ブラタリアマン
ブラタリアマン (お題 症候群)
物語は最高潮から始まる。最近のアクション映画で例えるなら・・・最近のアクション映画は最初から最後までクライマックスみたいで一体どこからどこまでが見せ場なのかよく分からんな。起承転結の結の部分だけ語ろうと思う。ちなみに結は仏教では煩悩を指すらしい。
「動くな、動くとこいつの命はないぞ」
俺はとあるマフィアの一派に身元を偽り潜入していた。そんで面倒があって途中で身元が割れてしまった。今ドンパチした末にボスを追いこんだ。は良いが、諦めの悪いボスはなんと俺の恋人の紗希を人質に取っていた。
「仲間は全員殺した。もう諦めろ」
「うるせー」
紗希のか細い腕を拘束し、こめかみに銃口を押しつけ、強引に引き摺りながら建物の外を目指した。紗希はホラー映画のパッケージみたいな顔で怯えていた。
「車で逃げる。お前の車の鍵を寄こせ」
出口の近くまで来ると下卑た声で言った。
「早くしろ」
「自分の車で逃げれば良いだろ」
「追ってくるだろ。こいつを殺されてーのか。大人しく鍵を渡せぇ」
紗希のこめかみに強く銃口を突きつけた。紗希は短い悲鳴をあげた。
「渡したら、恋人を解放してくれるんだな」
「ああ、してやるよ」
「信用できない」
「信用しろよ」
潜入していたこの一年間、俺は他所のマフィアとの抗争でコイツが汚い手を使うのを嫌というほど何度も見てきた。映画でもここまで下衆な奴はいないだろう。
「いや、今までお前の汚い手を散々間近で見てきたからな。信用しろとか無理だ」
「この女、殺されてーのか」
「一つ訊きたい。その拳銃。弾、空だろ」
「か、空じゃねーよ」
鼻孔がピクリと動いた。これは嘘を吐いている証拠だ。銃撃戦で弾を使い切ったのだろう。コイツは某操り人形並みに嘘がつけない体質だ。
「じゃあ、こうしよう拳銃渡すから彼女を解放しろ」
「それじゃ意味ねーだろ。そ、それに拳銃は空じゃねーっての」
また鼻孔が動いた。俺は嘘を確信すると、仕舞っていた拳銃を取り出した。
「この拳銃には弾が一発しか残ってない。今から放り投げるから彼女を解放しろ。そんで拳銃を手に入れたら、どっちか撃てばいい」
紗希は目を丸くした。不安の表情でも彼女は美しい。命を懸けるだけの価値がある女だ。
「大丈夫だ」
俺は紗希の目をじっと見つめて言った。もしアイツが撃っても自身が盾になる。相手との距離はあるが高く放り投げれば、間合いを詰める時間は作れるはずだ。
「おし、行くぞ」
「待て、信用できない」
アイツは急に冷静な声になった。
「は、何言ってるんだ」
「お前とこの一年間、お前が汚い手を使ったのを一杯見てきた。そういう所を買っていたんだがな。だから信用出来るか。まして一年も仲間に嘘吐いてきた奴なんかな」
お前に言われたくねーんだよ禿。ぶっ殺すぞ。
「あ、どうした。それで撃てばいいだろ。そうだよこの拳銃は空だよ」拳銃を放り投げ、紗希を盾のように突き出した。「ただ少しでも外せばこの女に当たるからな」
卑劣な奴め。女を盾にしやがって、腐ってやがる。
「俺の愛人殺したのお前だろ。何でだ。口封じのためか」
ああ、あの娼婦か。色々と嗅ぎまわってて、潜入がばれそうになったからな。狡猾な売女だった。
「そうだよ」
「やっぱりお前か。何であんな惨い殺し方したんだ。酷い酷すぎる」
うっせーなぁああああ。あーマジでイライラするわ。愚痴愚痴言いやがって。破裂音がした。窓ガラスの破片が飛び散り、同時に黒い影が屋内へ飛び込んできた。
「なんだ」
「あれは間違いないブラタリアマンだ」
ブラタリアマンとはゴキブリをモチーフにしたヒーローのことだ。
「うわぁ、なにあの動き。キモい。超キモい」
紗希はウンコでも喰わされた表情で言った。シャカシャカと動き回り敵を翻弄するあれはブラタリアマンウォークである。
「住民から通報を受けてやって来ました。どうやら間に合わなかったようですね」
動き回るのを止めると、ジッと一カ所に留まりこっちを凝視してきた。
「内ゲバですか」
「とりあえず呼んでないから帰ってくれないか」
「そうですか」
ブラタリアマンは肩を竦めると、悲しそうに背を向けて歩き出した。
「おーい、待ってくれ。硬直状態なんだ。どっちかに味方してくれ」
「私は正義の味方なので。どちらの肩も持たない。失礼する」
「金なら幾らでも出すぞ。なあ協力してくれ」
「私の正義は金では買えない」
振り返りもせずに言った。
「おおお、じゃあお前が正しいと思う方に味方してくれ」
ブラタリアマンは立ち止まり、振り返った。仮面のせいで表情が分からない。
「オッケー、ごほん、劣勢の方に協力しよう」
声が一瞬素に戻ったぞ。何だ、今の軽薄な声は。
「劣勢なのは俺の方だ。見て分かるだろ」
女を盾にしながら言っても説得力ないだろ。ブラタリアマンは首を傾げ、触手を左右に動かした。
「その女性は味方なのですか」
「違う。この女は人質だ。俺の仲間は全員やられた。二対一だ。俺の方が劣勢だろ」
「分かりました」
ブラタリアマンはアイツの方に向かって歩み始めた。いや、有り得ない理屈だろ。しかし、近くまで寄ると拳を繰り出した。アイツは数メートル殴り飛ばされた。
「クソ、なにをする」
起き上ってから罵倒した。
「民主主義では多数派が正義です。こっちの味方をします。さあ、お譲さん今のうちに彼の元へ」
「おかしいだろ」
と叫ぶ途中にブラタリアマンの強力なキックがアイツの顔にめり込んだ。ヤバい容赦ない。俺は紗希を抱きしめた。紗希は俺の胸元で涙した。我慢していたんだろう。強い女だ。
「社会のゴミめ。死ね。おら、死ね」
「や、止めてくれ」
ブラタリアマンの攻撃は執拗に続いた。アイツの顔は腫れあがり、肉団子のようにボコボコになった。あれでまだ意識があるのか、見ていられない。
「もう、止めてくれ。やりすぎだ」
「止めないでもらいたい。再起不能になるまで懲らしめなくては」
「じゃあ、これで留めを刺してくれ。こんなに痛ぶる必要はないだろう」
俺が銃を手渡そうとすると拒否した。
「そんな残酷な武器で殺すなんてあり得ない。原始的な方法で殺すのがコイツのためだ」
「意味が分からない。とにかくもう勘弁してやってくれ。これで殺してくれ」
ブラタリアマンは渋々拳銃を受け取ると、それをアイツに手渡した。しまった騙された。
「敵を欺くには、まず味方からです。さあどちらかを撃ち殺して」
銃声が響いた。同時にブラタリアマンは頭から倒れこ、持ち堪えた。
「私のブラタリアマンボディには銃器は効果がないのだよ。おしかっ、ぐはっ」
血を吹いて倒れ込んだ。ブラタリアマンが死んだことを確認すると俺は紗希と一緒にその場を後にした。




