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67 後悔先に立たず

「えー海斗お兄ちゃん、もう帰っちゃうの?」

「ごめんなレイ、冬休みも終わるしいつまでもタダで泊めてもらうわけにはいかんだろう」


 翌朝、俺の足にぴたっとくっつき寂しがるレイ。


「レイのお姉さんも無事に帰ってきたんだ。もうお前は一人じゃない、だろ?」

「……う、うん」


 ぐしぐしと腕で涙を拭いながらレイが笑って見せる。


「フフ、夏野さん。来年もぜひこの旅館に泊まりに来てくださいな。その時までに、昔のような立派な老舗旅館にしてみせますから」

「楽しみにしてますよ、サヨさん」


 レイの両親が亡くなり、寂れかけた旅館。

 その重圧に苦しんだサヨさんもようやく立ち直ったようだ。

 新たな目標を掲げ、心機一転。

 目をキラキラと輝かし、その姿は凛として美しかった。


「綾子も元気でな」

「……ら、来年……絶対に会いに来なさいよね! 約束よ!」

「おう」


 俺は後ろを向いたまま肩を震わせる綾子の頭を優しくポンポンと撫でる。

 約束なんていつ以来だろうな。



---




「すみません、色々と事件の処理に忙しいでしょうに」

「良いってことよ! ど、どうせ下っ端は暇やからな……」


 再び東京まで車で送ってくれることになった大森さん。


「今度は安全運転で頼みますよ」

「ハハハ、あんときは急いでたから飛ばしただけや。いつもは安全第一やで!」


 そういってニカッと笑う大森さん。


「しかし、海斗も寂しいんじゃないか。なにせ妹のように可愛がってた二人とお別れだもんなー」

「せやねー、カイちゃんったら別れ際も涙目やったもんね」


 後部座席からそんな涼太と神崎の話し声が聞こえてくる。

 号泣してた神崎に言われたくない。


「別に泣いてなんかないし。寂しくもないし」

「海斗は素直じゃないなあ。ワハハハ!」


 そう言って笑い飛ばしてくる涼太。

 心の底から楽しそうに笑う涼太の顔を見ていると、悩んでるのがバカらしく思えるほどだ。




---




「そない浮かない顔してどないしたんや? 事件も無事に解決したんや。それも夏野はんの活躍があったからこそやで?」


 涼太と神崎を家に送り届け、残すところ俺一人となったところで大森さんが言う。


「俺は本当に役に立ったんでしょうか……」


 今回の事件、結局のところシェリーさんだけでも解決できたんじゃないか。

 そうすれば、神崎や涼太を巻き込むこともなかった。


 そう思うと後悔せずにはいられなかった。


「なあ、夏野はん。あんた後悔しとうないって言うとったな」

「は、はい……」

「それは人として間違っちゃいない」


 車を家の前に停車させながら、大森さんはタバコに火をつける。


「せやけど人は後悔する生き物や。なぜだかわかるか?」

「選択を間違ったから?」

「ちゃうちゃう。そんなん関係ない。どんな選択をしようと、例えソレが最善策だったとしても後悔するんときはするもんや」

「そうでしょうか。最善策だったなら後悔なんてしないと思いますけど……」

「そんなことはあらへんよ。結局のところ自分が選んだ道が最善だったかどうかなんてわからんやろ? 選ばなかった道の結果はわからんのやからな」

「でも、もし俺が青木を殺していなければこんな事件起きなかったんじゃないかって、そう思うと辛いんです。俺のせいで赤坂の人生を狂わせてしまったわけだし……」


 俺の言葉に、ふうと溜息をつきながら大森さんは吸っていたタバコを灰皿に押し付ける。


「それは結果を知った後だからや。あの時、ああしておけばよかった。そう思えるのは全てが終わった後だからなんやで」

「……」

「わいらは未来を知ることはできへん。せやから、最善やと思う選択をしていくしかないんや。必死に悩んだり苦しんだりしながら、今自分にできることが何なのかを考えながらな」

「そういうものでしょうか」

「せや、人生は選択の連続や。数式と違って答えは一つやない。無限にあるんや。答えが正しいかどうかなんて誰にもわからんのや」


 その言葉には重みがあった。

 表情にあまり変化こそ見られないが、大森さんも過去を後悔するようなことがあったのかもしれない。


「せやから、後悔しないようにしようなんて無理な話なんや。そんなこと考えてたら何もできへん。結果を恐れすぎたらあかんで。過去を振り返っても過去は変えられへん。後悔先に立たずっちゅうやつや。悩むのが悪いとは言わんけど、あまり思い詰めんようにな」

「……」

「おっと、すまんすまん。話が長くなってもうた。わいの悪い癖や堪忍してな」

「いえ、なんだかすっきりしました。心のもやもやが晴れた気がします」

「そうか、それならええんや」


 突然、大森さんがこんな話をしてきたのもきっと俺が思い詰めたような顔をしていたからだろう。


「ほな、わいは大阪に帰るで」


 そう言いながら、大森さんは何かを俺に手渡してきた。


「名刺……?」

「そうや、また悩み事があったらわいがいつでも相談に乗ったるで。ほなさいなら」


 大森さんは、そのまま車で走り去っていった。

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