64 窮地
赤坂は手に持っていた銃口を自らのこめかみに押し当てる。
まずい自殺する気か?
なんとしてでも止めなければ――。
「待て赤坂!」
「私もそっちに行くよ、青木」
赤坂はそう言って、銃の引き金を引く。
その時だった――。
自殺を図ったはずの赤坂が前のめりに倒れ込む。
どうやら眠っているだけのようだ。
この部屋には、赤坂と俺以外には誘拐された被害者しかいないはず。
一体誰が――?
「危ない危ない。赤坂に自殺なんてされたらアタシがボスに殺されちまうよ」
その疑問はすぐに晴れた。
赤坂の背後にあるベッドから、ひょいと起き上がる銀髪の女。
手には麻酔銃。
どうやら被害者に紛れてベッドに身を潜めていたらしい。
「どうも様子がおかしいと思ったら、親友の復讐を企んでいたなんてねえ。さてはて、ボスになんて報告しようかしらね」
「……」
「ああ、そうそう。逃げるなら今のうちよ。アタシの気が変わらないうちに、とっととこの部屋から消え失せるといいわ」
女は茫然と立ち尽くす俺に向かって、逃げるように促す。
一体何を考えているのか。
「一つだけ、教えてほしい。お前のボスというのは、三葉幸太郎か?」
俺の問いに女は無言で俺に麻酔銃を向ける。
「そうよ? せっかく逃げるチャンスをあげたのにバカな男。眠らせて実験に利用させてもらうわ」
「それは無理な話だ。赤坂はもう実験を続けることはないだろう」
「フフ、それはどうかしら? ボスに逆らえる者なんていやしないわ」
銀髪の女は、ふっと寂しげに笑う。
「それは君自身もか?」
「どういう意味かしら?」
「本当の君は、こんなことを望んでいないんじゃないか? その証拠に、俺を逃がそうとしてくれた」
「フフ、そうだとしたらなんだと言うの? 世の中にはね、自分の力じゃどうすることもできないことが山ほどあるのよ」
「ああ、確かにそうだな。できることよりもできないほうが多いくらいだ」
「分かっているなら、これ以上口を挟まないことね。最後にもう一度だけ、忠告するわ。逃げるなら今のうちよ?」
「いいや、俺は逃げないよ。撃ちたければ撃てばいい」
「……」
もし俺が逃げたらどうなるか。
この女性がボスと呼ぶ三葉幸太郎に消されてしまうかもしれない。
女は黙ったまま動こうとしない。
何かを考えているようだ。
「もし、君にも良心があるというなら、俺に三葉幸太郎の居場所を教えてくれないか?」
「その必要はない」
「なっ!?」
階段から男が降りてくる。
テレビで何度も見たことのある顔。
急成長を遂げた三葉グループの社長、三葉幸太郎だ。
俺の気付かないうちに、この女が連絡を取っていた?
いや、それはない。
この女は麻酔銃を両手で構えていた。
それなら何故、このタイミングで三葉幸太郎が現れた?
最初からこうなることを予測していたのだろうか。
それとも――。
「加藤サクラよ、ワシの命令に逆らったらどうなるか分かっておるだろう?」
「は、はい……申し訳ございません……」
三葉の問いに女は肩を震わせながら答える。
「なるほど、監視カメラか……俺たちのやり取りを見ていたんだな」
「その通りだ。これ以上、ワシの実験の邪魔はさせんよ。さあ、サクラよ、早くその銃でそいつを眠らせるのだ。そうすれば、今回の件は不問にしよう」
「……」
サクラは再び俺に向かって麻酔銃を構えた。




