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8 不穏な影

「おい、神崎ー、いたら返事をしろー」


 誰もいない教室で叫ぶ。

 突然切れた電話。

 心配になった俺は学校へと戻ってきたのだ。


「誰もいないか……」


 神崎がひっくり返していた机やロッカーがすっかり元に戻っている。

 電話を掛ける前に直したのだろうか。


 連続失踪事件がどうとかって言ってたよな。

 そもそもいなくなった生徒の机やロッカーを調べて何を探していたのだろう。


「……特に変わったものはないなあ」


 俺も念のため調べてみるが、特に気になるものは見つからなかった。

 神崎は一体何を見つけたんだ。


 いや、神崎のことだ。

 面白いから、と俺をからかっているのかもしれない。


 今も隠れて俺の様子をうかがっているのかも。

 そうだ、きっとそう。

 神崎のことだから、俺を驚かそうとしているに違いない。




 ――その時だった。

 後ろから、足音が近づいてくる。


 神崎か?

 俺が振り返ると――。


「こら、何をしている」

「に、西崎先生……」


 隣のクラスの担任の西崎先生が険しい顔をして立っていた。

 手には何やら懐中電灯のようなものを持っている。


 まだ暗くなってもいないのに?

 それにこんなところで何をやっているのだろうか。

 見回り?

 それとも――。


「佐藤先生から話は聞いただろう? 危ないからお家へ帰りなさい」

「あ、あの……神崎を見かけませんでしたか?」

「神崎? 見てないな。神崎がどうかしたのか」


 神崎が電話をかけてきた場所は、この教室じゃなかったのかな。

 どうしよう、先生にも話して一緒に探してもらったほうが……。


 あれ?

 なんか先生の持っている懐中電灯がほんのり赤く染まっているような?

 ま、まさか――。


「いえ、なんでもないです。すぐに帰ります」


 俺はそう言い残して、急ぎ足で教室から飛び出した。




「ハァハァ……」


 見間違い……?

 いや、あれは確かに血だ。


 もしかして、神崎を襲った犯人は――。


「うわぁ!」


 後ろを振り返りながら走っていたせいか、目の前から歩いてきた誰かとぶつかってしまう。


「んもう、急に飛び出してこないでよ。廊下は走らないって習わなかったわけ?」


 ぶつかったのは同じクラスで学級委員をしている白井だった。

 白井は、俺とぶつかった拍子にばらまいたプリントの束を拾い集めている。


「ご、ごめん。そんなことより大変なんだ。西崎先生が……白井、ちょっとこっちへ!」

「きゃあ、ちょっと何すんのよ!」


 白井の手を引っ張り空き教室に隠れる。


「しー、静かに」

「あのね、夏野君。いくら私が可愛いからって学校でそういうのは困るわ。これでも私は学級委員なんだからね」

 

 ……?

 顔を赤らめて髪を整えながらおかしなことを言い出す白井。


「何を言ってんだよ。ほらみろ、西崎だ。俺を追って来たんだよ」

「どういうこと? 先生に怒られるようなことでもしたの?」


 教室の中から隠れて様子をうかがう俺たち。

 西崎は、廊下にぶちまけられているプリントを拾い上げ、驚いたような表情をした。


「あー、私のプリントが!」

「声を出すなってば。気付かれたら殺されるぞ」

「こ、ころ!? 何よそれ。どういうことなのかちゃんと説明しなさいよね!」

「ば、バカ! 声が大き……」


 しまった、気付かれた!

 西崎がまっすぐ、この教室に向かってくる。


 どうしよう、窓から逃げようにもここは三階だし……。

 ガチャ。


 白井が教室の鍵をかけた。


「おお、その手があったか! ん、どうした白井?」

「うーん、ちょっと予定とは違うけどまあ良いかー」


 そう言いながらニコッと微笑む白井。

 そして、白井は俺の手を握りながらこう言った。


「ねえ、夏野君。異世界に行ってみたいと思わない?」

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