表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/71

6 朝の出来事

「よう、海斗! お前が遅刻だなんて珍しいな」

「涼太!? お前、無事だったのか」

「何言ってんだよ、おかしなやつだな」


 俺が学校に着くと、机に伏していた顔を上げてヘラヘラと笑う。


「なんだよ、心配かけやがって」

「……? そんなことよりさ、宿題見せてくんない?」

「なんだよ、またやってないのか? いい加減、自分でやれよな」


 そう言いながらも、顔はほころんでいた。

 

 いつもと同じ日常が戻ってきたのだ。

 退屈でありきたりな日常が。


 でもそれが何よりも大切だということに気付いたのだ。

 それなのに――。


「わりぃ、海斗。オレ、異世界に行くことになったんだ」

「は? 何言ってんだよ、涼太」


 ガタンと席を立ち、教室から出ていく涼太。

 俺は慌てて追いかける。


 走って、走って、走り続けた。


 それなのに、涼太に追いつくことができない。

 それどころかどんどん距離を放されていく。


「待てよ、涼太! どこ行くんだよ。おい、涼太ぁあああ!」


 必死に叫ぶ声が虚しく響き渡っていた。

 そして、そのまま俺は暗闇に飲み込まれた。


 えっ?

 

 なんだよこれ。

 まさか、俺も異世界に召喚された――?


 見渡しても何もない。

 全てを飲み込んでしまいそうな暗闇だけが続いている。

 どこまでも、どこまでも――。


「なんだよここ……」


 身体は宙に浮いていて、力がはいらない。

 暗闇の世界で一人きりだ。


 漠然とした恐怖が俺を襲う。


 もう元の世界には帰れないのかな?

 この暗闇の世界で、俺は一生このままなのかな?


 ――そんなのイヤだ。



「助けて……誰か助けてくれッ!」


 必死でそう叫ぶ。

 叫んで叫んで叫び続ける。


 その声も暗闇に一瞬で飲み込まれていく。


 もう声は届かない――。

 誰も助けにこない。


 このまま、ずっと――。




「――海斗!」


 諦めかけた次の瞬間。

 懐かしい声が脳裏に響き渡る。


 それと同時に、ゴツンと頭に衝撃が走った。


「早く起きなさい! 遅刻するわよ!」

「ふぇ? あ、あれ……? 夢?」


 気付くと俺はベッドの上に転がっていた。

 目の前には、おたまを片手に仁王立ちする母。


「母さん……だよな?」

「何を寝ぼけてるの、早く支度しないと本当に遅刻するわよ」


 頭が働くまでに時間がかかる。

 

「夢で良かった……」


 ぼそりと呟いて、一息をつく。

 冷静になって時計を見ると――。


「うわっ、もう8時じゃん! やっべ、遅刻するっ!」


 慌ててベッドから跳ね起き制服に着替える。

 そして、勢いよく階段を駆け下りる。





「もう母さん、なんでもっと早く起こしてくれないんだよ!」

「何言ってんの、もう3回も起こしたわよ」


 真剣な表情でワイドショーを眺める母に文句を言いつつ、顔を洗う。

 おかしな夢のせいで、体中が汗でびっしょりで気持ち悪い。

 シャワーを浴びたいが、そんな時間はない。


 朝ごはんの食パンを片手に、急いで玄関に向かった。


「海斗、最近おかしな事件が多いみたいだから気をつけなさいよー」

「お、おう、行ってきまーす!」


 ああもう、せっかく今まで無遅刻無欠席だったのに!




 急いで学校に向かう。

 しかし、こういう時に限って信号は赤ばかり。


 俺は焦っていた。

 遅刻しそうになったということもあるが、あのおかしな夢のせいで冷静な判断ができなくなっていた。


 急いで左右を確認すると赤信号のまま道路へと飛び出した。


 しかし――。

 けたたましいブレーキ音が鳴り響く。


 うそ、だろ……?




 振り返ると、大型トラックが猛スピードで迫ってきていた。

 だめだ、轢かれる――。




---




「あれ、俺、生きてる?」

「危ないじゃないか。赤信号なのに飛び出すなんて」


 気が付いたら俺は、道路脇の縁石の上に居た。

 俺のすぐ傍にはスーツ姿の見知らぬ男性。


 よく見るとスーツがぼろぼろになっていた。


「あっ、ありがとうございます。ごめんなさい、俺のせいで、スーツが台無しに……」

「良いんだよ、これくらい。君が死なずに済んだんだから安いもんさ」


 そう言ってニコッと微笑んだ。


「あの、お名前を……、スーツ弁償するんで……」

「気にしないでいいよ。おっと、ごめんよ、会社に遅れそうだからもう行かないと」


 俺を助けてくれたヒーローは名前も告げずに颯爽と町の中へと消えて行った。

 その後ろ姿をいつまでも眺めていた。


「あっれー? 地べたに座ってどうかしたん?」

「か、神崎!?」

「なんや、転んだん? 制服、めっちゃ汚れてるやん」

「あ、えっと……あーっ!! こんなことしてる場合じゃねえ、遅刻遅刻ーっ! おい、神崎! 何をのんびり歩いてんだよ。もうチャイム鳴るぞ!?」

「ええやん、別に。人生急いだって良いことなんてなんもないんよ? ゆっくりいこうや」


 急ごうとする俺とは対照的に、のんびりとマイペースで歩き続ける神崎。


「そ、そうだな。また事故ったらシャレにならんし……」

「んー? なんか言うた? カイちゃん、もっと大きな声で話してくれんとよう聞き取れないねん」

「いや、別になんでもねえよ」


 神崎はどうしてこんなに肝が据わってるんだよ。

 同じ高校生とは思えないぞ。




---




「お、良かった。まだホームルーム始まってなかったのか」

「だから言うたやん? 焦んなくても平気やて」


 教室に着くと、とっくにチャイムは鳴っているというのに担任の姿はなかった。

 ラッキーと思いつつ、席に着く。


「海斗、どうしたの、その服……」


 奈央が駆け寄ってきた。


「あー、ちょっと途中で転んでな」

「大丈夫なの? 怪我は?」

「そんな心配すんなって、大丈夫だよ。どこも怪我してないって……ん? 奈央、どうしたんだ?」


 奈央の様子が変だ。

 手が震えて今にも泣きだしそうにしている。


「すごく、怖かったんだからね。海斗、遅刻なんてしたことなかったのに、なかなか学校に来ないから……。もしかしたら、海斗も異世界に召喚されたんじゃないかって……」

「え、あ、あー、ごめんごめん。悪かったよ、だから泣くなって。な?」

「うぅ、ぐすん、泣いてなんかいないもん」


 どっからどう見ても泣いてますが。

 昨日の今日だもんな。

 連続失踪事件なんて物騒な事件も起こってるし、奈央が心配するのも無理はない。

 こいつは昔っから心配性で泣き虫で――。


「よしよし、心配かけて悪かったな」

「……」


 よしよしと奈央の頭を撫でた。

 小さかった、あの頃のように――。


「ん、どうした? 俺の顔に何か付いているか?」

「ううん、な、なんでもない!」


 奈央は恥ずかしそうに、自分の席へと戻ってしまう。


 そこでようやく俺は周りの視線に気付いた。

 俺と奈央のやり取りをクラスの連中に見られていたのだ。


 は、恥ずかしい――。


 佐藤先生、頼む早く来てくれ。

 俺は、心の中でそう願ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ