70 桜の木の下で
「よう海斗! お前がこんなところに来るなんて珍しいな」
冬休みも終わり、学校が始まったある日のことだった。
校舎の裏庭にある桜の木を眺めていると、涼太が声をかけてきた。
「桜、早く咲かないかなって思ってさ」
俺がそう言うと、驚いた顔をしながら無言で俺の額に手を当ててくる涼太。
「良かった、熱はないみたいだな」
「なんだよ、そんなに俺に似合わない発言だったか?」
「そりゃそうさ。風情と縁のなさそうな顔してるもん」
「どんな顔だよ」
俺は涼太の手を払いのけながらふっと笑う。
「ハハハ、でも海斗も元気になったみたいで良かったよ」
「何言ってんだよ、俺はいつだって元気じゃないか」
「いやいや、身体じゃなくてココだよココ」
そう言いながら涼太は胸をトントンと叩く。
「まあ事件のことで色々と思い悩んでたのは事実だよ」
「だろう? お前ってばいつも一人で抱え込むからな。俺も美穂も心配してたんだぜ?」
俺は誰かに迷惑をかけまいと必死だった。
自分のことは自分で解決するのが一番だって。
そう思ってた。
でも違うんだ。
誰かを頼ることは悪いことじゃない。
奈央がそれを教えてくれた。
自分は一人じゃないんだって。
「もっと俺たちを頼ってくれてもいいんじゃないか? 俺たち親友だろうが」
「ぷ、アハハハ」
「おいおい笑うなよー、俺がせっかく真面目な話してるっていうのにさ」
「おっと、ごめんごめん。だって涼太に真面目な話とか似合わないし」
それは涼太だって一緒だ。
みんながみんな何かに悩んで生きている。
苦しいときや悲しいとき、誰かの力を必要としている。
だからこそ助け合って生きていくんだ。
「ああ? 言ってくれるじゃねえか! 俺だって意外と繊細なんだぜ?」
「ハハハ、だな。半年前も現実から逃げて地下世界に引きこもってたもんな!」
「あ、お前、そういうこと言うか普通」
「だって事実だろう?」
「ま、そうだけどさー」
俺はもう過去を振り返らない。
どんなにつらいことがあっても、こうやって笑い飛ばせるようになりたい。
そのためにも俺は――。
「俺さ、特殊訓練兵になろうと思うんだ」
「へ、海斗が? そんなの無理に決まってんだろう」
俺だって分かってる。
こんな非力で臆病なやつが特殊訓練兵になろうなんておこがましいことだ。
だけど――。
「無理じゃねえよ。もう決めたんだ。俺は特殊訓練兵になって世界の平和を守るってな」
「世界の平和って、随分と大きくでたなおい」
「俺さ、自分の無力さを嘆いて後悔するのはもう嫌なんだ。これからは自分の力で苦しんでる人々を救いたいんだよ」
みんなが俺を助けてくれたように――。
今度は俺がみんなを助けたいんだ。
「本気なんだな」
「当たり前だ、俺はいつだって本気さ」
特殊訓練兵の道が険しいことは俺もよく知っている。
それでも、乗り越えて見せる。
こんな俺にだって、誰かの役に立つことくらいできるはずだから。
俺は桜の木のように強くなりたい。
どんなに寒い冬でも乗り越えて、誰かの心に花を咲かせられるように――。
これにて完結です。
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