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ひらひら
「こいし こいし」と君が泣く。
「こいし かなし」としずくが一粒。
どうしてそんなに涙をこぼす?
落ちたかけらは、もういくつ?
「こいし こいし」と君が泣く。
草木も眠る丑三つ時。
ぼくはここに行かねばならない。
あの時交わした約束のために。
「こいし こいし」
「こいし かなし」
姿も見えぬその人に、何度もなんども問いかける。
ーどうして? どうして?ー
ひらひら
ひらひら
ひらひら
ひらひらこぼすたびに
はらはら
こぼれる桃の色。
舞い落ちるそれに
広がる波紋。
「こいし
こいし」
「こいし
かなし」
落ちた桃色拾い上げ
ゆらめく水面に指をつけた。
届けたいのはただ一言。
水でなぞる頼りない文字。
ーなかないでくださいー
これは、約束の物語。
ただ、ぼくは叶えたい願いがあった。
「本当にいいの?」
「それが、ぼくの意思だから」
ぼくは、ただ、主のためにこの身をささげる。