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天才/凡人

作者: 一文字

夜のニュースである画家のインタビューが流れていた。

「昔少しだけ社会人をやっていたんだけど、ここは僕の場所じゃないって思った。自分の場所じゃないところにはいられなかったんだよ、昔から。だからすぐにやめた。そして好きだった絵を描くことに専念したんだ」ニュースキャスターは天才の偉業だとたたえた。

それを一人の少年が見ていた。彼も絵を描くことが好きだった。

天才が、自分の場所を、その能力を発揮できる場所を見つけるとそこで偉大な功績を残す。彼自身と周りの人を幸せにする。

天才じゃない人は自分の場所じゃないところに居続けて、毎日が辛いと言いながら過ごす。

少年は思った。天才になりたい。



やがて少年は青年になった。

就職という現実問題を目の前にして、彼はもう自分は天才ではなくその他大勢に分類される凡人だと分かっていた。好きだった絵を描く事も、ずいぶん前にやめていた。「将来の夢は画家になることです」と書いた小学校の卒業文集はこの前捨てた。

自分の才能では絵を描くことで生活できないと分かっていた。これから先、もう絵を描くことも無いだろうと思っていた。

天才と呼ばれる人たちを妬んだ。そのあふれる才能を思う存分発揮して、周囲からは認められ、好きな事を好きなだけやって生活できるその生き様は、とてもまぶしくてどうしても認めることができなかった。「わたしにも悩みはあるんです」という天才に、お前達は好きな事を諦めて日々生活している凡人の気持ちがわかるのか、と言ってやりたかった。

青年は思った。天才が憎い。



やがて青年は大人になり、就職して家庭を持った。都心近郊のマンションの5階が、彼の家になった。

息子は小学校4年生。地域の野球チームに入っている。将来の夢はプロ野球選手だと言っているが、父親から見てもプロになれるほどの才能は持っていない。

ある日仕事から帰ってきて玄関の扉を開けると、中から「パパ、パパ!パパって天才だったんだね!」そう叫びながら息子が走ってくる。どういう事だ、とたずねながらも息子に手を引かれてリビングに入ると、テーブルの上には一枚の絵があった。

押入れの奥からその絵が出てきた。母親に誰が書いたのかと聞くと、パパだと答えた。そんな絵がかけるなら、パパは天才だ。息子は大きな声で嬉しそうに語る。

その絵は確か、大学生の時に付き合っていた子にプレゼントした絵だった。それを完成させたあと絵を描くのをやめた、最後の絵だった。

「ごめんなさい、あなたの書いた絵、どうしても捨てられなかったのよ」彼の後ろから、妻が申し訳なさそうに、でも少し嬉しそうにそういう。

彼は息子に聞いてみた。この絵のどこが天才だと思うんだ?

「だって、すげぇうまいじゃん!しかもなんか暖かい感じもするし、教科書に載ってる変な絵よりも俺こっちのほうがいい!」小学校4年生の語彙ではその表現が精一杯なのだろう。だけどそう語る息子の目は輝いて、本当に嬉しそうだった。

ご飯にする?と聞く妻に少し一服したいんだと告げてベランダに出る。


地上5階から見下ろす街はどの家にも明かりが灯っていた。見える灯りの中には、きっと天才と呼ばれる人は一人もいないだろう。

タバコをくわえて火をつける。だけど俺達凡人だって俺達なりに、毎日を生きているんだ。それはどんな天才が起こす偉業よりも素晴らしい事じゃないか?

煙を吐きながら、今度の終末は久しぶりに絵を描いてみようかと考えていた。できれば野球をする息子の絵を描いてみたい。腕が落ちてないといいけど、と少し笑う彼に大切な家族の声がかかる。


大人になった彼は思う。自分の場所じゃない所には居続けられない天才と、自分の場所じゃなくても何とかやっていける凡人。本当に幸せなのは、どっちなのだろう。


最後の問いを思いついたのが、この話を考えるキッカケになりました。

私自身、その問いの答えがまだわかりません。



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― 新着の感想 ―
[一言] 完璧に間違っている。                     
[一言] 正直このての話を読んだことないので、感想だけで失礼します。個人的には天才側の主観も創造してほしかったなと思います。 俺は人間本当に幸せなのは天才でも凡人でもなく我が道を歩んだ先に在る物だと思…
[一言] 天才と凡人、それぞれの苦悩がよく表現できていたと思います。私も見習おうと思うところです。本当に天才と凡人、それぞれの生き方があって、どちらが良いか、わからないところですね。 ただ、場面が少々…
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