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59 笑顔が見たいから

「どうした涼太! 誰かに襲われたのか?」

「いや、違う……と思う。部屋の片付けをしていたら、美穂が突然倒れたんだよ」


 涼太が神崎を抱きかかえながら、必死に呼びかける。

 しかし、神崎は意識を失ったまま返事をしない。


「おおう、なんてこった。これも実験の副作用なんか?」

「いえ、熱はないみたいです。それに美穂は実験に利用されていないはず……」

「そうか……すぐに救急車を呼んだるから待っとれや」

「はい、お願いします」


 ばたばたも慌ただしく部屋から出ていく大森さん。

 しばらくして救急車が到着し、神崎は病院へと運ばれることになった。




---




「あれ、うちどないしたんや?」

「お、気が付いたか。全く心配かけやがって」

「カイちゃん? ここ、どこや……?」

「三葉病院だよ。大森さんの家で倒れたの覚えてないのか?」

「う、うん……」

「ハハ、そんな顔しなくても大丈夫だよ。ただの寝不足だってさ」


 数時間後、神崎は無事に意識を取り戻した。

 特に目立った後遺症もなく、しばらく休めばすぐに退院できるそうだ。


「こんなことしてる場合やない。早く事件を解決させな……」

「おいおい、無理すんなって。涼太と大森さんは買い物に行ってるから、そこでしばらく休んでろって」

「う、うぅ……」

「どうした、神崎!? おい、泣くなって。俺何かおかしなこと言ったか?」

「……うちのせいやねん」

「……?」

「二人が事件に巻き込まれて危険な目にあったんも、元はと言えばうちが黙って大阪に来たからや。シェリーの言う通りや。うちはみんなに迷惑かけてばかりや。ほんまにうち役立たずでごめんな……」


 神崎が絞り出すような弱々しい声でそう言った。

 いつも元気で、前向きで、何かあったら怯むことなく突っ走る神崎。


 その神崎が見せた意外な一面。

 目を真っ赤にはらしてひたすら俺に謝ってくる。


「何言ってんだよ。俺は自分の意思で大阪に来た、それだけさ。神崎のせいなんかじゃないよ」

「ありがとう……カイちゃんはいつも優しいなあ」

「……」


 優しくなんてない。

 俺は――。


「なあ、カイちゃん。うちのこと嫌いになった?」

「……? なるわけないだろ」

「それならええんやけど……」

「なんだか神崎らしくないなあ。寝不足みたいだし、昨日は眠れなかったのか?」

「……ずっと、事件のこと考えてたんや。こんなうちでも何かの役に立てるんちゃうかと思うて大阪まで来て、それでも何もできへんかった。それが辛くて悲しくて。何もできない自分が許せなくて……。ずっとずっと苦しかった」

「神崎……」


 ああ、そうか。

 俺は勘違いしてたんだ。


 神崎は俺とは違ってずっとずっと強いやつだと思ってた。

 でも本当は――。


「うちな、小さい頃に両親が離婚してな。ずっと自分を責めてた。うちのせいで両親が離婚したんじゃないかって。そんときからや、不安なときに何かをしてないと落ち着かんようになってしもたんや」


 俺と同じなんだ。

 悩んで苦しんで、後悔して。

 それでも、自分に何かできないか必死に考えて。


「半年前の行方不明事件のときもそうや。涼ちゃんがいなくなって、不安で不安で押しつぶされそうになって……」


 だからあの時、涼太を探そうと必死になっていたんだ。


「あ、ごめんな。変な話しちゃって。うちいつもこうやねん。一人で突っ走って周りに迷惑かけて……」

「迷惑なんかじゃない……ッ! 神崎は、間違ってないよ! 半年前だって、神崎がいなかったら涼太は救えなかった! だから迷惑だなんて言うな!」


 何故か話を聞いている俺のほうが感情的になってしまった。

 今の神崎が自分を見ているようでつらかった。


 神崎は俺に憧れだった。

 理想だった。


 だからこそ、神崎はいつものように笑っていてほしかった。

 そう思うのは俺のワガママなのだろうか――。

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