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鍋 (お題 圧力鍋)


 今、僕は学校を爆破するために爆弾を持っている。学校を爆発させたいのは教師もクラスの屑どもも嫌いだからだ。みんな殺してやりたい。最初はナイフで刺し殺す計画を考えたが、一人一人殺していくのは効率が悪い。もっと手っ取り早く、簡単に殺せる方法を考えた。そこで爆弾で爆殺するのが一番だという考えに至ったのだ。

「あれ、お前死んだんじゃなかったの」

 笑いながらお調子馬鹿の遠藤が声を掛けてきた。遠藤に媚びへつらう能なし共はクスクスと笑っていた。今に見てろ後数分後にはみんな肉塊になるんだよ。僕は全員が揃うであろう時間、一限目の始業のチャイムを合図に爆弾を爆発させる計画だった。あと十分だ。あと十分でこの屑達と、そう思いながら遠藤たちの悪戯に耐えた。

「おい、これ何だよ」

 迂闊だった。遠藤が俺の鞄を無断で漁くって爆弾を取り出したのだ。

「コイツ学校に圧力鍋持って来てるぞ。なんだよコイツ超面白いんだけど」

 遠藤は圧力鍋を高らかに揚げて、クラスのみんなに晒した。みんなは一斉に笑い出した。そう俺は圧力鍋の爆弾を作っていたのだ。

「なにこれ今日の弁当かよ」

「ビーフシチュー持ち込みですか」

「どんだけ喰うんだよ」

 遠藤たちは口々にからかった。僕は赤面した。

「え、ちょっと待って、それ、爆弾じゃね」

 吉岡というクラスの優等生が言った。遠藤たちはその言葉を真に受けることなく、一笑して流そうとした。

「いやいや、ちょっと聴けって、それ爆弾だろ」

「何言ってんだよ。勉強のし過ぎで頭おかしくなったのか」

 吉岡は遠藤たちに馬鹿にされながらも引き下がらなかった。

「知らないのかよ圧力鍋で爆弾作れるの」

 そう言うと吉岡は圧力鍋爆弾の作り方を詳細に説明し出した。最初は馬鹿にしていた奴らも、少しずつその話に耳を傾け出した。どこか説得力ある話にみんなは半信半疑の表情に変わり、やがて半数の人は不穏な表情に変わった。

「中の火薬の量ではここの教室一つは跡形もなく吹き飛ぶよ」

 吉岡は話の最後にそう付足した。

「いやいや、コイツが爆弾なんて作れるはずねーだろ」

 遠藤の圧力鍋を持つ腕は震えていた。

「いや、ネットで調べれば意外と簡単に作れちゃうよ」

「冗談だろ。なあ浩介、これ爆弾じゃねーよな」

 遠藤の問いかけにより僕はクラスの衆目を浴びることになった。みなが僕の反応に固唾を飲んだ。僕は静かに頷いた。突如、教室は狂気を帯びた。悲鳴をあげる者、狼狽する者、硬直する者、その光景はサーカスのようだった。

「外に出たら駄目だ」と僕は叫んだ。

「出入り口に赤外線センサを仕掛けた。一人でも出たら爆発する」

 もちろんブラフだ。みんな殺すためだ。誰一人として外に出しちゃいけない。

「ふざけんなよ。お前何がしたいんだよ。何してるのか分かってんのかよ」

 遠藤が怒鳴る。彼の表情は怖くなかった。怯えからくる怒りの表情だった。僕はそのうろたえた姿が滑稽で笑い出しそうになった。

「こんな事して、それが爆発したら君も死ぬんだぞ」

 吉岡が言った。愚問だ。優等生すぎて僕の崇高な理念が理解できないんだろう。

「僕は考えた。憎い君たちをどうやって殺すのか。何日も何日も考えた。そんなある日彼女の言葉で僕の考えは変わったんだ」

 僕は西山を指差した。彼女は困惑した表情をした。

 数日前に彼女は遠藤たちと一緒に笑いながら僕に言った。

「虐められる側に問題あるんだよ。根暗すぎる」

 この言葉に僕は反省した。僕が虐められるの根暗だからなんだと、そして根暗じゃなかったらみんなと仲良くなれたかもしれないと思った。

「そして、僕はみんなと仲良くなる方法を考えた。人と仲良くなるには共通点を見つけるのが良いらしい、みんなと僕との共通点は死だ。死は平等に訪れる。さあ、みんな一緒に死のう」

 怒号、嗚咽、悲鳴、それぞれが僕には和気あいあいとした授業前の団欒に聴こえた。このクラスは一つの鍋を囲って、一つに纏まったのだ。

「あと十秒だ。あと十秒でこの屑達と仲良しになれる」

 僕は天を仰いだ。始業のチャイムと同時に屑教師が入室する。炸裂音がチャイムの音を掻き消した。僕たちは一つになれた。

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