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63 それでも俺は

「……ほらほら、どうした!? 早くしろよッ! お仲間の命がどうなっても構わないというのか!?」


 赤坂が煽るように言う。

 しかし、俺はメスを握ったまま動くことができないでいた。

 メスを持つ右手がぷるぷると震える。


 死ぬのが怖いわけではない。

 神崎が救えるのならば、このまま死んでも構わない。


 しかし――。


「できない……俺にはできないッ!」


 俺はメスを地面に落としそう叫ぶ。

 赤坂の顔つきが変わる。


「はん、所詮は口だけの人間か。やはり自分の身が可愛いってことなんだな」

「……違う」

「何が違うと言うんだ。お前は結局、自分が助かりたいだけだろう!?」

「…………違うッ!」

「口では何とでも言えるさ」

「俺は、ずっと後悔していた……」

「ほう……命乞いか? 今さらそんなことを言っても私はお前を許したりはしないぞ」

「許されなくても構わない……だが……俺はまだ死ぬわけにはいかない」


 俺にはまだやるべきことがある――。


「はっ、ハハハ! 何を言うかと思えばまだ死ねないだと?」

「ああ、そうだ。俺が死んだら救えなくなる人がいる……」

「何を言う、神崎のことならちゃんと助けてやるぜ。男に二言はない」

「そうじゃない。ここにいる人たちはどうするつもりだ? 実験に利用し、そのまま使い捨ての駒のごとく切り捨てる気なのだろう?」


 約束したんだ。

 レイの姉を救い出すって。


 今、目の前に助けられる人がいる――。


 それを見捨てることなどできないッ!

 この状況で死んだら俺は絶対に後悔するッ!


 だから――ッ!


「く、クククッ……」

「何がおかしいッ! お前は間違っている。こんな罪もない人々を誘拐し、実験に利用するなんて……」

「罪もない……? ハハハ、お前は何か勘違いをしているようだな」

「なんだと!?」

「こいつらが何故、この病院に運ばれてきたかを知っているか?」

「……ッ!?」

「ふ、フフフ……特別に教えてやろう。こいつらはな、自殺未遂で運ばれてきたんだよ!」

「自殺未遂!? バカな! レイの姉がそんなことするわけが……」

「他人に何がわかるというのだ? 人間なんて弱い生き物なんだよ。一見、幸せそうにしていても心の中では何を考えているかなんてわからないものなのさ」


 赤坂のその言葉が俺の胸に深く突き刺さる。


 あの涼太でさえ、心に闇を抱えてた。

 異世界に逃避したくなるほどに。

 神崎だってそうだ。

 強くて明るくて何にだって前向きな神崎が、倒れるくらいに思い詰めていた。


 それに俺は気付けなかった。


「こいつらは自らその命を絶とうとした人間さ。だから優しい私が有効活用してあげてるのだよ。感謝してほしいくらいだね……ククク」


 信じられなかった。

 信じたくなかった。


 ここに居る数十人。

 若い人も大勢いる。


 その人たちが自殺未遂をしたなんて。


「ククク、だからこいつらのことを気にしているのなら、お前が気に病む必要はない。安心して死ぬがいい」

「……」


 俺がしようとしていたことは間違っていたのだろうか。

 例えこの人たちをここから救い出しても、明日には死んでしまうかもしれない。


 それは救ったことになるのか?

 ……分からない。


 心が揺れる。


 俺はどうするべきなのだろうか。

 いくら考えても答えがでない。


 だけど――。

 

「それでも俺は……この人たちを救うッ!」

「は、ハハハハ! 何をバカなことを……自ら死のうとしてる人間をどうやって救うと言うのだ」

「バカなのはお前だ赤坂ッ! お前は、医者だろう!? 何故、人を救う立場の人間が真っ先に諦めてるんだよ! 医者ってのは怪我や病気を治すだけなのか!? 違うよな? 心の病も治してこそ、本当の医者だろう!?」

「……」

「お前は医者失格だ。この実験を成功させ、たとえどんな怪我や病気を治すことができるようになっても、お前は誰一人として救うことができないただのやぶ医者だ! なぜならお前は……、一番大事な人の心をないがしろにしているからだッ!」

「……は、ハハハ! 黙って聞いていればお前みたいなガキがこの私に説教だと!? ふざけるなッ! 貴様に何が分かるッ!」

「ああ、分からないさ。俺は何も分からない無力な人間さ! だけどな、俺はお前とは違うッ! 俺は、分からないなりに涼太を救おうと努力したッ! お前は、苦しむ青木に何をしてやれた? お前なら青木を止められたはずだ。あんな実験を繰り返す前に、青木を止めることができたはずなんだ! 違うか!?」

「ぐ……違う。わ、私は…………」


 青木は根は優しい人間だった。

 たった一人の女性を救うために、道を踏み外してしまった。

 ただそれだけなのだ。 

 

「青木のやろうとしたことは正しいなんてとても言えない。青木のせいで多くの人間が死んだ。俺の同級生も数多くな。俺はそのことを必死で忘れようとしていた。でも忘れちゃいけなかったんだよ。お前は、その悲劇を繰り返すのか!? 自殺未遂をしたからといって、そいつらを救おうとせずに実験に利用し続けるというのか?」

「う、うぅ……私は、私の夢は人々を救うこと…………」

「だったら、今すぐにこの実験を中止するんだ!」

「……ふ、そうだな、終わりにしよう。私は間違っていたようだ……」


 赤坂は、蚊の鳴くような声でそう呟く。

 そして、手に持っていた銃口を自らのこめかみに押し当てた。

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