69 デート
「海斗遅いよー。何やってたのもう!」
「ごめんごめん、準備に手間取っちゃってさ」
朝七時過ぎ、奈央が頬を膨らませながら腕組みしている。
奈央との初めてのデートだというのに遅刻という大失態を犯してしまったのだ。
それもこれも、朝から超ハイテンションな姉に付き合わされていたせいだ。
もっとおしゃれをしていけだの、おすすめのデートスポットだの。
聞いてもいないのにアレコレ口出しするもんだから困ったものだ。
それでも姉からデートの軍資金としてお小遣いを頂戴したため、無下にはできなかったのだ。
「フフ、フフフ」
「なんだよその笑い。変なものでも食ったのか?」
「だって、海斗と初めてのデートだもん。すっごく楽しみにしてたんだよ。昨日の夜も全然眠れなかったんだから!」
目をキラキラさせながら奈央が言う。
付き合い初めてから数ヶ月。
デートなんてしたことなかったからな。
どこか行くにも大抵、涼太や神崎も一緒だったし。
それにしても――。
「そんなにデートしたかったならもっと早く言ってくれれば良いのに……」
「だって海斗ってば、いっつも暗い顔して悩んでばっかりなんだもん。デートに誘う雰囲気じゃなかったよ!」
「あー……」
言われてみればそうかもしれない。
半年前の事件のせいで俺はすっかり塞ぎ込んでいたからな。
「これからは色んなところいって、楽しい思い出をいっぱいつくろうな」
「うん!」
奈央にはつらい思いばかりさせちゃったし、名誉挽回だ。
今日のデートは、今までの償いも兼ねているというわけだ。
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そう意気込んできたものの――。
「はうぅ奈央、少し休憩しようぜ……。ジェットコースターで酔って気持ち悪い……」
「えー、さっき休憩したばかりじゃない! せっかくフリーパス買ったんだから勿体ないよ!?」
俺はすっかりダウンしていた。
昔から乗り物酔いしやすいのだ。
名誉挽回どころかさらに失墜させてる気がする……。
「ごめんごめん、俺は休んでおくから奈央は好きなの乗ってきてくれい」
「えー、私一人でー?」
「悪いな、少し休めば治ると思うからさ」
俺がそう言って、ベンチに腰かける。
奈央は少し寂しそうに、人ごみへと消えて行った。
「はぁ、何やってんだろう俺……」
ああ、情けない。
せっかく名誉挽回のチャンスだったというのに。
奈央と楽しい思い出をたくさん作るって約束したばかりなのに。
「嫌われたかな……」
奈央に嫌われたかもしれない。
そう思うと、辛くて悲しくて苦しくて。
乗り物酔いの気持ち悪さと相まって、どんどん具合が悪くなっていく。
もうこのまま、奈央は帰ってこないんじゃないか。
そんな風にさえ思えてしまう。
と、その時だった。
「ひゃあっ!」
驚いた俺は思わず声をあげた。
突然、俺の頬に冷たい何かが当たったのだ。
急いで顔を上げると、そこには奈央の姿。
「はい、飲み物買って来たよ」
「あ、ありがとう……」
奈央が笑顔で俺に飲み物の入ったペットボトルを手渡してきた。
「あれ? 奈央、ジェットコースターに乗りに行ったんじゃなかったのか?」
「う、うん、そのつもりだったんだけどね。やっぱり一人じゃつまんないから帰って来ちゃった」
そう言って照れたように笑う奈央。
俺は申し訳ない気持ちで一杯になった。
「ごめん、ごめんな奈央。俺、いつもお前に迷惑ばかりかけて……」
俺がそういうと、ペチンとデコピンされた。
「迷惑なんかじゃないよ。私は海斗と一緒にいられるだけで、それだけですごく楽しいの。幸せな気分になれるの! だから迷惑だなんて言わないで、ね?」
そう言って、奈央が微笑んだ。
その優しさが、何よりも嬉しくて。
俺は一人じゃないんだって、そう思うとなんだか身体がポカポカと温かくなった。
「よし、ジェットコースターでもなんでも乗りまくるぞ! 俺についてこいッ!」
「え、海斗? 乗り物酔いはもう大丈夫なの?」
「平気平気ッ! せっかくここまで来たんだ。いつまでもベンチと仲良くしてるわけにも行かないだろうが」
奈央の手を引き、歩みだす。
まだ見ぬ明日に向かって――。
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――数時間後。
「うぅぅ、気持ち悪い……。目が回るウウウ」
「もうだから無理しないでって言ったのにー」
「だって、奈央が喜ぶ顔が見たかったんだもん」
俺はまた乗り物酔いでダウンしていた。
それでもさっきとは違って、なんだか気持ち悪いはずなのに凄く幸せな気分だった。




