誰が』を言ってないじゃないか」


「そんなの、俺に決まってるじゃないですか!!」


でなきゃこんな辺鄙なところまで来やしないだろうね。


「そっかー、だよねえ」


ケラケラ笑う主。

質問する意味、あったのか?


「いやさ、決めつけはよくないって思っただけさ」


◆◆◆


魔女の噂は本当だった。

彼はなんとかその家にたどり着き、目当ての人物に出会うことができた。

かなり風変わりな人物だったが、青年は願いの叶え方を教えてもらい、再度城に向かうのだった。


◆◆◆


「よかったんですか?」


青年が去ったあと、主に聞いてみた。


「なにが?」


「ただで教えるなんて、なんだか意外でした」


「キミはボクを守銭奴かなにかだと思ってるのかい?」


「いえ、でも、こういうのって何か対価とかもらうんじゃないんですか?

ただで教えるなんて、もったいなくないですか?」


「キミはしっかり者だねえ」


主は立ち上がり、戸棚の扉を開いた。


「これは、おとぎ話でもなんでもないよ?

薬と引き換えに声をくれだなんて言いやしないさ


そんなことよりも、さ」


主はこちらを振り向き、カップをこっちに差し出した。


「キミもいっぱい、どうだい?

さっきの口直しに、さ」


「また飲むんですか?」


主はどうやらお茶が好きらしい。


「いいじゃないか。どれだけ飲んでも毒にだなんてなりゃしないよ」


ことん、と主がカップを机に置けばいつのまにかなみなみと中身が注がれている。


「どうせ飲むなら、おいしく飲みたいしね。

ほら、早くおいでよ」


「はあ・・・」


おいしく、と言っているけど、カップの中身はさっきと変わっているようには思えない。

でも、こういう言い方をするなら、こっちのほうが上等なお茶ということなんだろうか?


「普通、いいものをお客さんに出しません?」


「シツレイな。

ボクは人によって区別なんてしないよ」


ぷくうっと主のほっぺが丸くなる。

それなら、なおさら意味がわからない。

同じなら、飲んだってなにも変わらないじゃないか。

ぼくが素直にそう言えば


「キミは風情ってものがないねえ」


あきれ顔でそう言われ


「なんでもいいから、早くおいでってば」


焦れたようにガタガタ椅子を揺らした。

全くもう。


「わかりましたよ」


カップのふちに止まって、ふと気づいた。


「あれ?これ・・・」


「気づいたかい?」


見上げれば、得意げにほんのりとほっぺたを上気させた主の顔があった。


「どうしてですか?」


ぼくは主とカップを何度も見比べる。

このカップは、ぼくなんかに出すべきものじゃない。


こんな、綺麗な桃色の花が描かれたカップはぼくにはもったいない。

こんな、高級なものは、ぼくには似合わない。


「どうしてって、そんなの決まってるじゃないか」


うれしそうに笑う主の顔は、やっぱり見た目よりも、うんと幼い。


「キミがこれを好きと言ったからさ」


「・・・」


「ここにあるものは、みんなボクのものさ。

なら、ボクがキミになにをあげようと自由。

キミがこれを好きだと言ってくれたのなら、これはキミの・・・キミ専用のカップさ」


「・・・」


ぼくは、もう一度カップの模様を見る。

ああ、やっぱり綺麗だなあ。

でも・・・


「それなら」


顔を上げ、主の目をじっと見据える。


「それなら、主も、主専用のカップやお茶をだしてください。

今、主が持っているのはお気に入りのものなんですか?」


主の持っているカップにはなんの柄もない。

青年が持っていたカップにも、だ。

棚の中にも同じものはいっぱいある。


ぼくだけが、特別なものを使っているなんて、そんなの


「そんなのは、不公平です」


「・・・え?」


しばらくの、沈黙。


主は2、3度瞬きして、まるで奇妙なものを見るみたいにぼくを見下ろした。


「・・・ふ」


やがて主は口元を奇妙にゆがめ


「うくっ・・・」


それでも抑えきれないのか、口元を片手で覆った。


「あの・・・?」


肩まで震えだして、悪いことをしたんじゃないんだろうかと不安になった頃


「キミって、意外と・・・」


「どうしたんです?」


ぶはっと、主の息が指の隙間から勢いよく飛び出した。


「意外と、まじめだねえ!!


あっははははははは!!!」


はあ?


バンバンと机をたたき、大笑いを始めた主。

ええっと、これ、どうしたらいいだろう?

いや、ほんとなんなんだ、この人。


「アハハハハハ!!」


やがて机が揺れるのあわせてカップも大きく揺れる。

ぼくは慌てて空に逃げた。


「はははははは!!」


一体、なにがそんなにおかしいんだ。

この笑いはいつまで続くのかと思っていたら


「あー、のど渇いちゃった」


いきなり、ぼくのカップをがっしりとつかんだかと思ったら、一気に飲み干してしまった。


「ああ!?」


それ、ぼくのじゃなかったの!?


「うん、おいしいね」


「おいしいじゃないですよ!

何がしたいんですか!」


「まあまあ、細かいことは気にしないでよ」


言いながら、自分のぶんも飲み干す。


「ただ、気がかわっただけさ」


「気が変わったって・・・」


本当に、よくわからない。


「よーし、それじゃあ行こうか」


頭を抱えていたら、主は立ち上がってそんなことを言う。

話が飛びすぎだよ。


「行くって、どこにですか?」


「もちろん、遊びにさ。

一緒に来てくれるだろう?」


そんなの、聞く意味もないなんえわかってるくせに。


「話に脈絡を持たせてくださいよ」


「言ったろう?気が変わったのさ」


ぼくは主様の肩にゆっくりと降り立った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ